■第75話 各国の重鎮たち
一通りの挨拶を終えると、アリスが席を立った。
「ではクレア、行きますわよ」
「えっ、どこに?」
「次は会場を回ってお話をしに行くんですわ、そうですわね。まずはミレーヌさまのところに行ってみましょう」
会場で貴族たちと歓談しているミレーヌを見つけてアリスはそう言った。
「あっ、はい」
そうしてアリスと共にミレーヌ王女のところへ向かう。
「ごきげんよう、ミレーヌさま」
「あら、アリスレート殿下」
二人は笑みを浮かべながら、各国の情勢や今後の交流について穏やかに言葉を交わし始めた。
……うん、これは私が口を挟む話じゃないね。ぼーっと二人の話を聞いていると、不意に恰幅のいい中年男性が私へ歩み寄ってきた。
「おやおや、これはクレア殿ではありませんか」
「あっ、はい。本日はお会いできて嬉しいです、ゼニアールさま」
とりあえずそんな感じで一礼しておいた。
確かこの人は海商連合ヴェネトを率いる総会長――だった気がする。
「勇者誕生の知らせは、もう大陸の各地まで届いております。私ども商人にとっても実にめでたい知らせでございます」
ゼニアールは料理の盛られた皿を片手に、豪快な笑みを浮かべていた。
……いいなぁ。そのお肉、美味しそう。
「おや? 料理が気になりますかな?」
「いえ……その、お肉が美味しそうだなと思って見ていただけで」
あっ、これはちょっと失礼だったかな?
そう思ったが、ゼニアールは大きな声で笑った。
「はっはっは! これはお恥ずかしい。私は食べることと商いが生きがいでしてな。いや、こちらの料理は実に素晴らしいですな」
「そうなんですね、私も美味しいものを食べるのは大好きです」
「おお、そうですか、でしたら是非とも海商連合へお越しください。食べ物に関しては大陸一と言われておりますからな」
「はい、いずれアリスレート殿下と訪問させていただきます。その時は美味しいもの、楽しみにしています」
「はっはっは! ではご来訪をお待ちしておりますよ」
そう言ってゼニアールは別の料理を取りに行ってしまった。
……やっぱり本当に食べるのが好きなんだ。
なんと言うか、豪快な人だな。
「クレアもお話は終わったようですね」
アリスが声を掛けてきた、どうやらミレーヌ王女との話は終わったらしい。
「次はあちらへ参りますよ」
「あっ、はい」
えっ、まだ続くの……さすがに疲れてきたんですけど。
しかし、アリスは大丈夫なんだろうか?
さっきから休む間もなく笑顔で挨拶を続けている。
それでも疲れを表に出すことなく、堂々とした姿勢で歩いて行く。
そして一人の少女に声を掛ける。
「ノエルさま、本日はご来訪いただきありがとうございます」
確かこの少女は魔法国家ルミナスの第一王女だ。
薄い緑の長い髪に青い瞳、パステルイエローのドレスを身にまとっている。
胸元には魔法国家の象徴である七色の魔石をあしらったブローチが輝いている。
だが、なぜだろう?
彼女は虫眼鏡のような物で料理をしげしげと眺め、何やらぶつぶつ呟いていた。
その立ち居振る舞いはどこか王族というより学者を思わせた。
「おや、アリスレート殿下、わざわざ来てくれたのかい?」
「ええ、久しぶりにお会いしたのでもう少しお話を、と思いまして」
「相変わらずだね君は、おや? クレア殿も一緒だったのかい」
「あっ、はい。護衛ですので」
「うん、やはり君は変わった魔力を持ってるね」
ノエルが私に一歩近づき顔をのぞき込む。
えっ、なんかこの人エドガー学院長と同じ匂いがするんですけど?
「あの、なんでしょうか?」
「おっと、失礼。どうにも堅苦しい挨拶は苦手でね。改めて名乗らせてもらおう。魔法国家ルミナス第一王女、ノエルだ。よろしく」
そう言ってノエルは胸に手を当て一礼する。
「ところでその魔力、私に少し調べさせてもらえないだろうか?」
「ええっ?」
いやいや、何を調べる気なの? この人ちょっと怖いんですけど?
「ノエルさま、今はパーティーの最中ですわよ。そういうお話はまた後日」
「ああ、それもそうだね。では君たちがルミナスに来るのを楽しみにしてるよ」
そしてその後も何人かと挨拶を交わし、気づけばパーティも終盤になっていた。
アリスが最後に挨拶をして、私たちは一足先に会場を後にした。
部屋に戻ると、アリスがベッドに飛び込んだ。
「はぁ……やっと終わったぁ」
「うん、ほんとに疲れた……アリスはあんなにたくさんの人と話せてほんとに凄いね」
私も思わずソファーに倒れ込む。
「ああ、今日はしっかり皇女としての務めを果たさないといけない日だったからな」
アリスはベッドに寝転がり手足を投げ出し、そう言った。
「お二人とも、お疲れ様でした。ではまずお召替えを致しましょう」
「あっ、そうだね」
「もう動きたくないんだけど……しょうがないか」
私とアリスはモニカに手伝ってもらい着替えを済ませた。
すると。
コンコンッとノックの音が聞こえた。
扉を開けて、ティアとクロがそれぞれ大量の料理を乗せたワゴンを運んできた。
「わぁ……! こんなに残ってたんだ」
会場でずっと眺めるだけだった料理が、私の目の前に並べられていく。
ずっと我慢していた分、思わず頬が緩んでしまった。
「では、私はまだ仕事がありますのでこれで失礼します」
「うん、ティアさんありがとう」
ティアが手を振り、一礼して退室した。
「よし、せっかくだし食べるか。モニカも一緒に食べるだろ?」
「そうですね、ではわたくしもいただきます」
モニカも席に着くと、クロも隣に座った。
「うむ、これは食べ応えがありそうだぞ」
実に嬉しそうな顔をしていた。
「たくさんあるしルーナさんも一緒に食べようよ」
「ええ、私も会場では何も食べられなかったから嬉しいです」
私とルーナも席に着き、料理をお皿に乗せていく。
「ん~! このお肉柔らかっ!」
「ふふっ、クレアさん、会場ではずっとお料理を見てたものね」
「だ、だってすごく美味しそうだったのに、全然食べられなかったし!」
「うむ、この肉は我のものだ」
「ちょっ、クロちゃん! それ私が狙ってたやつ!」
「まだたくさんありますから落ち着いてください」
私たちは笑い合いながら料理を平らげた。
今日は偉い人たちと話したりで色々大変だったけど、こうしてみんなでごはんを食べる時間が一番落ち着く。
明日からまた忙しくなりそうだけど……今だけは、この幸せな時間を楽しもう。




