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■第72話 勇者の試し斬り

 式典は終わったが、街ではこの後まだお祭りがあるらしい。

 本来なら、このまま部屋に戻って夜のパーティの準備……のはずなのだが。

 私たちは、アリスに連れられてなぜか騎士団の訓練場に来ていた。


「あの、なんでこんなところに?」


 私がそう聞くと、アリスはニヤッと笑ってこう言った。


「勇者になって新しいスキルを使えるようになりましたからね。少し試してみたいんですわ」


 どこか嬉しそうにアリスは目を輝かせていた。

 うん、やっぱりこうなるのか。

 こういうところは相変わらずだな。


 訓練場には騎士が数人待っていたが、その中には第一騎士団団長セルジュやエルネアの姿もあった。


「おお、アリスレート殿下。この度は勇者就任、誠におめでとうございます」


 セルジュとエルネアが一礼する。


「ふふっ、ありがとうございます。今日はセルジュ団長にお相手をお願いしてもよいでしょうか?」


「ええ、もちろんです。勇者さまにお手合わせ頂けるなどめったにないことですからな。はっはっは」


 セルジュは豪快に笑っていた。


 そして訓練場の中央へ向かい合って立つアリスとセルジュ。

 二人とも木剣を手にしているが、その立ち姿だけで周囲の空気が張り詰めた。

 周りにいた騎士たちも息をのんで二人を見守っている。


「では、参りますぞ」


 セルジュが静かに木剣を構える。

 対するアリスも聖剣ではなく訓練用の木剣を構えた。


「ええ、いつでもどうぞ」


 次の瞬間。


 バンッ――!

 地面を蹴る音が響き、セルジュの姿が一瞬で消える。


 おお、速い! さすが団長だな

 気づいた時には、もうアリスの懐へ踏み込んでいた。

 鋭い一閃がアリスに迫る、だが。


 ――カンッ!

 アリスは危なげなく木剣で受け止める。


「ほう……普通の騎士なら今ので終わっていたのですが、さすがですな」


 セルジュが感心したように目を細めた。

 そこから二人の激しい剣戟が続く。


 カン! カン! カンッ!

 木剣同士とは思えない鋭い音が訓練場へ響き渡る。


「これは……すごいね」


 私は、思わず見入ってしまう。こういう剣での戦いって初めて見たけど、二人の技術の高さは素人の私でもなんとなくわかる。


 セルジュも確かに強い。

 けれど、アリスも森で魔獣と戦っていた時よりはるかに強くなっている。

 勇者になったことで身体能力も上がったんだろうか?


 一つ一つの動きに迷いがなく、まるで長年積み重ねてきた技がさらに研ぎ澄まされたようだった。


「殿下、お力を試されたいのでしょう?」


 セルジュがそう言うと、一歩距離を取る。


「ふふっ、それでは本気で行かせていただきますわ」


 木剣を正面に構え、アリスが静かに呟いた。


「――これで決めますわ、《身体強化》《聖光剣》《剣神》」


 身体強化に加えて、覚えたばかりの聖光剣と剣神、合わせて三つのスキルを同時に発動する。するとアリスの体が淡い黄金色の光に包まれた。


「なっ……同時に三つですと?」


 アリスの剣筋から無駄が消え、最小限の動きで最短距離を描く一太刀。

 まるで、今まで磨いてきた技術が一瞬で何倍にも引き上げられたようだった。


 カン! カン! カンッ!


 激しい剣戟の末、アリスは一歩退いて身をかがめる。


 ――ドンッ!

 凄まじい踏み込みと同時に、一瞬でセルジュの目の前に移動する。


 ――ガンッ!

 重い一撃を受けたセルジュは滑るように後退する。

 だが、そのまま崩れない。


「これは……技術では敵いませんな。しかし私とてあの陛下と何度も手合わせを重ねてきたのです。経験では負けませんぞ!」


 低い姿勢から鋭く切り返す。


 ――バキィッ!  ドンッ!

 セルジュの剣戟をアリスは難なく受け止め、そのまま弾き返した。


「くっ……!」


 セルジュは距離を取って体勢を立て直すが、その表情には驚きが浮かんでいた。


「これほどとは……」


 周囲の騎士たちもざわつき始める。


「おお、あの団長が押されてる……」


「これが勇者の力……」


 アリスが木剣を構えたまま、小さく首を傾げた。


「思った以上に体が軽いですわね。まるでスキルが剣の使い方を教えてくれているみたいですわ」


 どうやら本人も少し驚いているみたいだ。

 セルジュは苦笑しながら木剣を持ったまま両手をあげる。


「これ以上続ければ木剣が持ちませんな……降参です。いやはや、本当にお強くなられましたな」


「ふふっ、ありがとうございます。でも、まだまだですわ。もっと鍛錬を積んで、いずれは陛下よりも強くなってみせますわ」


 そうして二人は握手を交わしていた。

 その光景を見て、周囲の騎士たちから大きな拍手が湧き上がっていた。

 うん、二人ともほんとに強かった。


 特にアリスの剣神はレベル1であれなんだから末恐ろしいな。

 そんな風に感心していたら……次の瞬間、私の体に悪寒が走った。


「いやぁ、勇者の力というのは実に素晴らしいですな」


 セルジュの言葉にアリスは満足そうに木剣を肩へ担ぐ。


 あっ、この流れは……ものすごく嫌な予感がする。

 次にアリスが何を言い出すのか、なんとなくわかった。


「ねぇ、モニカ。私、ちょっと部屋に――」


「ではクレア! 次はあなたですわ!」


 アリスがニヤッと笑うのが見えた瞬間、私はスキルを発動する。


 ――「《影渡り》」


「あら? クレア?」


 私はスキルを使ってその場から逃げた。

 勇者の試し斬りなんて、絶対にお断りである。

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