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■第81話 魔王アルテシア

 魔族の国ってどんなところだろうと思っていたが、ネザリアに入ると、もう夕方だというのに多くの魔族が歩いていた。


 雰囲気は人間の街と変わらず、そこには平和な空気が流れていた。

 馬車で街を進み、私たちは領主の屋敷を目指している。

 今日はその領主邸に泊まるらしい。


「あっ、あの大きなお屋敷が領主邸かな?」


「ええ、おそらくそうでしょう。ようやく一息つけそうですね」


 たしかに、ここまで来ればもう襲われる心配はなさそうだね。

 でも顔バレしないように私はフードを被っておく。

 屋敷の入り口に到着すると、大勢の騎士や使用人が出迎えてくれた。


「アリスレートさま、ルーナさま。ようこそおいでくださいました。どうぞこちらへ」


 白髪を後ろに流し口ひげを蓄えたダンディな執事さんに案内され屋敷に入ると。

 身なりのいい魔族の男性と、その後に銀色の髪に二本の角が生えた綺麗な女性が立っていた。領主と奥さんだろうか?


「ようこそおいでくださいました。私はこの街の領主モブリンと申します」


 モブリンと名乗った男性は深々と頭を下げた。

 するとアリスがスッと前に出る。


「お初にお目にかかります、ラフローグ帝国皇女アリスレート・ラフローグでございます」


 アリスの華麗な挨拶に続きルーナも一礼する。


「ラフォーレ聖公国の聖女ルーナ・メーティスです、よろしくお願いいたします」


 すると領主の後ろに立っていた女性が一歩前に出た。

 女性はルーナをじっと見つめると、次の瞬間には満面の笑みを浮かべた。


「おおっ、そなたがルーナか! 待っておったぞ」


「えっ? あの、何を?」


 女性はそのまま飛びつくようにルーナに抱き着いた。

 するとモブリンが困ったように女性を諫める。


「ああっ、アルテシアさま、突然そのようなことをされては……」


 んっ? 今アルテシアって言った?

 じゃあもしかしてこの人……。


「おっと、名乗っておらなんだな。わらわが魔王アルテシアじゃ。おぬしが来るのを待ちきれなくて思わず迎えにきてしまったのじゃ」


 やっぱりこの人が魔王だったのか、ってか見た目若すぎない?


 六百歳超えてるって聞いてたから、フィオナみたいな感じを想像していたのに二十代後半くらいにしか見えないんだけど。


「ええっ、あなたさまが魔王陛下なのですか?」


 ルーナもまさか領主邸に魔王陛下本人がいるとは思っていなかったのだろう。


「そんな堅苦しい呼び方せんでもよい。気軽に、おばあちゃんでよいのだぞ」


 アルテシアはそう言いながらルーナの頭をなでていた。

 いや、おばあちゃんではない気もするが子孫だからいいのかな?

 っていうか、かなり気さくな人みたいだな。


「うん、やはりおぬしどことなくマサヤの面影があるのぅ。ほれ、飴ちゃん食べるか?」


「いえ、今はそういう……んぐっ!」


 アルテシアはルーナが話している途中で飴を口に突っ込んだ。


「どうじゃ、うまいか?」


「あっ、はい。美味しいです」


 ルーナは手で口元を抑えながら、目を輝かせた。

 どうやら本当に美味しいようだ。


「うむ、そうかそうか。よし、では皆の者。もてなしの準備じゃ!」


「はっはい。それでは皆さまこちらへどうぞ」


 こうして私たちは魔王アルテシアとの初対面を終え、そのまま歓迎の席へと移ることになった。


 歓迎用の部屋に案内され中に入る。


 それほど大きな部屋ではないが豪華な飾り付けが施されており、テーブルには次々と豪華な料理が運び込まれていた。


「さぁ、座るがよい」


 アルテシアに勧められてアリスとルーナが席に着く。


「皆さまもお席にどうぞ」


 執事さんが私たちにも座るように勧めてくれたので、私たちも席に着く。

 ちなみに今いるのはモニカ、クロ、そしてエルネアも今回は一緒だ。


「しかし、予定より少し遅かったのう。なにかあったのか?」


「あっ、はい。魔の森で魔獣に襲われまして……」


 ルーナがそう伝えると、アルテシアの顔色が変わった。


「なんじゃと……? わらわの大切なルーナを襲った者がおるのか。よし、今すぐあの森ごと消し去ってくれるわ」


 そう言って立ち上がった。


 あれ? 温厚なのかと思ったけど結構過激なんだな、やっぱり魔王だこの人。

 なんて納得してる場合じゃないな……どうしよう、止めた方がいいよね?

 私がそんなことを考えていると、ルーナが慌てて制止した。


「アルテシアさま、お待ちください。別に森が悪いわけではありませんので」


「うん? そうなのか?」


「はい、その件に関しては後程詳細をお話しさせていただきますので」


「ふむ、まぁルーナがそういうならばよいじゃろう」


 アルテシアが再び席に着くと不意に私を見た。


「ん? おぬしはなぜフード被っておるのじゃ?」


「あっ、いえ。これは……」


 どうしよう、顔を見せても大丈夫なのかな?

 アリスとルーナの方に目を向けると二人は静かに頷いた。

 しょうがないか、たしかにこのままじゃ失礼だよね。


「失礼しました……」 


 私はフードを外して顔を見せる。


「なっ!」


 するとなぜか執事が驚いた顔をした。


「セバスよ、どうかしたか?」


 見るからにセバスチャンって感じの執事さんだなと思ってたけど、ほんとにセバスって名前だったんだ。……しかし。


「いっ、いえ。失礼いたしました」


「ふむ、そうか。では勇者どのにルーナ。そしてその従者よ、よくぞ参られた。歓迎するぞ、今宵は魔王国の料理を楽しむがよい」


「はい、ありがとうございます。魔王陛下」


 アリスが一礼した。

 その後、みんなで食事を始めたのだが。


 私はさっきのセバスと呼ばれた執事のことが気になって食事どころではなかった。なぜかというと、セバスが話した時にチラッと口元に牙が見えた。瞳も赤いし、たぶんこの人は吸血鬼だ。


 反応からして封印前の私の事を知ってるのかもしれない。

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