表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/84

■第71話 式典

 三日後――。

 勇者就任式当日の朝。


 まだ朝も早いというのに、お城の中は慌ただしく人が行き交っていた。侍女たちは式典の準備に追われ、騎士たちは正装に身を包み、持ち場へと向かっていく。


「さて、いよいよ今日だね」


 私は窓から城下町を見下ろした。

 帝都の大広場には、すでに大勢の人々が集まり始めている。

 広場を囲む建物には帝国旗が掲げられ、まるでお祭りのような賑わいだった。


 うん……なんかめちゃくちゃ緊張してきた。


 コンコンッ。

 部屋をノックする音が響く。


「クレアさん、おはようございます」


 元気な笑顔で入って来たのは、ティアだった。

 モニカはアリスの準備で忙しいのだろう。


「おはようティアさん、わざわざありがとうね」


「いえいえ、ではお着換えをいたしましょう」


 私はティアに手伝ってもらい礼装を整える。

 鏡の中には、いつもの私とは少し違う姿が映っていた。


「とてもお似合いですよ」


「ありがとう。でも、なんだか自分じゃないみたいで変な感じ……私がこんなの着ていいのかな?」


「ふふっ、大丈夫ですよ。では頑張ってきてくださいね」


 ティアは笑顔で一礼して部屋から出て行った。


 それから私はアリスの私室へ向かう。

 部屋へ入ると、すでにアリスは勇者の礼装に身を包み、ソファへ腰掛けていた。


「おはようアリス、もう準備できてるみたいだね」


「ああ、クレアか。昨日はちゃんと寝れたか?」


「ははっ、まぁなんとかね」


 実は緊張であまり眠れなかった。でも吸血鬼だからなのか、体調はまったく問題ない。しばらくアリスと他愛もない話をしていると、モニカが静かに声を掛けた。


「アリスさま、ではそろそろお時間です」


 モニカの声に頷き、私たちは部屋を後にする。


 お城の正門には、すでにオルクス陛下とジルベール宰相、それにルーナの姿もあった。 いよいよ始まるんだ……そう思うと自然と背筋が伸びる。


「おはようございます、ルーナさん」


「まぁクレアさん、素敵なドレスですね」


「うん、でも私にはちょっと立派すぎる気がして……」


「ふふっ、これなら誰が見ても立派な帝国の一員ですね」


 そう言ってルーナは笑顔を浮かべた。

 ルーナはあまり緊張してないみたいだな、やっぱりこういうの慣れてるのかな?


「うむ、皆そろったようであるな」


 オルクスが私たちの方へ歩み寄り、満足そうに頷いた。


「では参ろうか。我ら帝国の新たな勇者を、国民へ披露するとしよう」


 正門の大扉がゆっくりと開く。

 その先には帝都中央広場へ続く赤い絨毯。

 脇には騎士たちがずらりと並んでいた。


 私たちはそんな中をゆっくりと歩き始めた。

 広場へ近づくにつれ、人々の歓声が聞こえてくる。


「おお、勇者さまだ!」


「アリスレート殿下だ!」


「アリスレート殿下万歳ー!」


 歓声は次第に大きくなり、広場へ姿を現した瞬間――。


「うおおおおおおっ!」


 地鳴りのような歓声が身体を震わせた。

 何百、何千という視線が一斉に壇上へ集まる。


 広場は人で埋め尽くされ、貴族や騎士だけでなく、多くの市民たちが新たな勇者を一目見ようと集まっている。


「うわぁ……これはすごいな」


 思わずアリスの後ろに隠れたくなってしまった。

 これだけ多くの人に見つめられながら、堂々と歩くアリスは本当にすごい。

 やがて壇上へ上がると、歓声は静まり返った。


 オルクスが一歩前へ出る。


「帝国臣民よ。本日はよくぞ集まってくれた!」


 オルクスのよく通る声が広場へ響く。


「本日ここに、新たな勇者の誕生を宣言する!」


 再び歓声が上がる。


「皇女アリスレート・ラフローグを女神さまに選ばれし勇者として正式に任命する!」


 オルクスは高らかにそう宣言した。

 すると大きな拍手が広場を包み込む。


 アリスは一歩前へ出ると、腰に佩いた聖剣を静かに天に掲げる。

 朝日を受けた刀身が黄金色に輝く。

 その姿はまるで一枚の絵画のように美しかった。


 そして剣を鞘に戻し、穏やかに話し始める。


「皆さま。本日は、このような盛大なお祝いを賜り、心より感謝申し上げます」


 凛とした声が広場へ響く。


「勇者とは、一人で世界を救う存在ではありません」


 アリスは穏やかな笑みを浮かべる。


「志を同じくする仲間たちがいてくださるからこそ、私は勇者として歩むことができます」


 そしてアリスはルーナへ優しく手を差し向けた。


 ルーナは一歩前へ出て静かに一礼する。


「私は勇者として、聖女ルーナさまと力を合わせ、帝国、聖公国、そして世界中の皆さまが笑顔で暮らせる未来のために全力を尽くすことを、ここに誓います」


 その言葉に、多くの人々が静かに耳を傾けていた。


「皆さまの期待に恥じぬ勇者となれるよう、精一杯努めてまいります」


 演説を終えたアリスが深く一礼する。


 一瞬の静寂。

 そして――。


「勇者アリスレート殿下、万歳!」


「聖女ルーナさま、ばんざーい!」


「帝国に栄光あれーっ!」


 割れんばかりの拍手と歓声が広場を包み込んだ。

 私は思わずアリスの姿に見惚れてしまった。

 ほんの数日前まで、一緒に温泉街を歩いて笑っていた女の子。


 その彼女が今、多くの人々の希望となっている。


 ――アリスは本当に勇者になったんだ。


 そんなことを考えていたら、アリスとふと目が合った。

 アリスは少しだけ照れくさそうに笑う。


 私も小さく笑い返した。その笑顔を見たアリスは安心したように頷くと、改めて広場へ向き直り、大きく手を掲げた。


 帝都の空へ、今日一番の歓声が響き渡った。

 これで終わりかなと思った、その時。

 オルクスが再び前に出る。


「最後に皆に紹介しておこう。聖女ルーナ殿、そして勇者の直属の護衛クレア殿である。今後は勇者と共に帝国を代表して諸国を訪問してもらう」


 ルーナは静かに一礼すると、穏やかな笑顔で手を振った。


 えっ、私も前に出るの?

 どうしよう、心の準備が全く出来てないんだけど。

 行かないとだめなのこれ?


 私がそんな風に迷っていると、アリスとルーナが私を見て笑顔で頷く。

 うぅー、しょうがない……覚悟を決めて前に出る。

 そして足が震えそうになるのを必死で堪えながら、聴衆の前で一礼した。


 すみません、喋るのは無理でした……。


 すると、再び大きな拍手が沸き起こった。


 こうして、無事に式典は終了した。帝国に新たな勇者が誕生したこの日のことは、きっと多くの人が記憶に刻むだろう。


 そして私も、この日のことを決して忘れない。

 多くの人々の希望となったアリス。

 私はこれからも彼女の隣に立ち続けたいと、そう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ