■第3話 解呪しちゃった
私は魔法で明かりを灯しながら建物の中をテクテクと歩いていく。二十分ほど歩いているのに出口が見えない。一本道なのだから、とっくに外へ出ていてもおかしくないはずなのに、景色はまるで変わらなかった。
「……長くない?」
もしかしたら魔獣とか出るかも? と少し警戒していたが、その気配はない。
ただ、まっすぐな通路が続いているだけだ。
床も壁も天井もすべて石作りのいかにもゲームに出てくるダンジョンといった感じの通路なのだが。ずっと、まっすぐなのに奥の方は見えない。というか、前へ進んでいる実感がない。
「しかし、なんなんだろここ? なんかの遺跡かなぁ?」
さっきの部屋には祭壇みたいなのがあって、女神さまっぽい石像もあったし。
神殿とかかな?
そういえばなんとなく神聖な雰囲気も感じる。しかしなんか変な違和感があるんだよね、まるで同じ場所をずっと歩いているような感覚だ。
「うーん、なんか変だな」
足を止め辺りを見回す。
「……あれ?」
――そこでふと気がついた。
「これ……もしかして結界?」
女神さまがくれた『初期設定』にそんな知識があった。
結界魔法。
その名の通り結界を張って外部からの侵入を防ぐ魔法だ。
もちろん逆に中から外へ出られなくすることも出来る。
光の壁のような単純なものもあるが、これはさらに上位の魔法のようで。
特定の空間に閉じ込めるタイプのようだ。
「えー、これは困ったなぁ……結界が張られてるんじゃこのまま歩いても絶対に外には出られないよ」
私も結界魔法は使えるけど、解除のやり方は分からないし。
「どうしようかな……」
とりあえず私はもう一度自分の持ってるスキルと魔法を確認してみることにした。すると――。
「あっ」
それっぽいのを見つけた。
「もしかしたらこれ使えるかな? この『解呪』って魔法」
呪いなどを解除する魔法だ。もしかしたら結界にも効果があるかもしれない。
どこに向けて発動すればいいのか分からないので、とりあえず前に手をかざしながら……。
「《解呪》」
発動した瞬間、空気がビシリと震えた。目の前の空間にひび割れのような光が走り、ガラスが砕けるような音と共に景色が変わる。
そして。
今まで何もなかったはずの場所に、上へ続く階段が現れた。
「おおっ!? 本当に解除できた!」
思わず声が弾む。
「いやぁー、やってみるもんだなぁ」
解放感に任せて、私は意気揚々と階段を駆け上がった。
上の階に出るとすぐに出口から差し込む光が見えた。
「よーし、やっと外に出られる!」
早足で出口の方へと歩いていると……何やらここにも良く分からない石像がいくつか並んでいる。
「……やっぱりここは神殿なのかな?」
などと呟きながら、出口へ向かう。
「よし、いよいよ異世界だ……どんなところなんだろ」
ワクワクしながら、一歩踏み出すと。
――ゴツン。
「痛っ!?」
何かにぶつかった。
ふと見ると透明な光の壁で出口が塞がれている……これにぶつかったようだ。
「……え、また?」
出口にも結界が張られていたらしい。
「はぁ、どんだけ厳重なんだよ……」
軽くため息をつきながら手をかざす。
「はいはい、《解呪》!」
光が弾け、結界をサクッと解除する。
「よし、今度こそ……あっ!」
外に出る直前で、ふと立ち止まる。
「そういえば私、吸血鬼だったよね?」
太陽、大丈夫なのかな?
少し緊張しながら、ゆっくりと外へ出る。
――すると。
目の前に広がるのは――青々と茂る木々。
どうやらここは森の中のようだ。
そして体にも特に異変はない。
「うん、日に当たっても平気っぽい。良かったぁ」
振り返り自分が出てきた場所を見てみる。
そこにあったのは――。
石を積み上げた、大きな祠のような建物だった。
苔と蔦に覆われた、かなり古そうな建造物だ。
「なんなんだろうな、この祠」
首を傾げながら眺めていると、不意に頭の中の初期設定さんが反応した。
「あれ……?」
これってもしかして……封印、じゃない?
「ここは……この体の持ち主を封印してたんじゃ?」
これは非常にまずい。
私は自分のやったことを思い返す。
――結界、解除。
――さらに結界、解除。
――厳重に二つも張った結界をサクッと解除。
「……これやばくない?」
見つかったらマジで討伐隊とか来ちゃうんじゃないのこれ?
この状況、どう見てもラスボスの復活イベントだよね!
私は思わず膝から崩れ落ちる。
「……これ、出てきちゃって良かったのぉー?」
しかし、返事をする者はいなかった。




