■第12話 帝都
尊い光景を堪能させてもらいながら、しばらく馬車に揺られていた。
体感では二時間ほど経っただろうか。
ふと窓の外を見ると、遠くに大きな街が見えてきた。
どうやら、あれが帝都らしい。
ここラフローグ帝国は大陸最大の国家だそうで、その帝都も相当な規模らしい。外周は頑丈そうな高い城壁にぐるりと囲まれており、遠目からでも巨大な街だということが分かる。
「おお、まさにファンタジー!」
思わず呟いてしまった。
異世界に来て初めての人の住む街だ!
ずっと森の中にいたってのもあるけど、こういう街を見るだけでもなんだか感動してしまう。美味しいご飯とか食べたいしあったかい布団で寝たいなぁ。
私、奴隷だけど……ご飯くらいは出るよね?
そんなことを考えていたらアリスが目を覚ました。
「ふぁー、もう帝都か?」
「はい、もう少しで帝都に到着いたします」
大きなあくびをしながらアリスが身体を起こし、そのまま私の方を見る。
「城に着いたらまずは婆さんに会ってもらう。お前が無害な奴だって分かったらその首輪は外してやるから、それまでは悪いが我慢しててくれ」
……あれ?
なんかちょっと優しい?
私、チョロいですよ?
そんなふうに優しくされたら、すぐ好きになっちゃいますよ?
いいんですか?
「まぁ、悪い奴ならその首スパっと切り飛ばすけどな」
――怖っ!
やっぱりこの子怖い!
私、悪い吸血鬼じゃないですよぉー!
ってまぁ言って信じてもらえないんだろうけど。
どうしよ。
いざとなったら逃げるしかないかな、これ?
でもそれだと一生逃亡生活になっちゃうからなぁ。
せっかくの異世界にきたんだ。
できれば普通に街を歩いたり、美味しいものを食べたりして楽しみたい。
そんなことをブツブツ呟いていたら、馬車は帝都の城門をくぐった。窓から外を覗いてみると、そこにはたくさんの人が行き交い、道の両脇にはいくつもの露店が並んでいる。
うわぁ、これが異世界の街か。
文明レベルは中世ヨーロッパって感じかな?
「お前、帝都に来るの初めてなのか?」
私が窓から帝都の街並みをキョロキョロと眺めていると、寝っ転がりながらアリスが話しかけてきた。
「あっ、はい、初めてですね」
「そか、じゃあ今度街を案内してやるよ」
あれ? なにこの子。
めっちゃいい子やん!
思わず感動していると、アリスはニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
「まぁ、今度があればだけどな」
……私に未来はないんですか?
そのあとも少しアリスと街のことなどについて話していたら、皇城に到着した。
大国の王城だけあって、外から見てもかなり立派なお城だった。
城の中に入ると私はアリスとモニカに連れられて地下へと歩いていく。
……なんで地下?
てっきり牢屋にでも入れられるのかと思ったが、どうやら違うらしい。
目的の部屋に着くと中には黒いローブを纏った銀髪の老婆がいた。
たぶん、彼女がアリスの言っていた婆さんなのだろう。
老婆は私を見て一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに目を伏せ軽く会釈をしてくれた。
「初めまして、吸血鬼どの。ワシはこの国の筆頭宮廷魔導士フィオナ・ヘルダースじゃ。……まぁとりあえず座って話そうかのぅ」
促されテーブルに向かい席につく。
部屋にいた茶髪の可愛らしいメイドさんが全員にお茶を淹れてくれる。
――あっ、私の分もあるんだ! ちょっと嬉しい! この世界に来てから水しか飲んでなかったから、あったかいお茶だけでもすごくありがたい。
お茶を入れ終わるとメイドさんは一礼して部屋から出て行った。
席についているのは私、アリス、フィオナの三人。
モニカはアリスの後ろに立ったままである。
……ん?
そこで、ふと違和感を覚えた。
なぜかフィオナが私の方を見ながらプルプルと震えている。
なんで?
そういえばこの人、筆頭宮廷魔導士とか言ってたな?
ステータスどんなもんなんだろ?
興味本位で彼女のステータスを鑑定してみると。
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【基本情報】
名前:フィオナ・ヘルダース
年齢:325歳
種族:人間
性別:女性
Lv:580
加護:魔法神の加護
【属性】
火:Lv8/水:Lv7/風:Lv7/光:Lv7/闇:Lv8/
【魔法】
火:Lv8/水:Lv7/風:Lv7/光:Lv7/闇:Lv8/
【上位魔法】
火炎 Lv7 暴風 Lv6 雷鳴 Lv7
流水 Lv6 神聖 Lv7
【補助魔法】
結界 Lv7 解呪 Lv8
浄化 Lv7
【固有スキル】
魔法創作 Lv9 魔法強化 Lv9
魔道具作成Lv9
【補助スキル】
気配察知Lv5 調合 Lv9
鑑定 Lv10 錬金 Lv9
【耐性】
支配無効 Lv7 状態異常無効 Lv6
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うわぁ!
筆頭宮廷魔導士ってだけあって、この人もすごいな。
属性を5つも持ってる……。しかもレベルもめっちゃ高い。
それに加護も持ってるんだな。
魔法神の加護ってどんな効果なんだろ?
魔法系っぽいけど?
えっ? 年齢325歳?
これ表示バグってないよね?
不老不死のスキルとかは持ってないし……。
――しまった。
この人、鑑定レベル10持ってる。
私の偽装スキルはレベル9、つまりこの人には私の本当のステータスが見えてる! さっきプルプル震えてたのって私のステータスを見たからか!
ヤバい、どうしよう。
内心で焦っていると、フィオナが声を震わせながら問いかけてきた。
「おぬしはいったい何者じゃ?」
「あのっ、私のステータス見ました?」
「うむ、偽装しておるようじゃがおぬしのステータスはかつてのクレアよりレベルが高い。それにクレアが持っておらんかった属性やスキルまで持っておる、いったいこれはどういうことじゃ?」
あぁ……そういえば女神さま、盛っておくとか言ってたっけ?
どうする?
これは言い逃れは出来なさそうだ。
いっそ転生者だと話してしまうか?
私がどうするべきか悩んでいると、アリスが口を開いた。
「フィオナさま、この者がクレアの体を操ってるのは間違いないでしょう。しかし私は馬車の中でずっと彼女と一緒にいましたが一切の悪意は感じられませんでした。悪しきものではないと思いますわ」
「ふむ、そうですか……」
フィオナはしばらく考え込んだあと、私の方へ視線を向ける。
「クレアの中に入っておるおぬし、目的はなんじゃ? なぜその体に入っておる?」
そういえば、アリスは悪意感知ってスキル持ってたな。
だから悪意がないと分かって、後半は少し優しかったのか。
やっぱり実はいい子なんだなぁ。
しかし、これはもう転生者ってバラすしかないな……。
よし、覚悟を決めよう!
「えーと、信じて貰えるかは分からないですが……私はこことは違う別の世界の人間でした」
「なんと! 異世界とな?」
異世界っていう概念はあるのか。
だったら、意外とすんなり分かってもらえるかな?
「はい、でもその世界で死んでしまって。そしたら目の前に女神さまが現れて、この世界に転生させて貰いました。そして気が付いたらこの体になってたんです」
かなりざっくりとした説明だけど、あんまり詳しくは言わない方がいいよね。
特に男だったことは絶対にバレないようにしないと。
――あれ?
今度はフィオナだけでなくアリスまで驚いた表情でプルプルと震えている。
「えと……あのー、どうしました?」
「女神ティリスさまに……お会いしたと?」
「えっ? あっ、はい会いました」
「あなたは……あなたさまは……使徒さまなのですかな?」
フィオナが震えながら、かすれるような声で呟く。
「いやいや! 違いますよ、使徒さまなんて大層なものじゃないですから、私はただの一般人ですから!」
「女神さまの使命を受けられたのでは?」
「いえいえ、使命なんて受けてませんよ、女神さまからはこの世界で自由に生きていいって言われただけで……」
「はぁ……そうですか、自由に……」
そう呟くと、フィオナが落ち着くためにお茶を一口飲む。
あっ! 私もお茶飲みたかったんだよね。
いただきまーす!
ゴクゴクと思わずお茶を一気に飲んでしまった。
あぁ、美味しい。
高級な紅茶なんだろうか、香りもすごくいい。
欲を言うとお茶菓子も欲しかったけど、まぁ贅沢は言えないよね。
空になったカップを置くと、モニカがまたお茶を注いでくれた。
……が。
その手はなぜかカタカタと震えていた。
ふと見るとアリスまで青い顔をして固まっている。
私は思わず首を傾げる。
……どうしたんだろう?




