■第82話 クレア・オプスクリタ
食事が終わると、セバスが手際よく全員にお茶を用意してくれた。
「さて、本題は魔王城に着いてからのつもりであったが、せっかくなので今済ませてしまうかのぅ」
「そっ、そうですわね。では私からご説明させていただきますわ」
アリスが聖公国で広まっている噂の件や、魔の森で魔獣に襲われたこと。
そして魔獣を操っていた男について説明した。
「ふむ、そんなことがあったのか。確かに魔王国でもそのような噂があることは聞いていたがのぅ」
「はい。ですので今回は、三国の良好な関係を世間に知らしめるため訪問させていただいたのです」
「うむ、まぁそれに関してはこちらでもすでに手を打っておる」
アルテシアの言葉にアリスが首をかしげる。
「あの……手を打ったというのは?」
「それは明日になればわかる。しかしその逃げた男というのが気になるのぅ」
「帰還の魔石を使ったそうです」
「なるほど……セバス! 最近帰還の魔石をどこに売ったか調べられるか?」
「はい、希少な品ですのである程度はわかるかと」
えっ、もしかして魔王国が売ってるの?
「あの、その魔石って魔王国が売ってるんですか?」
私は思わず口を挟んでしまった。
「ええ、帰還の魔石は我が国でしか産出されませんので」
セバスが目を伏せ静かに答えた。
「そうなんですか、もし誰に売ったか判明したら教えてください」
販売ルートから、あの男の正体に近づけるかもしれない。
「うむ、それはかまわんが。おぬしその赤い瞳、人間かと思っておったがもしや吸血鬼か?」
「あっ、はい。そうです……」
嘘をつくわけにはいかないと思ったので正直に言ってしまった。
「失礼、少しよろしいでしょうか?」
セバスが一歩前に出る。
「はい?」
「申し遅れました、私は魔王さま補佐を務めております。吸血鬼族の長、セバストス・ゼーゼマインと申します」
「あっ、はい。よろしくお願いします」
うわ、吸血鬼の長なのかこの人。
じゃあ、たぶん私のことを知ってるよねこれ?
そう考えていた矢先、セバスが予想外の言葉を口にした。
「もしやあなたはクレア・オプスクリタさまのご息女なのではありませんか?」
「はい? おぷ……栗太?」
いや、私そんな名前じゃないですけど?
ってかご息女? 私が?
「んっ? クレア・オプスクリタとは吸血鬼の王じゃったかのぅ? 昔一度会った気がするが……おぬし、その娘なのか?」
アルテシアのその問いに私がどう答えようかと悩んでいると、セバスが口を開いた。
「はい。三百年前に魔神と相打ちになったと聞いておりましたが、失礼ながらあなたはあのお方に瓜二つでございましたので」
うん、それはまぁそうでしょうね。だって本人なんだもん。
でも私って魔王国では封印ではなく死んだことになってるのか。
しかしどうしよう、娘って設定にした方がいいのかこれ?
下手に否定したら、逆に怪しまれるかもしれない。
でも、これは吸血鬼のことを知れるいい機会かもしれないし。
よし、ここは少し探ってみるか。
「あの、もし私が娘だったらどうしますか?」
そう言うとセバスが目を見開いた。
「おお……やはりそうでしたか! あなたのお名前をお教えいただけますかな?」
「えっと、クレアです」
「なんと、名も継いでおられるのですな」
「あの、ところでさっきのおぷ……なんとかっていうのは何なのでしょうか?」
「オプスクリタですかな? 通り名のようなものですな、『光と闇の調停者』という意味でその名で呼ばれておりました」
なるほど、通り名だったのか……意味はよく分からないけど。
しかしそんな大層な名前で呼ばれていたなんて、今の私には少し違和感がある。
「もし本当にあなたがあのお方の血を継ぐ者であるならば、我ら吸血鬼族にとってこれほど喜ばしいことはございません」
あっ、この流れは……。
「クレア殿、吸血鬼の街へ来て私たちの新たな長になってはいただけませんかな?」
やっぱりそうなっちゃうか。
「いえ、私はアリスレートさまの護衛ですのでそういうのは……申し訳ないのですが出来れば私のことは内密にお願いしたいのですが」
「……承知しました。何か事情がおありなのですね」
何かを察したようにセバスは静かに頷いた。
なんとか納得してくれたようで、それ以上この話を続けることはなかった。
騙してしまって少し悪い気もしたけど、これで諦めてくれたかな?
すると話を聞いていたアルテシアが腕を組んで私を見る。
「なるほど、正体を隠したくてフードを被っておったのか。まぁ、わらわも秘密にしておくので安心せい」
「あっ、ありがとうございます」
「ところで、おぬし。アリスレートという名であったな。アリスと呼んでも良いか?」
アルテシアがアリスへ顔を向け話しかける。
「えっ……あっ、はい。それはもちろんかまいませんわ」
「おぬしの名を聞いて思わずアリスローゼを思い出してしまってな。ついそう呼びたくなってしまったのじゃ」
「それは確か使徒さまの……」
アリスが少し身を乗り出した。
「うむ、わらわと同じマサヤの妻じゃ。帝国の皇女であったがおぬしによく似ておったぞ」
「私に似ていたのですか?」
「まぁ、おぬしほど礼儀正しくはなかったがのぅ」
「あっ、あら、そうなのですか。おほほほ」
私がじーっと見ていると、アリスは気まずそうに口を尖らせた。
「なんですの?」
「いえ、なんでもないです」
アリスの性格って遺伝なのかな?
ってか帝国の皇女ってみんなこんな感じだったのだろうか?
そんな感じでこの日の話し合いは終わったのであった。




