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■第74話 社交デビュー

 それから数時間後。

 私たちはパーティのために礼装へ着替える。

 式典と同じでもいいんじゃ? と思ったがそれでは駄目らしい。


 アリスは豪華な水色のドレスに身を包み、皇族の証である青い宝石が埋め込まれた金のティアラを頭に載せていた。


 うん、式典の時の凛々しい姿とは少し違って、今は完璧なお姫さまだ。


 ルーナも純白のドレスに身を包み、穏やかな笑みを浮かべている。そこに立っているだけで神聖な空気が漂うんだから、本当に聖女さまってすごいね。


 ……そして私は、華やかさと威厳を併せ持った深紺のドレスに着替えていた。


 肩から胸元にかけては、金糸で帝国の紋章が刺繍されていて、腰には細身の飾り帯まである。スカートは歩きやすいよう控えめに広がり、護衛らしく動きやすさも考えられた仕立てになっている。


 さらに髪には小さな赤い宝石の髪飾りを付けられ、すっかり貴族のご令嬢みたいな雰囲気になってる。


「まぁ、とても素敵ですよ。アリスと並ぶと、護衛というより皇族のお一人のように見えますよ」


 ルーナが私の姿を見て、手を組みそんな事を言っていたのだが。

 鏡に映った自分を見ても、どうにも見慣れない。

 ……なんだか着せ替え人形になった気分だよ。


「では首元はこちらで隠しておきましょう」


 モニカはそう言って、シルクのネックスカーフを丁寧に巻いてくれた。


「これなら首輪も見えませんし、礼装としても違和感はありません」


「あっ、うん……さすがモニカだね」


 それからしばらくすると。


「では、そろそろ会場へ向かいましょうか」


 モニカに連れられて私たちが大広間へ向かうと、扉の前には正装した騎士が立っていた。騎士は私たちを見ると一礼し、静かに扉を開く。


 中に入った瞬間、思わず息をのんだ。


「うわぁ……」


 大広間には巨大なシャンデリアが幾重にも輝き、磨き上げられた床にはその光が映り込んでいる。


 色とりどりのドレスや礼服に身を包んだ貴族たちが談笑し、各国の使節も思い思いに歓談していた。


 ……さすが帝国の祝賀パーティ。

 聖公国のパーティもすごかったけど、これは規模が違いすぎる。

 中に入ると、会場中の視線が一斉にこちらへ向けられた。


「うわっ……またこれ?」


 思わず小声で呟く。


「慣れておきなさい、今後もこういう場に出る機会はもっと増えますわよ」


 アリスが小さく笑う。


「うぅっ、帰りたくなってきた」


 そう呟きながらも、しかたなく会場の中を進んでいく。

 ふと前を見ると、会場の奥には一段高くなった席が設けられていた。

 中央には、オルクス陛下が悠然と腰を下ろしていた。


 その隣は恐らくアリスの席だろう。

 そして反対側にはルーナの席が用意されている。


 ……うん、それは分かる。

 でも、そのさらに隣にも椅子が一脚置かれていた。


 えっ……もしかして、あそこに私が座るの?

 いやいやいや、絶対場違いでしょ。

 モニカに案内されアリスとルーナが席に着く。


「ではクレアさま、こちらへどうぞ」


 やっぱり私かぁー!


「はぁ……しょうがないか」


 観念して席に腰を下ろす。

 うん……落ち着かない。

 周りは皇帝に勇者、聖女、それに各国の要人ばかり。

 どう考えても私だけ庶民なんだけど。


 全員が席に着いたのを見届けると、オルクスがゆっくりと立ち上がった。

 ざわめいていた会場が、一瞬で静まり返る。


「諸君。本日は我が帝国の勇者就任を祝い、このように集まっていただいたこと、心より感謝する」


 陛下の力強い声が大広間に響く。


「我が娘である、第一皇女アリスレートは女神に選ばれし勇者として、帝国のみならず世界を守る使命を授かった」


 会場の誰もが真剣な表情で耳を傾けている。


「しかし勇者の力は、共に歩む者たちがいてこそ輝く」


 陛下はそう言って、アリス、ルーナ、そして私へと視線を向けた。


「支える仲間がいてこそ、その力は真価を発揮する。聖女ルーナ殿、専属護衛のクレア殿をはじめ、多くの者たちと共に歩んでいくこととなろう」


 思わず背筋が伸びる。

 まさか私まで陛下の挨拶に出てくるとは思わなかった。


「帝国は今後も諸国との友好を大切にし、共に平和な未来を築いていきたい。本日はどうか、勇者アリスレートの門出を祝う宴を楽しんでいただきたい」


 陛下が高々とグラスを掲げる。


「乾杯!」


「「「乾杯!」」」


 無数のグラスが掲げられ、澄んだ音色が大広間へ響いた。


 オルクスの挨拶が終わり、会場が再び賑わいを取り戻した、その時だった。

 一人の女性がアリスの前に歩み寄る。


 艶やかな金色の髪を背中まで流し、エメラルドグリーンの瞳を優しく細めている。淡いアイボリーのドレスを身にまとい、その立ち居振る舞いはとても気品に満ちていた。


 その女性はアリスの前で立ち止まり、指先でスカートの裾をふわりと持ち上げ一礼する。


「ルグレシア王国第一王女ミレーヌ・ルグレシアと申します」


 ……なんだかお姫さまみたいな人だと思ったら、ほんとにお姫さまだった。


「アリスレート殿下、この度は勇者ご就任おめでとうございます」


「ありがとうございます、ミレーヌ殿下」


「今後とも両国の友好が末永く続くことを願っております」


「ええ、私もルグレシア王国を訪れる日を楽しみにしておりますわ」


 アリスは上品な笑みを浮かべ、一礼する。


「ええ、その時はご一緒にお茶でも飲みましょう」


 そう言ってミレーヌは私の方へ目を向けた。


「そちらの方が専属護衛のクレアさまですね。本日はお会いできて光栄です」


「えっ、私ですか? あっ、その……よろしくお願いします!」


「ふふっ、お噂は伺っております。勇者さまを支える、とても頼もしい護衛だとか」


 えっ、それってどんな噂なの?

 ……ってか私、もしかして各国に知られてるの?


 そのままミレーヌは一礼してその場を後にした。

 その後も各国の王族や貴族たちが次々と挨拶に訪れた。


 もちろん勇者であるアリスや聖女のルーナへの挨拶が目的なのだが、なぜか最後には必ず私にも声を掛けてくる。


「クレアさま、今後ともよろしくお願いいたします」


「お会いできて光栄です」


「勇者さまをよろしくお願いいたします」


「は、はい!」


 そのやり取りを何度も繰り返しているうちに、だんだん笑顔が引きつってきた。

 ……お願いだから、もう勘弁してください。


 テーブルの向こうには美味しそうな料理が並んでいるのに、全然近づけない。

 私が料理をチラチラ見ていると、後ろに立っていたモニカがこっそり声を掛けてきた。


「余ったお料理は、後でクロさんとティアさんにお部屋まで運んでいただくよう手配しております。ですので、今は我慢してくださいね」


 会場の隅へ目を向けると、クロはティアと一緒に料理や飲み物を運んでいた。

 ……どうやら今日は、ちゃんとメイドとして働いているみたいだ。


 はぁ、しょうがないな。クロも頑張ってるし、私ももう少し頑張るか。

あれ?

明日の午前に予約投稿したつもりだったのですが、なぜかそのまま投稿されてました。多分明日は更新お休みになります。……すみません。

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