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■第10話 モニカ

 モニカがお茶とお菓子を持って部屋に戻ると、アリスはこの世の終わりのような絶望の表情で椅子に座っていた。


「あの……アリスさま?なにかございましたか?」


「終わった……終わったんだよ」


 モニカの問いかけにアリスはただ、そう呟く。


「……何が終わったのか分かりませんが、お茶とお菓子をお持ちしましたよ。本日はアリスさまが大好きなイチゴのショートケーキをご用意いたしました」


 ――「ケーキだと!」


 それを聞いたアリスは急に目を輝かせ、フォークをガシッと掴んでテーブルの上に置かれたケーキをガツガツと食べ始めた。


「はぁ……そんなに慌てて食べてはいけませんよ、ほら口の周りにクリームが……」


 軽くため息をつきながら、モニカが口の周りを拭いてくれる。


「何があったんですか?」


「うぅー……出来ちゃったんだよ。予知……」


「予知?なんのですか?」


 モニカはさっきのフィオナ達との話は聞いていないので、よくわからず首をかしげた。


「あーくそっ!」


 叫びながらアリスは覚悟を決めたような顔をしてモニカが淹れてくれた紅茶を一気に飲み干す。


「ぷはぁー、ご馳走さま。よしモニカ行くぞ!」


「はい?何処へでしょうか?」


「婆さんのとこだよ!」


 と言いながらアリスはモニカの手を引いて部屋を出る。


 予知出来たことを数日黙っておく事も考えたが、それでは少し後ろめたくて気持ち良くゴロゴロ出来ない。

 

 実は根が真面目なアリスであった。



……


………


 アリス達が再びフィオナの部屋を訪れるとすでにオルクスの姿はなく、フィオナ一人だった。


「おや姫さま、どうなされましたか?」


「フィオナさま、あの……陛下は?」


「あぁ、さきほど宰相どのが迎えに来られましてのぅ」


 ……やっぱりさぼってたのか。


「あっ!そんなことより、実はクレアが現れる場所と時間が予知出来ました。」


「なんと!」


 フィオナは目を見開いて驚く、まさかこんなに早く予知出来てしまうとは思わなかったのだろう。


 そしてフィオナはアリスの隣にいるモニカに目を向ける。


「それではわたくしは部屋の外で待機していますので」


 そう言って退室しようとするモニカをアリスが制止する。


「フィオナさま、モニカも一緒によろしいでしょうか?実は吸血鬼クレアを捕らえるための作戦があるのですが、その作戦にはモニカも必要なのです」


 そう告げると、そう言う事ならばとフィオナはすぐに了承してくれた。


 最初にモニカにも封印の件を簡単に説明した後、予知で見た内容を二人に話す。


 実はアリスの予知能力はかなり精度が高い。森のどこに現れるのか。何日の何時頃に現れるのか、そこまで正確に分かる。


「ところでフィオナさまは隷従の首輪という呪具をお持ちでしたよね?お借りしたいのですがよろしいでしょうか?」


 以前、いろいろな魔道具を見せてもらった時にたしかそんなのがあったはず。


「隷従の首輪ですと?」


「ええ、今回の作戦に必要なのです」


「まさか姫さま自ら出向かれるのですかな?」


「ええ、私とモニカ、それから護衛も何人か連れていくつもりですわ」


 実はアリスは過去に何度も魔獣討伐などに出向いた事がある。というのもこの国の皇帝オルクスはもとは武人であり、かなりの脳筋だっためアリスが幼い頃から一緒に魔獣討伐に連れて行っていたのだ。


 そのおかげかアリスの実力は帝国でもトップクラスの強さになっていた。


「相手はあのクレアですぞ、偽物とはいえそれなりの力を持っておるはずですじゃ。それではこのワシもごいっしょ……」


 ご一緒に、といいかけたところでアリスが制止する。


「フィオナさままで出てしまいますと他の者に何かあったのでは?と勘ぐられてしまいす。この件は出来るだけ公にはしないでおきましょう」


 ふむ、確かに公には……と呟くフィオナをよそにアリスは話を続ける。


「偶然にも最近、祠のある魔の森の奥の方で何か強大な魔獣が現れたようで。弱い魔獣達が森の入口の方に追いやられているそうなのです、今回はその入口付近に集まった魔獣の討伐という名目で出向くと言う事にいたします」


「なるほど、わかりました。それでは姫さまにお任せするとしましょうかのぅ……隷従の首輪でしたな。少しお待ちくだされ」


 そう言いながらフィオナは部屋の奥の方から隷従の首輪を持って来てくれた。


「この隷従の首輪にはレベル9の呪術が施されておりますじゃ、解除出来るのは首輪の主人かそれ以上のレベルの解呪を使える者だけですじゃ。」


「クレアには使えませんよね?」


「クレアは解呪のスキルは持っておらんはずですじゃ、ただ……」


「ただ……なんでしょうか?」


「クレアは祠の結界を破っておりますじゃ、あれはワシが施したレベル7の結界……どうやって破ったのか分かりませんので充分にお気をつけくだされ」


 結界か……確かにどうやって破ったのかはわからない。特殊な魔道具でも使ったか?でもレベル9の呪術を解呪出来る者なんていないだろ、解呪レベル10を持つ者なんて聖女くらいなのだから。


 うん、大丈夫だ、この作戦は間違いなく成功する。


「ええ、お任せくださいませ」


 その後、もう少しクレアの情報を聞いてからアリスは部屋を後にした。


 ………


 ……


 …


 自室に戻り、とりあえず今日はのんびりできるかな?なんて考えていたらモニカが声をかけてきた。


「あの……アリスさま」


「ん?なんだ?」


「作戦があるとおっしゃってましたが、どう言う作戦なのですか?」


「あぁ、予知で見たんだけど。私がお礼したいって言ったらあの吸血鬼、簡単に馬車に乗ったんだ」


「なるほど、それで乗せた後はどうなさるのでしょうか?」


「フッフッフ、それはだな。可愛いこの私が上目遣いで目を瞑ってください。っとかいって目を閉じさせて、その隙にこの首輪を嵌めてやれいいんだよ。完璧な作戦だろ?」


「……ハイ、ソウデスネェー」


「なんで棒読みなんだ?」


「いえ、なんでもございません。ところで、わたくしは魔獣と戦った事すらありませんよ?お供するのはかまいませんが、お役には立てないと思いますが?」


「それも大丈夫だ、お前は私と一緒に馬車に乗ってればいいだけだから」


「そうですか……」


 モニカが少し不安そうな顔をしてるように見えた。


 まぁ、モニカは私のところに来るまでは普通の貴族令嬢だったわけだし、魔獣と戦うどころか剣すらまともに触ったことがない。しかも今回は得体のしれない吸血鬼が相手だ。不安になるのもしかたがないか。


 でも……モニカがいないと私は、他の従者と一緒に馬車に乗ることになるかもしれない。それは困る!

 

 ――馬車の中でだらけられない!


 なのでモニカにはなんとしても一緒に来てもらわなくては!


「だから心配しなくても大丈夫だって、ちゃんと私がお前を守ってやるから!」


「あの……アリスさま」


 ほんのり顔を赤らめ、少しモジモジしながらモニカが呟く。


「ん?」


「わたくしのこと、口説いてます?」


「口説いてねぇよ!」


「お気持ちはとても嬉しいのですが……」


「だから違うわ!」


「下着くらいならお見せしてもかまいませんが」


「見せんでいいわぁー!!!」

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