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■第80話 黒龍という抑止力

 私がみんなの所へ戻ると、魔獣たちはすべて倒されていた。

 騎士たちが周囲を確認しているが、もう新たに襲ってくる魔獣の気配はない。


 アリスが私に気づいてクロの背から飛び降りる。


「クレア、どこへ行ってたんですの?」


「クレア殿、ご無事でしたか。それでどうでしたか?」


 アリスとエルネアが歩み寄ってきたので、私は球のかけらを見せた。


「なんか黒いローブを着た男がいて、これで魔獣を操ってたみたいです」


「やはりあの魔獣は何者かに操られていたのですか。しかしこれは見たことのない魔道具ですね」


 エルネアが欠片をしげしげと眺めていた。


「ところで、その男というのは?」


「ああ、すみません。逃げられてしまいました、黒いローブを着ていて顔は見えなかったです」


「そうですか……」


「赤い石みたいなものを使って突然消えたんですけど、何かわかりますか?」


「赤い石……帰還の魔石でしょうか? 登録した場所へ一瞬で戻れる魔石です。ただ一度使うと壊れてしまうため、とても希少なものです」


 そんな魔石があったんだ。

 やっぱり私はこの世界の知識が足りなさすぎるな。


「ただ高価な上なかなか手に入らない物なので、普通は簡単に使えるようなものではないのですが」


 なるほど、ってことはあの男はかなりしっかり準備していたってことだな。


「クレア、その欠片はフィオナさまにお見せした方がいいのではないかしら?」


「そうだね、エルネアさん。この欠片を誰かに皇城まで持って行ってもらえませんか?」


「では私は魔獣の襲撃について報告書を書きますわ」


「わかりました、準備しておきます」


 でも、あの黒い球を使っていた男はいったい何者だったのだろう。

 私の油断で逃がしてしまったんだ、もし次に会ったら即捕まえてやろう。


「あっ、ところで怪我人とかは出てないですか?」


「はい、軽傷を負った者はいますがすでにルーナさまが治療してくださっています」


 ふと見ると、ルーナが数人の騎士を治癒魔法で治療していた。


「はい、これでもう大丈夫ですよ」


「ありがとうございます、聖女さま」


 私がやるまでもなかったか、さすがルーナだな。

 その後、黒い球の欠片とアリスの書いた報告書を騎士に手渡す。


「では、よろしくお願いいたしますわ」


「はっ、お任せください」


 二人の騎士が皇城へと馬で駆け出した。


 そして私たちはそのまま魔王国を目指す。まだ安心できないので、私は馬車の中でも気配察知をずっと発動しておくことにした。うん、今は問題ないな。


「もしかしたら、あの魔獣は聖女である私を狙ったのでしょうか? だとしたら……」


 ルーナがポツリとそんなことを呟き俯いてしまった。


「えっ、いや、違うと思うよ。仮にそうだったとしても、ルーナさんが気にすることじゃないから」


「いや、それは違うな」


 私がルーナをフォローしていると、アリスが突然口を開いた。


「どういうこと?」


「あれは私を狙ったんだろう。もし本当に魔神復活なんて企んでるなら一番邪魔なのは勇者である私だからな」


 そう言い放ったアリスの顔には、不安よりもどこか楽しそうな笑みが浮かんでいた。


「あの……なんでちょっと嬉しそうなの?」


「敵が私を警戒してるなら、それは勇者として役目を果たせている証拠だからな」

 

「なるほど……そういえばあの男、なぜ勇者が黒龍を従えてるんだって驚いてたな」


 するとアリスは顎に手を当て少し考える。


「なぁ、もうクロのこと公表しないか?」


「ええっ、それは大丈夫なの?」


「どのみちいつまでも隠しておけないだろうしな。それと、クレアの従魔じゃなくて私の従魔として公表するんだ」


「あっ、そういうことか」


 確かにその方がいいかも、あの男も完全に想定外みたいな感じだったし。

 勇者が黒龍を従えていると思わせた方が抑止力になるか。


「ねぇ、クロちゃんはそれでもいいかな?」


 一応クロにも確認を取っておかないと。


「うむ、我は別に構わんぞ」


 クロは私を見ると、いつものように落ち着いた声で答えた。


「わかった、でもそれもジルベール宰相の許可がいるよね?」


「ああ、報告書と一緒にその件についても手紙に書いておいた。ジルベール宰相なら、必要性は理解してくれるはずだ」


「なんだか仕事が早いね……ねぇ、もしかして許可が出たらいつでもクロちゃんに乗って飛べるとか思ってない?」


「なっ、何言ってんだ。そんなわけないだろ。私は皇女としての責務を果たすためにだな――」


 目を泳がせながらアリスが早口でそう取り繕っていた。


「うん、それで、本音は?」


「……まあ、少しくらいなら乗ってみたいと思ってるけど」


 やっぱりか、私は腕を組んで少し考え込む。まぁでも冷静に考えるとこれは結構いい案だと思う。相手の動きを抑制することも出来るし、なによりアリスも安全になるかもしれない。


 なんて考えていたら、ルーナがそっと手を挙げた。


「あの……私も乗ってみたいんですけど」


 少し気まずそうにルーナが笑った。


「うん、でも人のいないとこでね」


 その後も、暫くそんな話をしていたらネザリアの街が見えてきた。

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