■第9話 予知能力
なぜかしんみりした空気になっているが。
とりあえず、ここに呼ばれた理由を確認したい。
「そのお話は理解いたしましたわ。ですが、その者を見つけた後はどうなさるおつもりなのですか?」
「そうですなぁ。陛下と今後の対策をお話ししようと思ったんですがのぅ……陛下?」
オルクスの方を見ると……頭がカクン、カクンと揺れていた。
間違いなく寝てるな。
この空気の中寝るとかどんな神経してるんだよ!
……こいつ。
ただ公務さぼりたくてここに来ただけなんじゃないのか?
「あのっ、陛下」
フィオナがオルクスの方へと声を掛ける。
すると、ビクッと肩を震わせオルクスが目を開く。
「ゴホン……うむうむ、今後の対策についてだったな」
いや、お前絶対話聞いてなかっただろ。
「よし! ここはひとつアリスちゃんに任せてみようと思う。なにせお前は儂の後を継いでこの国の女帝となるのだからな。ハッハッハー」
おいおい、こいつ娘の私に全部丸投げにするつもりかよ!
だいたい女帝ってなんだよ。
初耳だわそんな単語!
帝位なんて弟のシオンにでも継がせりゃいいだろ。
私はそんなもん継ぐ気はねぇんだよ。
――あと、アリスちゃんって呼ぶのやめろ!
「あっ、あの……陛下……私に、その任は少々荷が重いかと存じますがぁ」
アリスが必死に表情を取り繕いながら、なんとか綺麗なお姫さまを演じているとフィオナから提案が出る。
「あの、姫さまの予知能力でクレアがいつ何処に現れるか予知できませんかのぅ」
「いえ、私の予知能力はそんな便利なものではありませんので……」
アリスの予知能力は狙った未来をピンポイントで見れるような便利なものじゃない。ふとした時に、未来で起こる事象がたまに頭に浮かぶだけだ。
正直、使っている本人ですらよく分かっていない。
「いや、儂はアリスちゃんの能力を信じておるぞ。なにせお前はこの儂の娘なのだからな、ハッハッハー!」
――だからアリスちゃんって呼ぶんじゃねぇつってんだろ!
そんな風にオルクスの発言にイラッとするアリスであったが、これは国の一大事である、落ち着いて冷静に考えてみる。
……いや、もしかしたら出来るか?
考えてみれば今までに見えた予知は国の重大な事件に関する事が多かった。
今回は、帝国だけの問題じゃない。
下手をすれば、世界の危機だ。
予知できる可能性は十分にある。
――それに。
ふと、妙案が浮かんだアリスはわずかに俯き、ニヤッと笑みを浮かべる。
そして顔を上げ優雅に微笑んだ。
「そうですわね、出来るかは分かりませんがやるだけやってみようと思いますわ」
オルクスがうんうんと、満足そうに頷く。
予知とはやろうと思って出来るものではなく、ふとした時に頭に浮かぶものである。具体的にはリラックスしている時が多い。
――そう、なので最高にリラックスする必要があるのだ!
「ではそのために数日、自室でゆっくりしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「うむ、かまわんぞ、ハッハッハー!」
オルクスは無視してフィオナの方に目を向ける。
「はい姫さま、よろしくお願いしますじゃ」
よし、勝った!
「はい、それでは私これで失礼させていただきます」
アリスはスカートの裾を持ち上げ華麗に一礼しながら、心の中で邪悪な笑みを浮かべながらフィオナの部屋を後にする。
◇ ◇ ◇
自室に戻ってきたアリスは、ベッドにダイブした!
「ヒャッホォォォォー!」
ぼふんっ!
皇女とは思えぬ歓声と共に、柔らかな音が響いた。
「これでしばらく引き籠れるぜー。あっ、モニカー今日のお茶会キャンセルな!」
「アリスさま、そのお召し物のままベッドに入ってはいけませんよ。服が皺になってしまいます。」
「いいじゃんかよー、ようやく大手を振ってゴロゴロ出来るんだぜー」
そう言いながらアリスは枕を抱きしめてベッドの上でゴロゴロと転がっていた。
「後でちゃんと着替えてくださいね」
「へーい」
「はぁ。それでは、わたくしはお茶会キャンセルの連絡をしてまいりますので」
その言葉を聞いてアリスはガバッと起き上がる。
「あっ! 後でお茶とお菓子も持ってきてー」
「はいはい、畏まりました」
モニカは軽くため息をつきながら、一礼して部屋を出て行った。
「さてー、せっかく出来た休日だからのんびりさせてもらおうかなぁ」
扉が閉まると、アリスは再びベッドへ沈んだ。
「お茶飲んでー、お菓子食べてー、本も読みたいなー……ん!?」
仰向けに寝転がった、その瞬間――フワッと映像が頭の中へ流れ込んでくる。
森の中で魔獣と戦う騎士たちの姿が浮かぶ。
そして、それを助けに入る黒髪に赤い瞳の少女。
いつもより遥かに鮮明に見えた。
アリスは天井を見上げたまま呟く。
「あっ……予知できちゃった」
アリスの表情から笑顔が消えた。
「えっ、もしかして。休日終わり?」
こうして、アリスの休日は静かに幕を閉じた。




