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■第5話 隷従

 はい。私は今、馬車に揺られています。目の前には豪華な水色のドレスを纏ったご令嬢と、メイド服を着た少女が座っている。

 どうしてこうなっているのかというと、話は少し前に遡る……。


 ◇ ◇ ◇


 結局あれから一週間ほど、私は森の中で暮らしていた。

 暮らしていたと言っても優雅なスローライフではない。

 魔法やら剣やらの使い方を覚えるため、魔獣さんたちと熾烈なバトルを繰り広げていたのだ。


 決して一方的な虐殺とかではない。

 ……ないよ?


 しかし、そのおかげで魔法やスキルの扱いにはだいぶ慣れたと思う。


 そして――ある時。


「……おなかすいた!」


 水は魔法で出せるので何とかなるが、食べ物は魔法じゃ出せない。途中で木の実なんかを齧ってみたが美味しくなかった。この体はしばらく何も食べなくても大丈夫みたいなんだけど……やっぱりお腹は減る。


 チラッとさっき倒した魔獣の方を見る――フォレストボア、大きな猪のような魔獣だ。いや、魔獣を食べようとは思わないんだけど、傷口から流れる血がなぜかとてもおいしそうに見える。


「ゴクッ……ちょっとだけ試してみる?」


 少し抵抗はあるが吸血鬼の本能なのかそう考えると、衝動を抑えられなくなる。

 ゆっくりと近づきフォレストボアにガブっと噛みついてみる!


「んっ!?」


 口の中に鉄の味が広がり体の奥に熱が走る。

 ドクンッ、と心臓が強く脈打つ。

 そして魔力が、一気に膨れ上が――らない?


「えっ? なにこれ? 血を吸うと強くなるとかじゃないの?」


 特に体に変化はない……しかもあまりおいしくない……おなかも膨れない。


「……うん、これはナシだな!」


 というわけで、私は吸血を封印することにした。

 ――たぶん、よっぽどのことがない限り。


「よし! ちゃんとしたごはんが食べたいし、そろそろ街を探しに行ってみよう!」


 祠の硬い床で寝るのもつらくなってきたし。


 ってことで飛翔魔法で空を飛んで森を抜けようとしていたら、なんと魔獣に襲われている人達を発見してしまった! 


 馬車が三台、それに護衛らしき騎士が十五人ほど。

 ほとんどの騎士が馬に騎乗している。

 魔獣はフォレストウルフ数十匹、人型のはたぶんゴブリン? が数匹。


 なんか見たことないでっかい鬼みたいなのもいたので鑑定してみると【オーガ Lv138】と出た。騎士達はゴブリンやフォレストウルフをなんとか倒して行く。だけど数が多い上に、オーガまで相手をするのはちょっと厳しそうかなぁ……。


 と思いながら見ていたら騎士の一人がオーガにやられそうになったので。

 「あっ! ヤバいっ《サンダーパレット》!」


 ……と、思わず雷撃魔法をぶっぱなした。


 そしてそのまま加勢して、私がオーガやら残った魔獣をまとめて魔法でサクッと片付けてしまった。ちょっと調子に乗り過ぎた感はあるけどまぁ……セーフだよね……森燃えてないし。


 その後、馬車から降りてきたご令嬢に、お礼をしたいので、ぜひ帝都までご一緒に。と誘われ。どうしようか少し迷ったけど、お金もないし行く充てもないのでとりあえず付いていくことにした。


 ◇ ◇ ◇


 そして今に至るわけなのだが……。


「改めまして、私はラフローグ帝国皇女アリスレート・ラフローグと申します、どうぞお気軽にアリスとお呼び下さい」


 ――はい、この人お姫さまでしたー。

 いや、確かに最初見たとき豪華な馬車だなぁと思ったんだよ。

 でもまさか、お姫さまが乗ってたとは思わなかったよ……。


 アリス姫は十五、六歳くらいでふわふわの金髪に青い瞳。

 愛嬌のある顔立ちのまさにお姫さまという雰囲気の美少女だ。

 そんなお姫さまがなぜか私の顔をじっと見つめている。


「あの……どうしました?」


 アリス姫は静かに目を伏せて頭を下げる。


「クレアさま、この度はわたくしどもの命を救って頂き、本当にありがとうございます」


 呼ばれ慣れない名前で呼ばれて一瞬戸惑った。


 名前はなんて名乗ろうか迷ったけど、ステータスに書いてる名前『クレア』をそのまま使わせてもらうことにしたんだった。まぁ、前世の名前を名乗る訳にはいかないしね。


「いえいえ、大したことはしていませんので、護衛の方たちだけでもたぶん倒せたと思いますよ。あと『さま』はやめて下さい」


「それでも護衛の者が危ないところを救われました、本当に感謝いたします」


 お姫さまに頭を下げられるのはなんかちょっと困るよ。

 お礼は少しお金とか貰えれば十分ですから。


 チラっと隣に座っているメイドさんに目を向ける。

 このメイドさんはモニカという名前でアリス姫専属のメイドさんらしい。


 アリス姫よりちょっと年上かな? 

 長い紫の髪に切れ長の目、落ち着いた雰囲気の凛々しい美少女だ。


 しかし……チラっと視線を胸元に落とす。

 彼女が着ているのは胸元が開いているタイプのメイド服だ。

 そしてそこから覗く二つの膨らみは、決して落ち着いてはいなかった……Fくらいかな?


 などと考えていたらアリス姫がまた私の方をじっと見つめていた。


「えと? あのなんでしょうか?」


 ヤバい……メイドさんをエロい目で見ていたのがバレたかな?

 と焦っていると。


「あの、帝都に着く前に少しお礼をしたいのですが……」


 アリス姫がなにやらモジモジしながらそんなことを言い出した。


「え? お礼って……?」


「恥ずかしいので、少し目を瞑って頂けませんか?」


 上目使いでこちらを見つめてくるアリス姫に、思わずたじろいでしまった。


 えっ! なにこの展開? 

 もしかしてお礼にちゅーとかしてくれちゃうんですか?

 これ期待しちゃっていいんですか?


「えーと、目を、瞑るんですか?」


「はい、ダメ……ですか?」


 うおー、そんなウルウル目で見つめられたらもう無理ですよ。


「わかりましたぁー!」


 と、勢いよく私は目を瞑った。


 ◇ ◇ ◇


 なにかゴソゴソと音がする、なんの音だろう?

 そう思っていると首筋に何かが触れた。

 ん? なんだこれ?


 ああ、もしかしてお礼ってアクセサリーとかかな? 首飾り的な?

 まぁそうだよね、よく考えたら私も今は女だし。

 ちゅーは流石にないかぁ。

 そんな事を考えていたら『カチャッ』と音がした、やっぱり首に何か付けられたようだ。


「あのっ、もう目を開けてもいいでしょうか?」


「おう、いいぞー!」


 ……え?

 今の、誰の声?

 思わず固まってしまった。

 恐る恐る目を開け……声のした方を見る。


 そこには、先ほどまでのおしとやかなお姫さまは存在しなかった。

 アリス姫は座席に片足を乗せ、頬杖をつきながらニヤニヤと笑っていた。

 そして、私の首にはなにやら首輪のような物が嵌められていた。


「あのぅ……それで、この首に付いてるのはなんでしょうか?」


「なんだわからねぇのかよ。おい、モニカ教えてやれ!」


 あれぇ? この邪悪な笑顔の口の悪い少女はいったい誰ですか? 

 さっきまでいた綺麗なお姫さまはどこ?

 思わず馬車の中を見回す。


「はぁ、アリスさま。座席に足を載せてはいけませんよ」


 モニカと呼ばれたメイドさんはため息をつきながらアリス姫に軽く注意し、私の方に顔を向ける。


「ゴホン。では、わたくしからご説明させていただきます。その首輪は【隷従の首輪】と言う魔道具でございます」


「へっ? れいじゅう? あのっ、それっていったいどういうことで……」


「その首輪を付けられた者は主人の命令に逆らえなくなります」


「……はい?」


「つまり! ――あなたはアリスさまの奴隷になったという事でございます」


「へっ?」


 思わず思考が――止まった。

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