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■第67話 私が作った街?

 教皇さまとの話を終えた私たちが部屋へ戻ると、アリスたちはすでにお茶を飲みながらくつろいでいた。


「おっ、お帰り。教皇さまとの話はどうだった?」


 アリスがティーカップを置きながらそう尋ねる。


「うん。実はね――」


 私は教皇さまたちとの話を順番に説明した。

 噂は人族だけでなく魔族領にも広がっていること。

 誰かが意図的に両者の不信感を煽っている可能性があること。


 そして、その解決策として――。


「ふむ……私とルーナで魔王国を正式に訪問して、友好関係を深めて来いってことか」


 アリスは静かにそう言った。


「ええ。帝国と聖公国を代表して私たちが訪問することで、三国の友好を示そうというお考えよ」


 ルーナが私の説明を補足する。


「そういうことか……たしかに理にかなってるとは思うが」


 アリスは少し考え込むようにそこで一度言葉を切る。


「私個人としては異論はないんだけど、これは政治的な話だからなぁ。それに魔王国の協力も必要ってことだろ?」


 意外なことにアリスはそんな風に少し難色を示した。

 私はてっきり、二つ返事で了承するかと思ってたけど。

 さすがにこれは、アリス一人の判断で決められる話じゃないってことか。


「それに関しても恐らく大丈夫よ、私が行けば魔王陛下なら話を聞いてくださるはずよ」


「ん? それはどういう……って、あっ。そうか今の魔王はたしか」


「ええ。今の魔王陛下は、使徒さまの奥さまだったアルテシアさまです」


 ん……今なんて?


「使徒さまの奥さん? それって前に聞いた魔王の娘の? 何百年も前の人なんじゃないの?」


「魔族にも種族ごとに寿命の違いがあるのです。魔王家は『始祖魔族』と呼ばれる特別な一族で、その寿命は千年以上とも言われています」


「千年以上……」


 思わず驚いてしまったが……でも、よく考えると私は不老不死の吸血鬼だ。

 他にもそんな種族がいてもおかしくはないか。


「ということは、そのアルテシアさんの血を引くルーナさんも長命だったり?」


「いえ。始祖魔族の特性は人間の血が入ると受け継がれないようです。ですから私は、ごく普通の人間と同じ寿命ですよ」


「そういうことなんだ」


 私とルーナがそんな話をしていると、それまで腕を組み考え込んでいたアリスが、ゆっくりと目を開いた。


「まぁ、とりあえず一旦帝国へ戻るべきだな。まずは勇者就任を陛下に報告して、この件もジルベール宰相と相談しないと」


 そう言ってアリスはモニカの方を見る。


「勇者就任の正式な披露もあるだろうし、しばらく帝都から離れるわけにもいかないよな?」


「そうですね。あと数日は聖公国に滞在する予定ですので、その間に帝都へ使いを出し、陛下と宰相閣下へご報告しておきます」


「そうだな。温泉にももう少し入りたいし二、三日のんびりするか」


 そう言いながらアリスはルーナの方へ視線を移す。

 

「ところでルーナも一緒に帝国に来るんだよな? 聖女の仕事は大丈夫なのか?」


「ええ、大丈夫よ。私がいない間はセレストさまが聖女のお仕事を代行してくださるわ」


「ああ、あの第二枢機卿の人か」


 そんな二人の話を聞いていて、そう言えば気になってたことがあったのを思い出した。


「ねぇ、セレストさんってラフォーレって家名だったけど、使徒さまと関係があったりするの?」


「ラフォーレの家名は、フォルトゥナさまの血筋の証なんです。それに、セレストさまに限らず聖公国の枢機卿は皆、使徒さまの血を引いているんですよ」


「えっ、そうなの?」


「はい、使徒さまの六人の妻たちが興した六つの家からそれぞれ枢機卿が選ばれます。ちなみに教会のトップである教皇さまはそれ以外の者から選ばれる制度になっています」


「へぇ、そういう仕組みになってるんだね」


 ってことは、あの枢機卿さんたち全員、森くんの子孫ってことだよね?

 なんというか、六人の奥さん全員と子供作ったのか……。


「本来ならあの方が聖女になられていても不思議ではなかったのですが……選ばれたのは私でした」


 ルーナはそう零すと、うつむいてしまった。

 あっ、ルーナがまたネガティブになっちゃった。


「ああ、大丈夫だよ。ルーナはちゃんと立派な聖女さまだよ。街のみんなもそう言ってたじゃない」


「ふふっ、ありがとうございます」


 ルーナは少し照れたように微笑む。


「しかし、魔王国か」


 アリスがふと呟いた。


「どうかしたの? 魔王国にはあまり行きたくないとか?」


「いや、そういうわけじゃないんだけどな。さっきルーナも言ってたが……長命種も多い国だからな」


「うん、そうだね……あっ」


 長命種が多いってことは私の事を知ってる人がいるかもしれないのか。最近はもう身バレの心配はないだろと少し油断してたけど、行ったらまずいかな?


「もしかしたら私を知ってる人がいるかも知れないって事だよね?」


「むしろクレアは魔王国の出身かもしれないしな、あそこには吸血鬼の街ってのもあるらしいし」


「吸血鬼の街?」


 思わず聞き返してしまった。


「私も詳しくは知らないんだけど。ただ、魔王国には種族ごとに集落や街を作って暮らしている場所が多いらしい。吸血鬼だけが住む街もあると聞いたことがある」


「へぇ、そんな街が……」


「そういえば、ご神託で私がクレアさんの夢を見た時『街を作った』と言ってたわね」


「えっ、それどういうこと?」


「もしかしたらその街のことなのではないかしら?」


 じゃあその街、私が作ったの? いや、正確には私になる前だけど。

 私は目を閉じてじっくり考える。


 もしそうだとしたら、私が行ったら間違いなく王さま扱いされるだろう。

 玉座に座らされたり、みんなに傅かれて、なんか儀式とかもさせられて……。

 うん、前世でなんかそんな話をラノベで読んだことある。


 きっとこういう時はろくなことにならない。

 たしかに自分の事は知りたいが、そんなのは望んでいない。


「……その街には近づかないでおこう」


「いいのか? いろんなことを知るチャンスでもあると思うけど?」


「うん、魔王国に着いたらフードでも被って、なるべく目立たないようにするよ」


「目立たない、ね。まぁクレアがそう言うなら大丈夫か」


 アリスは特に気にする様子もなくそう言った。


 あれ? 意外とあっさり信用してもらえた。

 まぁ、聖公国でも目立つようなことはしてないしね。

 教皇さまたちにも私の事はバレてないみたいだし。


 今回の目的は三国の友好を示すこと。

 いつも通り、アリスの後ろで大人しくしていればいいだけだ。

 ――それくらいなら、きっと今回もうまくやれるはずだ。

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