■第13話 隷従の首輪
「あ、あの……その首輪……ごめんなさい。今すぐ外しますわ」
アリスが青い顔をしたまま立ち上がり、首輪に手を伸ばそうとする。
「えっ、外して貰えるんですか?」
「ええ、もちろんですわ……使徒さまにこのようなもの……」
まだ使徒さまとやらだと思われてるらしい。
どうしたらわかってもらえるんだ?
「あの、私は本当に使徒さまとかではないんですよ。この体に入っちゃっただけの普通の人間です」
――まぁ今は吸血鬼だけど。
どうしていいかわからずアリスが立ち尽くしていると、フィオナが口を開いた。
「使徒さまではないとしても、あなたは女神さまが遣わされたお方。あなたはこの世界で何をするおつもりなのですかな?」
この世界で何を、か。
可愛い女の子とイチャイチャしたいとは言えないな……。
「う~ん、そうですねぇ。女神さまには自由に生きていいと言われたので、この世界でのんびり楽しく暮らしたいですね」
「ふむ……しかしのぅ」
そこで言葉を区切り、フィオナは真っ直ぐにこちらを見る。
「女神ティリスさまに直接お会いした。それに加えて『自由に生きよ』と告げられた……それはつまり神の意思を代行する存在――『使徒さま』ということになるのぅ」
「いやいやいや! 違いますって!」
思わず食い気味で否定してしまった。
どうしてそうなるんだ。
「もし外に漏れれば各国が黙っておらん、ということですじゃ。特に聖公国あたりは……」
聖公国? なんだろう?
名前からすると、宗教国家ってやつなのかな?
「あの? その聖公国というのは?」
「かつてクレアを排除した国じゃよ」
「えっ、排除? それってどういうことでしょうか?」
その後、私はフィオナからクレアの封印に関する話を一通り聞かされた。
なるほど。
私って魔神を倒した伝説の吸血鬼だったらしい。
いや、なんでそんなのの体にはいってるんだ私?
女神さま、転生先の選び方が豪快すぎませんか?
しかし、これはちょっとまずいな。
これって討伐か封印コース確定なんじゃない?
「バレたら……やっぱりまずいんでしょうねぇ? ……どうすればいいんでしょう?」
「まず、このことは極秘にすべきじゃのぅ」
――まぁ、そうなりますよね。
「そして、おぬしにはしばらくこの国に留まってもらおうかの」
「まぁ行くところもないので、ここに置いて頂けるとありがたいですが……このお城にいていいんでしょうか?」
もう森で木の実をかじる生活は嫌だし。
本音を言えばここに置いてもらいたいかな。
「そうですな、その方が監視も楽ですからのぅ」
「えっ!?」
「すまんが、まだおぬしことを完全に信用することはできんのでのぅ」
……まぁ、そりゃそうか。
突然現れた謎の吸血鬼を、何の警戒もなく城に住まわせる方がおかしいよね。
でも、監視付きでも普通に暮らせるなら問題ない。
「わかりました、しばらくの間お世話になります」
「それではまず、その首輪を外してしまいましょうかのぅ、姫さま」
「あっ! そうですわね、すぐに外しますので……」
フィオナの言葉を聞いてずっと立ち尽くしていたアリスが再起動する。
……カチャカチャ。
「……あれ?」
……カチャカチャ。
「……なんで?」
……カチャカチャ。
「――ええっ!?」
「あの……フィオナさま……」
アリスが泣きそうな顔でフィオナの方を見る。
「ん~? 姫さま? どうなされました?」
「これ……外れません……」
「いや、そんなはずは……」
フィオナも私のそばに来て首輪をじっくりと確認する。
しばらくあちこちを調べたあと、何かを思い出したように部屋の奥へ向かい、そこから一枚の紙を持ってきた。そして、その紙をしげしげと眺める。
「なんとっ!」
なんだろう、すごく嫌な予感がするんですけど。
「これは……どうやら首輪をつけた主人にも外せないようですじゃ……」
うん、まぁそういう流れですよねー。
「ええっ! ではどうすれば……」
アリスがオロオロしながら呟く。
「レベル10の神聖魔法でないと外せないようですじゃ。すまんのぅ……説明書をよく読んでおらんかった」
「説明書あるの? 呪具なのに?」
なんて親切な呪具なんだよ……。
「いやぁ、最近少し目が悪くなってのぅ」
絶対最近じゃないだろそれ!
325歳だぞ!
何年前からだよ!
「あの、ではしばらくこのままということでしょうか?」
「そうですのぅ、ワシも外す方法を探してみますので、しばらくはそのままということに……」
フィオナがそう言ったところで、アリスが何かを思い出したように口を開いた。
「あの、ルーナさまなら外せるのでは?」
ルーナ?
誰だそれ?
「そのルーナというのはどなたなんでしょうか?」
するとフィオナは少し困った顔で口を開く。
「ですが、今この者をあの国に行かせるわけにもいきますまい。」
「あっ、そうですわね。クレアさまのことは秘密にしなくてはいけないんですわよね……」
やっぱり『さま』と呼ばれるのには慣れないな。
そのルーナって人のことも気になるけど、今はまずこっちをなんとかしたい。
「あの、アリスさま。私に『さま』は不要ですよ。ほんとに使徒さまとかでもないんで、普通に呼んでください」
「えっ! でも……」
アリスは少し戸惑っていたが少し考えた後。
「わ、分かりましたわ。ではこれからはクレアとお呼びしますわ」
「はい、それでお願いします」
良かったあのままだとどうにも落ち着かない。
……おっと。
そういえば、大事なことを聞き忘れてた。
「ところでこの首輪ってどんな効果があるんでしょうか?」
「通常の奴隷の首輪であれば主人に逆らうと首が締まるんじゃが、この首輪は少々特殊でのぅ。主人への反抗を感知すると、生命力を吸い取るようじゃ」
生命力?
まぁエナジードレインって感じかな?
「ってことは、逆らうと死んじゃうんでしょうか? いや、別に逆らうつもりはないですけど」
「普通ならそうじゃろうが、おぬしは超回復のスキルをもっておるからのぅ。効果はないかもしれん」
あぁ、たしかそんなスキル持ってたな。
自分でも忘れてたよ。
でもまぁ効果がないならただの趣味の悪いアクセサリーだし別にいいかな。
「わかりました、効果がないならこのままでもいいんですけど。こんな首輪をつけたままお城をうろうろしてたら変に目立っちゃいそうですよね?」
フィオナとそんなことを話していたら、アリスから思いもよらない提案が出た。
「では――」




