↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/149

■第84話 魔都ゼノアース

 魔都の巨大な城門をくぐり、街に入るとすっかり日も傾いているというのに。


「おおおおっ!」


 城門の内側から、今までとは比べものにならない歓声が響き渡った。


 大通りの両側は見渡す限りの人。

 建物の窓から身を乗り出す者や、屋根の上から手を振る子どもたち。

 馬車に近づき花束を差し出す少女や、笑顔で果物を掲げる商人の姿まで見えた。


「勇者さま、魔都ようこそー」


「人族と魔族の友好ばんざーい!」


 色とりどりの花びらが空から舞い、三国の旗が街中ではためいていた。


「これは……すごい人ですね」


 ルーナが目を丸くして辺りを見回す。


「ええ、さすがに圧倒されてしまいますわね」


 アリスは街の人々に手を振りながらそう呟いた。


「ふふっ、今日は国を挙げての歓迎じゃからのぅ」


 アルテシアはいつものように穏やかな笑みを浮かべながら、沿道の人々へ手を振っていた。


 私も街並みに目を向ける。

 魔都というから、勝手に黒い石造りの建物が並ぶ暗い街を想像していた。

 けれど実際はまったく違う。


 白や赤茶色の建物が整然と並び、通りには花壇や噴水まで造られている。

 商店街からは香ばしい匂いが漂い、露店では子どもたちが楽しそうにはしゃいでいた。


「なんか……普通の街なんだな」


 思わずそんな言葉が漏れる。


「ん? 何か言ったかのぅ?」


「い、いえ! 魔王国ってもっと怖い国かと思ってました」


「はっはっはっ! まぁ、昔はそんな感じじゃったがのぅ。マサヤのおかげで、今ではこの魔都もずいぶんにぎやかになったわい」


 アルテシアは楽しそうに笑った。


「これも使徒さまのおかげなんですか?」


「うむ、マサヤが戦争を終わらせて魔王国でも作物が育つようにしてくれたからのぅ。おかげでこうして民が笑って暮らせる国になったんじゃ」


「なるほど、やっぱりすごい人だったんですね。戦争を終わらせるだけじゃなく、食糧問題も解決するなんて」


 前にもアリスから聞いていたが、改めて当時を知る人から聞くと、思わず感心してしまう。


「まぁ、とはいえ各国を説得して和平へ導いたのはクリスティーナじゃがな。はっはっは」


 えっ? なんかまた知らない名前が出てきたんですけど?

 その発言にルーナが思わず声をあげた。


「えっ、クリスティーナさまというと使徒さま妻のお一人のことでしょうか?」


「うむ、そうじゃ。ルグレシア王国の王女でとても頭のいい女でな。マサヤと共に各国と和平を結ばせたんじゃよ」


「そのようなことが、使徒さまの偉業は妻のみなさんの支えがあったからなのですね……素晴らしいわ」


 ルーナは手を組み、うっとりと目を閉じた。

 私も思わず頷く。

 使徒さまだけじゃなく、奥さんたちも歴史を動かした人たちだったんだな。


 私たちがそんな話をしていると、馬車は街の中心にそびえる魔王城の正門の前で止まった。


 白亜の城壁に、黒曜石を思わせる尖塔。

 帝国の皇城にも引けを取らないほど立派なお城だった。


「おお……これが魔王城」


 城を見上げ、思わず声が漏れてしまった。

 城門の前にはたくさんの騎士が整列している。


 馬車を降りて門の中へと歩いて行くと、赤い絨毯が敷かれ、両脇にも騎士たちが整列していた。


 城の中に入ると豪華なシャンデリアが見えた。

 磨き上げられた床。壁には美しい絵画や花まで飾られている。


 うん……骸骨とか、拷問器具とかは飾ってないな。

 ……誰だよ、魔王城は怖い場所だなんて思ってたの。

 すみません……私です。


「皆、疲れたじゃろう。セバスに客室へ案内させるので少し休むといい」


「はい、お気遣い感謝いたしますわ」


「うむ、ルーナもまた後でな」


「はい、ありがとうございますアルテシアさま」


 手を振りながらアルテシアが去って行き、私たちは客室へ案内された。

 部屋に入ると魔族のメイドさんがお茶を入れてくれた。


「それでは皆さまこちらで暫くお休みください」


 セバスは胸に手を当てて一礼すると、メイドさんと共に静かに部屋を後にした。


「はぁー、疲れた。まさかあそこまで盛大なパレードやるとは思わなかったぞ」


 アリスがドカッとソファーにもたれかかる。


「ほんとだよね。あれ、五千人ってもう進軍だよね」


「ふふっ、でも魔王国の皆さんが歓迎してくれて良かったですね」


 ルーナがお茶を一口飲みほっとしたような顔でそう言った。


「うん、魔族の人たちも人族との友好を望んでるのが伝わってきたよね」


「ああ、一先ずこれで魔王国での目的は達成出来たな」


 アリスも安堵したように息をついた。


 最初は緊張していたけど、街の人たちの笑顔を見ているうちにその不安はいつの間にか消えていた。旅の疲れも落ち着き、しばらく私たちは温かいお茶を飲みながら一息ついていた。


 しばらくすると、部屋の扉が軽くノックされた。


「失礼いたします。みなさま、アルテシアさまがお待ちです」


 部屋の扉が開き、一人のメイドさんが恭しく一礼する。


「あっ、温泉ですね」


 ルーナがぱっと表情を明るくする。


 私も思わず立ち上がった。

 いや、けっしていかがわしいことを考えてるわけではないよ。


 使徒さまの影響で造られた温泉だ。どんなのか気になるでしょ? 

 露天風呂なんてあったりするのかな?

 温泉好きの使徒さまが関わっているなら、きっとすごいに違いない。うん。


「ふふっ、クレアさん、さっきからとても楽しそうですね」


「えっ!? そ、そんなに顔に出てた?」


「はい。とても」


 ルーナがくすっと笑う。

 だが、その隣でアリスがジトッとした目で私を見ていた。


「あの……なんでしょうか?」


「なんだかまた、気持ち悪い顔になってますわよ」


「えっ?」


 私が首をかしげると、アリスは呆れたように告げる。


「なにか温泉以外のことも期待していそうですわね?」


「いやいや、そんなことはないでありますよ」


 思わず早口で取り繕ってしまった。

 どうやら私は、思っていることが顔に出やすいらしい。

 しかしアリスって、変なところだけ鋭いんだよな……。


 ……中身男だって、バレてないよね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。