■第61話 パーティ準備
モニカが見せてきたドレスは肩が丸出しだし、背中まで見えている。
こんなの私が着るの?
いやいや、無理でしょ?
「これは私にはちょっと似合わないんじゃ……?」
恐る恐るそう言ってみる。
「いえ、きっとお似合いになります。まずは着てみましょう」
モニカがニコニコしながら私を見たのだが、なぜか獲物を狙う目に見えた。
「クレアって黒髪だし、肌も白いから似合うだろ。着てみろよ」
アリスまで……。
「いいじゃないこれ、絶対に似合うわよ。着てみましょう」
ルーナにまでそう言われて逃げ道がなくなってしまった。
「それに歓迎パーティーなんだから、ちゃんとした格好をするべきだろう?」
「いや、でもこれアリスの歓迎パーティでしょ? 私は護衛なんだし……エルネアさんみたいな軽鎧とかでいいじゃないかな?」
「承知いたしました、そちらをご希望なのですね……では」
私がそう言うと、モニカが荷物をごそごそ漁りだした。
「それではこちらでいかがでしょうか?」
そう言ってモニカが見せてきたのは。金属で作られた胸当てと、同じく金属製のビキニボトムだった。胸当ては妙にスポーティなデザインで、どう見ても防御力より見た目を優先している。
「いや、それビキニアーマーじゃん! どっから持って来たのそれ?」
「軽鎧をご希望とのことでしたので」
「いや、軽量化しすぎだよね? もっと布面積があるやつが欲しいんだけど?」
「ほう……これはなかなかクレアに似合いそうだな。ちょっと一回着てみてくれよ」
アリスがビキニアーマーをじっくり観察しながらそう言った。
「いやいや、似合うとか以前の問題でしょ。神聖な国のパーティーにこんな格好で出たら捕まっちゃうよ!」
「ちなみに後ろはこのようになっています」
モニカがくるりとビキニボトムを裏返し、後ろを見せてくる。
それは……Tバックだった。
もはや何も守れていない。これは本当に防具なのか?
「おお、すごいなこれ。いろいろ丸見えじゃないか」
アリスがそんな風に感心していたが、お姫さまがそんなこと言っちゃっていいのかな?
「これはなかなか興味深いわね……私は絶対着たくないけど」
あの、ルーナさん……聖女さまがそんなのに興味持っちゃだめですよ?
「ごめん……それはやっぱりなしで」
「そうですか、残念です」
なぜか本当に残念そうな顔をするモニカ。
いや、なんでそんな物を持ってきてたのか説明してほしいんだけど。
「ちなみにこれはどこで手に入れたの?」
「帝国の武具店で売っていました」
「普通に売ってるのもなんだ……」
ってことは実際に着る人もいるんだよね?
異世界ってほんとに奥が深いんだな。
「では改めまして、こちらのドレスをどうぞ」
「ああ……もうそれ着るしかないのね」
「はい」
「そうだな」
「そうね」
三人揃ってそう言われてしまった。
完全に包囲されているようだ。
もう逃げられそうにない……まぁビキニアーマーよりはましか。
そうして私はモニカにドレスを着せられた。
髪も後ろでまとめられ、銀の髪飾りまで付けられてしまった。
そして首にはいつもと違う上品なスカーフまで巻かれている。
「はい、出来ましたよ。本当によくお似合いです」
「おお、すごく似合ってるじゃないか」
「ええ、とっても素敵ですよ」
うーん、まぁそんな風にみんなに褒められたら悪い気はしないかな。
私はふと、姿見で自分の姿を見てみる。
「えっ……誰これ」
鏡の中には見知らぬ美少女が立っていた。
黒髪は綺麗にまとめられ、ワインレッドのドレスがよく映えている。
これ本当に私なの?
「ふふ、クレアさまですよ」
モニカがそう言いながら私を見ていた。
うわ、思わず自分の姿に見惚れてしまった……恥ずかしい。
「本当にお綺麗ですよ」
「うん、貴族のご令嬢みたいだぞ」
「そうね。これはパーティーでも注目を集めるんじゃないかしら」
いや、今日の主役はアリスだからね?
私は護衛なんだから目立たなくていいんだよ?
「では次はアリスさまのお着換えですね」
「ん、私か。じゃあ頼む」
そうしてアリスもドレスに着替える。
しばらくして再び姿を現したアリスは、水色の豪華なドレスをまとっていた。
髪には青い宝石をあしらった金色のティアラが輝いている。
「おお……やっぱりお姫さまモードのアリスはほんとに綺麗だね」
「モードってなんだ?」
アリスがジトッとした目で私を見る。
「いや、なんでもないよ。っていうかそのティアラも特別なものなの?」
「ああ、これは帝国皇女としての身分を象徴するものなんだ。こういうパーティでは必ず身に着けるんだよ」
「へぇ……ただの綺麗な髪飾りじゃなかったんだね」
普段は気軽に話しているけど、こうして見ると本当に皇女さまなんだな。
なんだか少しだけ遠い存在に見えてしまう。
「なんだその顔は」
「いや、アリスって本当にお姫さまだったんだなって」
「はぁ、今さらか?」
アリスはそう言って、少し不満そうな顔をしていたが。
うん、まぁこれなら私が目立ちすぎるってことはないかも。
間違いなくアリスが主役に見える。
「これで準備も出来たわね。パーティーまではもう少し時間があるから、もう少しこの部屋で休んだら会場へ向かいましょうか」
「そうだな、とりあえずお茶でも飲もう」
そう言ってアリスとルーナはソファに座る。
私はふと、もう一度姿見の前に立ってみる。
うん、やっぱりこういうのは慣れないな。
「やっぱり気に入ったんだな」
アリスがニヤニヤしながら私を見ていた。
「いや、違うからね?」
アリスの言葉を全力で否定したが、少しだけ反論しづらかった。
そうこうしていると、やがて日が傾き始め、ドアをノックする音が聞こえた。
「失礼いたします。準備が出来ましたのでお迎えに参りました」
「ありがとう、エレンさん。では参りましょうか」
迎えのシスターに案内され、私たちは歓迎パーティーの会場へ向かう。
廊下にはすでに多くの来賓たちの姿が見える。
「うぅ、なんか急に緊張してきた……」
「ふふっ、大丈夫ですわ。クレアは私の後ろにいればいいのですよ」
なぜかアリスが自信ありげに胸を張っていた。
その堂々とした姿は、まるで物語に出てくるお姫さまそのものだった。




