■第57話 みんなで温泉
晩餐会が終わった後。
私たちはルーナに案内され、温泉へ向かっていた。
私は今、全神経を集中させて表情を変えないよう頑張っている。
気を抜くとまた気持ち悪いと言われてしまう。
長かった……思えばアリスに浴場の入り口で立たされた時からどれだけの月日がたっただろう。あの時は皇族専用の浴場という事で断念した。
だが今回は違う。
温泉といえば、みんなで入るものだ。
少なくとも私はそう信じている。
やっと、私の願いが叶う時がやってきたんだ。
そして案内された先には広々とした脱衣所があった。
木の香りが心地よく、床も壁も綺麗に磨かれている。
「おおー……」
思わず感嘆の声が漏れる。
やっぱり温泉といえばこういう雰囲気だよね。
「そんなに嬉しいものなのか?」
アリスが不思議そうに聞いてきた。
「え? そうだね、まぁ私も温泉好きだからね!」
慌ててそんな風に誤魔化した。
落ち着け私、一度深呼吸をして……。
そんなことを考えているうちに、みんなは服を脱ぎ始める。
モニカがアリスの着替えを手際よく整えていた。
アリスは豪華なドレスを脱ぎ、下着姿になるとクロの方を見た。
「そうだクロ、小竜の姿になってくれ。今日は私が洗ってやるぞ」
「うむ、まぁいいだろう」
ポンッと光に包まれ、服が床に落ちる。
そして、小竜姿のクロが現れた。
モニカが服を拾い上げ綺麗にたたみながら私に声を掛ける。
「さっ、クレアさまも脱いだ服はこちらに」
そう言って籠を渡してくれた。
「ああ、ありがとう」
やばい、このままじゃみんなの脱衣シーンをガン見してしまう。
私も早く脱がなきゃ。
そう思い服に手を掛けると、ルーナの姿が目に入った。
白を基調とした神聖な衣装をゆっくりと脱いだルーナは、そのまま白い下着姿になった。
うぉ……。
聖女さまって下着まで神聖なの?
いや、そんなわけないんだけど。
なんだろう、この見てはいけないものを見てしまった感。
慌てて目をそらし、私は急いで服を脱ぎ、体にタオルを巻いた。
そんなことをしてるうちに全員準備が出来たようだ。
「それじゃあ入りましょうか」
ルーナが脱衣所の奥にある扉の前へ立ち、浴場の扉を開く。
ふわりと白い湯気が流れ出した。
見るとそこはなんと、周りを柵で囲われた露天風呂であった。
「おお、これは凄いね」
日本でよくある温泉そのものだった。
浴槽を見ると、ライオンの口からお湯が出るやつまでついてた。
「ここは使徒さまが考案された浴場なのですよ」
「この温泉も使徒さまが作ったの?」
「ええ、元々この辺りには温泉が湧いていたそうです。ただ使徒さまが大浴場や宿泊施設を整え、巡礼者の方々も利用できるようにしたと伝わっています」
「へぇ、やっぱりすごい人だったんだね」
そんな話をしながら私たちは洗い場へ向かう。
椅子に座ると、とりあえず髪を洗おうとシャンプーの瓶に手を伸ばす。
すると、ふと隣に座ったアリスが視界に入った。
アリスはモニカに髪を洗って貰いながらクロを洗っていた。
「どうだクロ、気持ちいいか?」
「うむ、悪くない」
「アリスさま、あまり動かないでください」
声につられてアリスの後ろに立つモニカへ目を向ける。
すると――揺れていた。
「うっ!」
何が、とは言わないが。モニカが動くたび、まるで生き物のようにぷるんぷるんと存在感を主張してくる。
私は思わず目を見開いた……なんだろう、この破壊力は。
あそこだけ重力の法則が違う気がする。
「クレアさま、どうかされましたか?」
モニカが視線に気づいて声を掛けてきた。
「あっ、いや、なんでもないよー」
慌てて誤魔化したが、なんか完全に不審者みたいになってる。
落ち着こう、私は無心になって体を洗った。
そうして全員洗い終わり、湯船へ向かう。
そして私はゆっくりと足先からお湯に入る。
「あぁぁぁ……」
肩まで浸かると思わずそんな声が漏れてしまう。
じんわりと体が温まり、旅の疲れが溶けていくようだった。
――これだ。
私が求めていたのはこれなんだ。
温泉に浸かりながらふと周りを見る。
湯気のせいか皆いつもより柔らかい雰囲気だった。
とはいえあまりみんなを見るのは良くないと思い、しばらく黙ってお湯に浸かっていたのだが。
「ふぅー、やっぱり温泉はいいなぁ。クロはどうだ?」
「うむ、これは悪くない」
アリスとクロのそんな会話が聞こえてきた。
うん、二人とも満足なようだ。
「しかし、あなたほんとに胸大きいわね」
気を抜いていたらルーナがモニカの胸を見てそんなことを言い出した。
「そうでしょうか?」
「ねぇ、大きいと浮くってほんとなの?」
「いえ、浮きませんよ?」
そんな会話をしていたのだが、どうしよう。
小粋なガールズトークに入っていけない。
いや、私だって今は女の子なんだけど。
なぜかこういう話題になると観客席にいる気分になる。
「そういえばクレアさんはどう思うの?」
「えっ、私?」
突然話を振られて思わず肩が跳ねた。
「いや、その……大きくても浮かないんじゃないかな?」
「なんとも無難な答えね」
そう言ってルーナは再びモニカの胸に目を向ける。
「どうしたらそんなに大きくなるのかしら?」
「そうですね。アリスさまに揉んでいただいているからでしょうか?」
「えっ、そうなの?」
「いや、揉んでないからな!」
アリスが即座に否定した。
「えっと、ルーナさんは胸が大きくなりたいの?」
「そうね、私ってほら、小さいじゃない。もう少しあった方が聖女っぽくないかしら?」
言われて思わず胸に視線を向けてしまった。
確かにモニカと比べれば控えめかもしれない。
しかし形のいい綺麗なふくらみがそこにはあった。
いやいや、待て私。
聖女さまの胸をじっくり観察するんじゃない。
もう少しで聖女さまを性女さま扱いしてしまうところだった。
「あら? どうしたのかしら?」
「いえ、すみません。ちょっとのぼせたかも知れないです……」
「たしかに、顔が赤いですね。ではそろそろ上がりましょうか」
「そうだな、クロもちょっと暑そうだし」
「むぅ……我はまだ大丈夫だぞ」
そう言うクロだったが、少しふらふらしていた。
どうやら本当にのぼせかけているらしい。
小さいから暖まるのが早いのかな?
そうして、全員で再び脱衣所に向かった。
「いやー、ほんとにいいお湯だったな」
モニカに体を拭いてもらいながら、アリスが満足そうに言った。
「ふふ、喜んでもらえてよかったわ」
先に体を拭き終えたルーナが脱衣所の奥にある箱を開け、なにやら瓶を取り出した。
「お風呂上がりには冷たいフルーツミノ乳も用意していますからね」
「あっ、ここでもミノ乳なんだ!」
いや、お風呂上りでは確かに定番だけど。この世界ではミノ乳が主流なのか?
「コーヒーミノ乳もあるわよ」
「ってかコーヒーもあったの?」
温泉の後にコーヒーミノ乳、それにお米やお箸。
さらに緑茶と温泉饅頭。
……うん。
使徒ラフォーレさまが広めたんだろうけど、ここまで快適でいいんだろうか?
まさか私のために用意してた……なんてのはさすがに考えすぎか。
その後、各自の部屋に案内され、今日は休むことになった。
ベッドに寝転がり、私は天井を見上げる。
しかし……よく考えたら。
私は今日、アリスやルーナたちと一緒に温泉に入ったのだ。
浴場での光景、みんなの一糸まとわぬ姿が頭から離れない。
うん、仕方ないよね。
だって男だった頃には絶対に経験できなかったことなんだから。
その夜……。
私はすっぽんの血を飲んだ訳でもないのに、なぜかなかなか眠れなかった。




