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■第78話 魔の森に潜む影

 フィオナから聞いた話を、私は一人で抱えておくべきなのか迷っていた。

 魔神復活の可能性。

 人族と魔族の間に広がるかもしれない争い。


 でも、それをアリスやルーナに話すと余計な不安を与えるかもしれない。

 それに機密って言ってたし、今は教えない方がいいかな。


 だから今は、魔王国での話し合いを成功させることだけを考えよう。

 そんなことを考えながら私はアリスの私室に入る。


「失礼しまーす」


 部屋の中にはアリス、ルーナ、モニカ、そしてクロがいた。

 みんなで魔王国訪問の打ち合わせでもしてたのかな?


「おっ、クレア。何してたんだ?」


「ああ、ちょっとフィオナさまとお話ししにね」


「話ってなんだ?」


「えっ、いや。別に大したことじゃないよ」


 私がそう言うと、アリスは少し怪訝な顔をして、ソファーをポンポンと叩いた。


「まぁ、とりあえず座れよ」


「あっ、うん」


 言われたように座ると、アリスが顔を近づけてくる。


「それで、なんの話だったんだ?」


 うわ、顔が近い……ふわっといい匂いがした。


「ええっ、いや。ほんとにアリスたちに伝えるようなことじゃ……」


「本当にか? 私の目を見て言ってみろ」


 なんでこんなに鋭いんだ?

 私ってそんなにわかりやすいんだろうか?


「うっ、その……実は――」


 結局アリスの勢いに負けて話してしまった……国家の機密情報を。

 でもしょうがないよね?

 アリスが悪いんだよ。


 あんな真剣な顔で見つめられたら、隠し通せるわけがない。

 だって……可愛いんだもん。


「なるほど、魔神の復活か……それならなおさら魔王国との関係を壊させるわけにはいかないな」


「そうね、まさかそんな可能性があったなんて」


「まだ確証はないらしいから、これはここだけの話にしてね」


 話したことがバレたらフィオナやジルベール宰相に怒られそうだし。


「ああ、分かってるって。ばあさんがクレアに話したのも、信頼しているからだろう」


 アリスは真剣な表情で頷いた。


「その件はとりあえずジルベール宰相に任せて。私たちは魔王国との友好関係をしっかり築くことに集中しよう」


 そうしてその後も、みんなで打ち合わせを続けた。


 そして数日後。

 いよいよ魔王国へ向かう日がやってきた。


 私たちが出発用の馬車へ向かって歩いていると。聖公国に行った時と同じようにシオンやティアなどたくさんの人が見送りに来ていた。


 全員に挨拶が終わると、馬車に乗りこむ。


「それでは、出発いたします」


 エルネアが合図を出し、ゆっくりと馬車が動き出す。


「本日は魔の森を抜け、魔王国領のネザリアの街で一泊します。翌日魔都ゼノアースへ到着する予定となっております」


 モニカが行程を説明してくれた。


 前回は魔の森の街道を進み、途中で北へ向かったのだが、そのまま直進すると魔王国へ続いているらしい。


 魔の森。

 魔力濃度が高く、強い魔獣が多い場所なのだが。

 護衛も十分いるし、特に問題なく通過できるはずだ。


 そう思っていた。


 数時間後、私たちは魔の森の中の街道を進んでいた。

 今のところ、特に問題は起きていない。

 窓の外には、巨大な木々が並び、濃い魔力を含んだ空気が流れている。

 以前来た時と変わらないように見える。


「ネザリアに着くの夕方頃かな? それまではちょっと退屈だね」


 私がそう言うと、クロが辺りを見回しながら呟いた。


「いや主、そうでもないかもしれんぞ」


「えっ? クロちゃんそれはどういう事?」


「うむ、森がおかしい」


 クロがそう言うので私は《気配察知》を発動する。


 すると――。

 少し離れたところに大勢の魔獣の気配があった。


「えっ? なにこれ?」


 座席で寝転んでいたアリスも咄嗟に起き上がる。


「何匹いるんだこれ?」


 アリスの表情から、いつもの余裕が消えていた。

 それほどまでに、感じ取れる気配の数が異常だった。


 百匹は優に超えているだろう。

 二百? いや、もっとかもしれない

 普通なら、魔の森にこれほどの数の魔獣が集まって行動すること自体がおかしい。


「しかし、変だな。こいつらまっすぐこの馬車に向かってきてないか?」


 アリスの言葉に、私はもう一度気配を探る。


 確かにそうだ。

 魔獣たちは森を駆け抜け、一直線にこちらへ向かっている。

 まるで……私たちの存在を最初から知っているかのように。


「うん、たしかにこっちに向かってきてるね」


 馬車の窓を開けてアリスが騎士たちに声を掛ける。


「エルネアさん、この先から大量の魔獣が向かってきていますわ。数は百以上、注意を」


「なっ、総員警戒! 魔獣が来るぞ」


 エルネアが指示を飛ばすと、騎士たちが馬車を守るように陣形を組む。


「ねぇ、この数だし。私が行った方がいいよね?」


「そうだな、私も行こう」


 私とアリスが馬車から出ようとすると、クロに手を引かれた。


「ん? クロちゃんどうしたの?」


「我も少し体が鈍っていたのだ」


 そう言ってクロはポンッと小竜の姿になる。


「えっ、なんでその姿に?」


「あのまま大きくなったら服が破れてしまうであろう?」


「ああ、確かに」


 私が床に落ちたメイド服を見ていたら、アリスがニヤッと笑った。


「よしクロ、前に話したアレをやるか?」


「うむ、良いぞアリスよ」


 小竜姿のクロもニヤッと笑ったような気がした。

 二人の会話に、私は嫌な予感を覚える。

 この二人がこういう顔をしている時は、大抵ろくなことにならない。


「……ちなみに、周りの被害は大丈夫だよね?」


「ああ、もちろんだ」


 アリスは自信満々に答えたが、クロは少しだけ視線を逸らした。


「うむ……たぶん大丈夫だ」


「クロちゃん、今ちょっと間があったよね?」


 そうして私たちは馬車から降りた。

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