■第11話 魔獣
はい、そんな感じで――。
アリスの計画通り私は今、無事捕獲されております……。
うん、どうすりゃいいでしょうねこれ?
「お前誰よ?」
突然のアリスの質問に、私は思わず首を傾げた。意味がまったくわからない。単に名前を知りたいって訳でもないだろうし、そもそも私の名前なら、もうとっくに知っているはずだ。
正解が分からないので、とりあえず無難に答えることにした。
「えっと、クレアですが……」
「いや、そういう意味じゃねぇよ」
アリスはジッーと私の顔を凝視していた。
……なんだろう?
まぁ、美少女に見つめられるのは悪い気はしないけどね。
それよりも気になるのは、これから私はどうなってしまうのかということだ。
そもそも結界を破ったのがバレたにしても、なんで討伐隊とかじゃなくお姫さまが来たんだ? わざわざこんな回りくどいことして。
まさか!
……私が美少女に弱いってことがバレてる?
いや、そんなはずはない。
今は私も見た目は可愛い女の子だし。
バレるはずがない……たぶん。
私がそんなことを考えていたら、寝転がっていたアリスが突然ガバッと起き上がった。そして馬車の扉に付いてる小窓を開けて叫ぶ。
「魔獣が来ます! 馬車を止めて下さい」
さっきまでの柄の悪いお姫さまとは別人みたいだ。
そんなすぐにキャラの切り替えが出来るのね。
なんて感心していたら、馬車がゆっくりと止まり。
外から慌ただしい声が聞こえてきた。
「魔獣だ!」
「数を確認しろ!」
「姫さまをお守りしろ!」
なるほど。アリスは気配察知のスキルを持ってるんだった、それで魔獣に気が付いたんだな。
私も気配察知を発動して周囲を確認してみる。
うん、これはちょっと数が多いな。
これ護衛の人達だけで倒せるのか?
「くそっ、入口の近くでなんでこんな群れがいやがんだよ。全部で三十匹以上いるぞ……」
アリスがぼやいていると一人の騎士が馬車に近づき声をかけてきた。
「姫さま、よろしいでしょうか?」
「どうしました?」
「魔獣ですが少々数が多く、それにオーガも三体確認されています。討伐には少々時間がかかるかと」
あぁ、やっぱり厳しいよね、こちらの倍以上の数だし。
そんなことを考えていると、アリスがチラッとこちらを見た。
……ん? もしかして、私に行けって事かな? いや、別にこのくらいの魔獣なら私が行って魔法でバーンとやって来てもいいですけど?
そう思っていたら。
アリスが扉を開けて馬車から降りた。
「私の剣を!」
「はっ、こちらに」
え? 姫さまが行っちゃうの?
なんて驚いていたら、アリスは騎士から剣を受け取ると同時に鞘から抜き放つ。
「《身体強化》」
次の瞬間、目にも止まらぬ速さで魔獣のもとへ駆ける。
そして、目の前のオーガを横薙ぎに一閃!
――ザシュッ!
オーガが血しぶきを上げて倒れる。
「うわぁ……凄いな」
ドレス姿なのに、動きに一切の無駄がない。金色の髪をなびかせながら剣を振るう姿は、まるで一枚の絵画から抜け出してきたようだった。
……綺麗だな。
その姿に見蕩れていると、アリスが凄まじい速さで魔獣を次々と倒していく。
その動きはあまりにも速く、騎士たちが援護する暇すらない。
――ガサッ!
突然、アリスの背後にあった茂みが大きく揺れた。
「あっ!」
茂みの中から飛び出してきたのは、数メートルはありそうな巨大な蛇だった。
真っ赤な鱗を持つ蛇が、大きく口を開けてアリスへ襲い掛かる。
――危ない!
私は思わず身を乗り出した。
しかし。
アリスは身体をひらりと横へ滑らせ、蛇の牙を紙一重でかわした。
気配察知で気付いていたようだ。
その動きに迷いはない。
大蛇はアリスの目の前で鎌首をもたげ、長い舌をチロチロと出しながら威嚇する。
「レッドバイパー……ふふっ、今夜はご馳走ですわね」
アリスがそう呟き、ニヤッと笑う。
……今、ご馳走って言った?
まさかアレ食べるの?
なんて私が考えている間にも、アリスは一気に間合いを詰めていた。
――ザシュッ!
大蛇の首が宙を舞った。
そして気が付けばものの数分で、全ての魔獣を倒してしまっていた。
戦闘が終わると、騎士たちが一斉にアリスのもとへ集まっていく。
「姫さま、お見事です!」
「さすがでございます!」
「ふふっ、ありがとうございます。皆さんもお疲れ様です」
アリスは優雅な笑顔で騎士たちに応じている。そして、持っていた剣を騎士に手渡すと、そのまま何事もなかったかのように馬車へ戻ってきた。
扉を閉めると。
「あー疲れたー」
そう言いながらパタッと座席に寝っ転がり私の方を見る。
「とりあえずお前の事は城に戻ってから婆さんに見て貰う。それまではちょっと大人しくしててくれ」
婆さん? 誰それ?
「あの……婆さんというのは?」
私が首を傾げていると、アリスはもうこちらを見ようともせず、手をひらひらと振った。
「モニカ、後は頼む。私は少し寝る……」
そう言った直後、アリスの頭がふわっと持ち上がった。
「……ん?」
モニカがアリスの頭をそっと自分の膝へ乗せたのだ。
「おい、何してんだ?」
アリスが驚いているとモニカはそっと囁く。
「お疲れさまでした」
そう言いながらアリスの髪を優しく撫でていた。
その光景眺めていたら、この二人の関係が少しだけ分かった気がする。
主従関係ではあるけれど、きっとそれだけじゃない。
アリスがどれだけ自由奔放に振る舞っていても、モニカは慣れた様子でそれを受け止めている。そしてモニカが何も言わなくても、アリスはそれを当たり前のように受け入れている。
たぶん、この二人は――仲がいいんだろうな。
……いいなぁ。
私には前世でも、特別に仲のいい友達がいたわけじゃなかった。
だからこそ、こういう光景を見ると少しだけ羨ましくなる。
私も、いつかこんな友達が欲しいな。
そんなことを考えながら、私は静かに目を閉じた。
そして無言で両手を合わせ、心の中でそっと呟く。
……ありがとうございます!




