■第60話 教皇と枢機卿
その後、私とルーナはノートを箱に戻し、書庫を後にした。
「私はこの後、教皇さまに会いに行くんですけど、クレアさんはどうしますか?」
「えっ、教皇さまのところへ?」
私は少し考える。
どうしよう。教皇さまが封印の件を知っていたら説明が面倒な気もするけど。
「ちなみに教皇さまってどんな方なんでしょうか?」
「そうですね、お優しい方ですよ。いつも私を認めようとしない方々から私を庇ってくださってますし」
なるほど、教皇さまはルーナの味方なんだな。
話を聞く限り悪い人ではなさそうだし大丈夫かな?
まぁ、それにいずれ会うんだし。覚悟を決めて行ってみるか。
それに使徒さまの書を読んだ今なら、もう少しこの国のことを知りたい気もするし。
「わかった、じゃあ私も一緒に行くよ」
「わかりました、ではこちらです」
ルーナに連れられて城の中を歩くこと数分。
私たちは教皇の執務室へと到着した。
「レイノルドさま、ルーナです」
ルーナがノックし声を掛けると中から男性の声で返事があった。
「どうぞ、おはいりなさい」
中に入ると白い法衣に身を包んだ老人と薄い水色の髪の女性がいた。
この老人が教皇さまなのかな?
「あっ、セレストさまもいらっしゃったんですね。お取込み中でしたか?」
「いえいえ、かまいませんよ。おや、そちらは?」
セレストと呼ばれた女性が私の方を見る。
「こちらは、アリスレートさまの護衛のクレアさんです」
「ほほう、アリスレート殿下の……初めましてクレアさん。私が教皇のレイノルドです」
「初めまして、枢機卿のセレストと申します」
二人はそう言って頭を下げてくれた。
教皇と枢機卿だったのか。
レイノルドの長い白髪と髭は雪のように白く、穏やかそうな表情だがどことなく威厳も感じる。
セレストと名乗った女性は二十代前半くらいだろうか、どことなくルーナに似た神聖な雰囲気だ。
「あっ、クレアです。よろしくお願いします」
教皇というからもっと近寄りがたい人物を想像していたけど、思ったより普通のおじいちゃんに見える。
「それで、どのような御用ですかな?」
レイノルドは私にはほとんど興味を示さず、穏やかな笑みのまま用件を尋ねた。
やっぱり教皇も封印の件は知らないのかな?
そんなことを考えていると、ルーナが話し始めた。
「先ほど大聖堂で、私とクレアさん、そしてアリスレートさまが女神さまから祝福の光を賜りましたので、ご報告に参りました」
「なんと……」
「ルーナ、それは本当なの? どんな能力を頂いたの?」
「私は『調和の加護』を賜りました。人族と魔族に調和をもたらす加護のようです」
それを聞いてレイノルドとセレストは顔を見合わせた。
「人族と魔族に調和……これは天啓なのかもしれんな」
「それはどういうことでしょうか、レイノルドさま?」
「なに、今セレストと話していたんだがね。最近、人族と魔族との不和を誘うような者たちがいるそうでね」
「人族と魔族の争いは遥か昔に終わったこと。しかし最近は少し妙な噂が広がっているのです」
二人のそんな話を聞いて私はふと、女神さまの伏線を思い出した。
いや、違うよね? うん、違うと信じよう。
「妙な噂ですか?」
「いや、今は気にしなくてよい。それよりも、クレアさんとアリスレート殿下はどうだったのかな?」
「あっ、そうですね」
レイノルドにそう言われて、ルーナは私をチラッと見た。
「クレアさんはいくつかのスキルを頂いたようです。そして――アリスレートさまは勇者になられました」
私の事はうまくはぐらかしてくれた。
「なんと……勇者ですと?」
「女神さまが勇者を選ばれたというのですか?」
「はい……ただアリスレートさまが帝国に戻るまではこの件は公表しないように、とのことです」
「ふむ、確かにそれはまだ公表しない方が良いでしょうな」
レイノルドが顎鬚を撫でながら考え込むようにそう言った。
「それで、その勇者さまはルーナの味方になってくださりそうなの?」
セレストはまっすぐルーナを見つめながらそう問いかけた。
「ええ、もちろんです」
セレストの問いにルーナは笑顔でそう言った。
「そうかね、これはやはり女神さまのお導きなのでしょうな」
「ははは、そうですね。これを知った時に、ヴァルター枢機卿がどんな顔をするのか少し楽しみです」
「あの、それはいったい……?」
「いや、それはまた後で話そう。今日はアリスレート殿下の歓迎パーティーだろう? まずはそちらの準備をすすめるといい」
「あっ、そうですね。わかりました、ではこれで失礼いたします」
「ああ、報告ありがとうルーナ」
そう言って微笑むレイノルドに頭を下げて、私たちは部屋を後にした。
「ふぅ、ちょっと緊張したけど教皇さま優しそうな人だったね」
「ふふっ、そうでしょう」
「でもちょっと警戒されてるような気もしたんだけど……」
「教皇さまたちも立場がありますから。外部の方には話せないこともあるのでしょう」
「なるほど、ところであのセレストさんって人はどんな人なの?」
「あの方は、私の姉のような人ですよ。小さい頃からお世話になってるんです」
そうなんだ。だから勇者になったアリスが味方かどうか気にしていたのか。
そんなことを話しながらアリスの部屋を訪れると。
中にはモニカとクロもいた。
「おっ、おかえりー。書庫はどうだった?」
部屋に入った私とルーナを見てアリスがそう聞いてきた。
「うん、まぁ、それなりに収穫はあったよ」
「そうか、なら良かった。ところで……」
そう言ってアリスはモニカを見る。
「こちらにクレアさまの今夜の衣装をご用意いたしました」
「えっ……」
モニカが見せてきた衣装を見て私は思わず固まってしまった。
それは、大人っぽいワインレッドの綺麗なドレスだった。
「それを……私が着るの?」
「ええ、クレアさまは綺麗な黒髪ですので良くお似合いになると思いますよ」
そう言ってモニカはにっこり笑った。




