■第4話 森の中
しばらく祠の前でジタバタ転がりながら悩んでいたが、ふと思い出した。
――私、結界魔法使えるじゃん。
「……そうだよ、もっかい結界張って封印しとけばよくない?」
祠の中に入れないようにしておけば、たぶんバレないだろう。
「……バレないよね?」
思わず声に出して問いかけてしまう。
少し不安を感じつつも、結界を張り直す。
祠の周囲に、白い光の壁が展開された。
「ふぅ……見た目は同じだし、とりあえずこれで大丈夫でしょ」
一息ついて、周囲を見回す。
風に揺れる木々の葉がさらさらと音を立てる。
見上げれば、青空には白い雲がゆっくり流れていた。
「私、ほんとに異世界に来たんだなぁ……」
しみじみと実感する。
さて、これからどうするかな。
「とりあえず街を探す?」
……いや。
「その前に、戦い方の練習してみたい!」
せっかく誰もいない森にいるんだ、練習にはうってつけだろう。
でも、いきなり見たこともない魔獣と戦うのはさすがにちょっと怖い。
そう思ったので、まずは魔法の練習をすることにした。
とはいえ火は……ダメだな、森だし。
森を燃やしたら洒落にならない。
「やっぱり水か土かな……」
そういえば、昔見たアニメで主人公が魔法で作った石礫を飛ばして攻撃するのがあったな。
「あの石飛ばすやつとか、やってみたいな」
土属性で石を作って、風属性で飛ばす。
そんな感じで出来そうな気がする。
私は、少し場所を移動し開けた場所に出る。
「ここなら広いし大丈夫そうかな」
手をかざし、目を閉じ集中する。
そして徐々に魔力を込め、硬い石をイメージする。
すると、空中に細かな塵が集まり形を作っていく。
「おぉ! 本当にできた!」
よし、次は――飛ばす。
風を圧縮し、一気に押し出すイメージ。
「あれ? これ思ったより調整が難しいかも……えいっ!」
――ドンッ!
重い音が響いた。
石は一直線に飛び、木に直撃した。
次の瞬間。
幹がへし折れ、そのままドスンッと大きな音を立てて倒れた。
「うわぁ、そんなに強く飛ばしたつもりじゃないんだけど凄いなこれ」
これは絶対人に向けて撃ったらダメな奴だな……。
「加減が難しいな。次はもっと意識して威力を弱めてみよう」
その後も、何度か魔法を試した。
威力を調整したり、属性を変えたり。
さらに飛翔魔法で空を飛んだりしてみた。
うん、空を飛ぶのって最初はちょっと怖いけど、慣れると楽しいかも。
そんなことをしているうちに、気づけば日が落ちかけていた。
「うーん、時間忘れてたなぁ」
今から街を探しに行くってのは厳しいな。
「今日は野宿かな……あっ、祠で寝ればいいか!」
結界も張ってあるし、安全なはずだ。
どうせ街に行っても宿に泊まるお金もないし。
そう思った、その時。
――ガサッ。
「ん?」
私は、音のした方へ視線を向ける。
茂みをかき分けて現れたのは、大型の狼のような獣だった。
赤い目に、鋭い牙。どう見ても普通じゃない。
「えっと……あなたは魔獣さんですか?」
思わず話しかけてみたが、もちろん返事はない。
「えーと、とりあえず《鑑定》!」
【フォレストウルフ Lv72】
これって結構強い方なのかな?
……私、レベル1000なんですけど?
まぁ、せっかくだし練習相手になってもらおうかな。
とりあえずさっきの石礫を作って……って!
考えてる間に、フォレストウルフが飛びかかってきた。
「うおっ! ひっ《飛翔》!」
初めて見る魔獣にちょっとビビったので、とっさに飛翔魔法を使って空を飛ぶ。
安全なところから攻撃してみることにした。
「ふぅ、空飛ぶ練習しててよかった」
ちょっと卑怯だけど文句言わないでね。
「しかし、あれが魔獣なんだ……倒すとお金とか手に入ったりするのかな?」
そんなことを呟いていたら。
――グルルルルッ!
周囲からも唸り声が聞こえた。
「え?」
視線を向けると、茂みからフォレストウルフが続々と顔を出す。
「え、ちょっと待って多くない? こんなに大家族の魔獣だったの?」
全部で十匹ほどいるようだ。
「……さてどうしたもんか」
初めて見る魔獣を前に少し恐怖心もあったけど、それ以上になぜか気持ちが昂ってきた。これは吸血鬼なのか本能なのかな?
「よーし、せっかくなので少し試してみようかな」
……そう思ってしまった。
……思ってしまったのである。
軽く息を吸う。
「数も多いし、ちょっと強めでいいかな」
手をかざし大きな炎をイメージする。
「火炎魔法――」
魔力が集まる感覚。
「――《フレア》!」
次の瞬間――視界が赤く染まった。
爆発的に広がる炎。
周囲一帯が炎に包まれ、フォレストウルフの群れを一瞬で焼き払う。
ついでに森も焼き払う!
「あぁー、森は焼き払っちゃダメー! 森で火魔法はダメだったぁぁぁ!」
慌てて水魔法を発動する。
「えーと、水! 水魔法……《ウォータージェット》」
――ザバァーッ!
滝のような水が溢れ出し、炎を一気に飲み込んでいく。
「あれ? 水も強すぎない?」
調整が難しい、もっと威力を抑えなきゃダメだな。
水魔法をぶっ放し、なんとか消火できたが、周囲にはまだ煙が燻っている。
木々は焼け落ち地面も焦げてしまっている。
そしてフォレストウルフたちは跡形もなく燃え尽きていた。
「うぅ、いきなり上級魔法はやりすぎでした……ごめんなさい……」
あと、魔獣を倒してもお金とかアイテムドロップしたりしないのね。
いや、まぁなんとなくわかってはいたけどね……ゲームじゃないんだし。
「しかしすごい威力だったなぁ」
でも次はもう少し安全なやつにしよう。
「あっ、雷撃魔法ってやつもいいかもしれない」
私は魔法を作るスキルも持ってるみたいだし。
これで相手をスタンさせる魔法とか作れるかな?
敵を傷付けずに無力化する時とかにいいかも。
「よし、どうせならここで魔獣さんを相手に、いろいろ練習して行こうかな」
こうして、私はしばらく森の中で訓練に明け暮れるのであった。
――しかし。
この時の私はまだ知らなかった。
この森での訓練が、後で大問題になることを。
◇ ◇ ◇
そしてその頃。
森から少し離れた山の中で、何かがゆっくりと目を開けた。
「なんだ、この魔力は……?」
巨大な黒い影が空を見上げていた。




