■第76話 決意
今日はようやくゆっくりできると思っていたのだが――。
各国の要人のお見送りをしないといけないらしい。
なので私たちは朝から来賓の方々のお見送りに追われていた。
海商連合ヴェネトのゼニアール総会長、ルグレシア王国のミレーヌ王女。
そして最後に――。
「わざわざ見送りに来てくれてありがとう、アリスレート殿下」
「いえいえ、道中お気をつけてくださいね。ノエルさま」
今は魔法国家ルミナスのノエル王女のお見送りなのだが。
「ところでルミナス訪問はいつ頃になりそうかね? 早くクレア殿の魔力を調べてみたいんだが」
ノエルは私に視線を移す。
「あの、私の魔力ってそんなに変わってるんですか?」
ノエルが一歩前に出て、私の顔を覗き込んだ。
「うむ、実に面白い魔力だ。光と闇。本来なら相反する二つの属性が、君の中では不思議なほど調和している。こんな魔力は初めて見たよ」
いや、そんなこと言われても私にはよく分からないんだけど。
しかし、ノエルはお構いなしに続ける。
「さらに魔力の流れを探ると、他の属性の気配まで感じる。もしかして君、全属性を持ってるのでは?」
えっ、なんでわかったの?
鑑定スキルじゃないよね?
するとアリスが小声で告げた。
「ノエルさま、クレアのお話はまた後日でお願いしますわ。それから今お話になったことは他言無用でお願いします」
「ほう、なるほど。ではその時を楽しみにしているよ。クレア殿、ではまた」
ノエルは胸に手を当て一礼して馬車に乗り込んだ。
ふぅ……何とか助かったけど、妙に鋭い人だったな。
「モニカ、これでお見送りも終わりですわね?」
「はい、お疲れさまでした。では戻りましょう」
そうして私たちはモニカとともにアリスの部屋へ戻ると。
「おかえり、主」
部屋に入ると、クロがお茶の準備をしてくれていた。
「あっ、クロちゃんお茶用意してくれたんだ。ありがとね」
「うむ」
そうして私たちはソファーに座り、クロの入れてくれたお茶で一息ついた。
「はぁ、疲れた。ねぇアリス、あのノエルって王女さまは以前から知り合いだったの?」
「ノエルは皇立学院に二年ほど留学していたからな。私より一つ上の先輩ということになる」
「えっ、そうなの? ってかなんで私が全属性持ってるのわかったんだろ?」
「あいつはばあさんと同じ魔法神の加護を持ってるから魔力を正確に感知できるらしい」
「ああ、フィオナさまと同じ加護を持ってるんだ」
「ちなみにばあさんの弟子でもある」
あっ、なんだかそんな感じがしたけどやっぱりそうだったのか。エドガー学院長といい、ノエル王女といい……フィオナの弟子って、みんな魔法への興味が強すぎるんじゃないかな?
ルミナスに行ったら私……解剖とかされちゃいそうで怖いんだけど。
「うーん、行ってみたいような、近づきたくないような、複雑な気分だよ……」
「まぁ、ルミナスへ行くのはもう少し先だし。まずは魔王国訪問の準備だな」
そうだった、まずは魔王国だ。
「出発はいつになるかもう決まってるの?」
私がそう聞くとモニカが答えてくれた。
「はい、五日後に出発となります」
「五日後か、ならそれまではちょっとゆっくりできるかな?」
「そうだな、私も式典やらパーティーやらで疲れたから少し休みたい」
アリスは頭の後ろで腕を組みソファーにもたれかかる。
「そういえばアリスは魔王国に行ったことあるの? 名前だけ聞くとちょっと怖そうな感じだけど」
「いや、行ったことはないな。でも帝国とは長い付き合いのある同盟国だし、別に危険はないと思うぞ」
「現在の魔王国は帝国や聖公国とも同盟関係にあります。もちろん国交もありますし、人間だからという理由だけで敵視されることはありませんよ」
アリスの説明にルーナが補足してくれた。
「まぁ、だからこそ聖公国で耳にした、あの噂が気になるのですよね」
「たしかに、目的がよく分からないよね」
人族と魔族の関係を悪くして何をしようとしてるんだろ?
まさか戦争を起こそうとしてるとか?
もしかして女神さまは、それを私に止めさせようとしてるのかな?
「ねぇルーナさん、その噂が原因で戦争になっちゃったりすることもあるのかな?」
「そうですね、絶対にないとは言い切れませんが。それだけで戦争になるようなことはないと思いますよ」
うん、それを聞いてちょっと安心した。
「今回の訪問で三国の友好関係を改めて示せれば大丈夫だろ。というかその噂は多分ルーナを失脚させるためなんじゃないか?」
アリスが怪訝な表情でそう言った。
「やっぱりそう思うわよね。魔族との不和を魔王の血を引く者が聖女なったからだ。とか言って、反聖女派が私を軟禁してセレストさまに聖女を代行させようとしてるのかしらね」
「そんなとこだろうな。まぁそんなことは私がさせないけどな」
アリスは当たり前のことを言うように笑った。
だけど私はその言葉に少し感激してしまった。
仮にそうなったとしてもアリスは全力でルーナを守るんだろうな。
今はだらしなくソファーに身を投げ出しているが、やっぱりアリスは皇女さまなんだな。私も、この旅ではちゃんと皆の役に立たないと。
……と思ったけど、私に出来る事って何だろう? 私は最強の吸血鬼だから、護衛として物理的に二人を守ることは出来るだろうけど。
でも、それだけでいいのかな。
アリスはいつも相手の立場を考えて行動している。
ルーナも不安を抱えながら、聖女としてみんなを支えている。
それなのに私は――。
「クレア? 何をそんな難しい顔してるんだ?」
「あ、いや……私ってちゃんと役に立ててるのかなって」
私がそう言うと、アリスは少し驚いたように目を丸くした。
「何を言ってるんだ?」
「だって、私が出来ることって戦うことくらいだし」
「それは違うだろ、クレアがいたから助かったことは何度もある。力だけの話じゃなくて」
「そうかな?」
「ええ、クレアさんはいつも私を支えてくれていますよ」
「でも私は……何もしてないし」
「ふふっ、誰かの不安を取り除いたり、前を向く勇気を与えたりすることも、人を守ることだと思いますよ」
ルーナの言葉に私は思わず首を傾げた。
「誰かを守るというのは、剣を握ることだけではありませんから」
「そういうことだ。まぁ、難しく考えなくていいと思うぞ」
「うん……わかった」
私は小さく頷いた。
魔王国では、今までとは違うことが起こるかもしれない。
だけど……私は私に出来ることをしよう。
剣を握ることだけじゃなくて。
みんなを守るために。




