■第56話 晩餐会
晩餐会の会場に入った瞬間、私は思わず足を止めた。
思ったほど広い部屋ではなかったが、テーブルの上には湯気立つ様々な料理が並んでいた。そして、その中央に置かれていた大きな木桶を見て私は目を見開く。
「えっ……あれって」
近づいて桶の中をのぞくと、そこには見覚えのありすぎる白い粒の山。
「これ……お米?」
思わずそんな声が漏れてしまったが……見間違えるはずがない。
私も前世では毎日のように食べていた日本人の主食だ。
「ええ、使徒ラフォーレさまがお好きだったという事で、聖公国ではお米を食べる人が多いんですよ」
おおー、やっぱり使徒さま日本人だろこれ?
「あら、クレア。お米がそんなに好きだったのですか?」
「うん、私の故郷でもよく食べてたんだよ。この世界にもあると思わなかったからちょっと嬉しくて」
「へぇ、そうなんですの? 私はお米よりパンの方が好みなのですけど、お米でしたら帝国にもありますわよ」
「ええ、そうなの?」
「はい、帝国では食べる方が少ないので普段お出ししていませんでしたが、入手は可能ですよ」
モニカがそう言った。
なんてことだ、もっと早く聞いておけばよかった。
ずっと異世界だからお米なんてないものだと思い込んでいたよ。
しかし、よく見ると他にも見覚えのある料理が並んでいた。
焼き魚に煮物のような料理。
出汁の香りがする汁物。
そして唐揚げのようなものまである。
もうここまで来ると偶然とは思えない。
やっぱり使徒さまは私と同じ世界の人だったのだろうか。
もしそうなら、少し話を聞いてみたかったな。
「さっ、それでは皆さまお席にどうぞ」
シスターに促され、私たちはそれぞれ席へと向かった。
全員が席に着くと、室内にいた三人のシスターが料理を運び始めた。
「パンと、お米。どちらがよろしいでしょうか?」
「あっ、私はお米をお願いします!」
思わず即答してしまった。
「では私もお米をお願いします」
ルーナが静かにそう言った。
意外だった。なんとなくルーナはパン派だと思っていた。
なんだかさらに親近感がわいてきた。
目の前にお米の入ったお茶碗が置かれた。
そうして、なんとお箸もある。思わずすぐに手に取ろうとしたその時。
ルーナが静かに立ち上がる。
「それでは、女神さまの恵みに感謝を」
全員が手を組みそう唱える。
あっ、そういえばここ宗教国家だった。
私も慌てて手を組む。
危ない危ない。もう少しでお米に飛びつくところだった。
「それではどうぞ召し上がってください」
「いただきます」
ルーナのその言葉を聞いて、私は箸を手に取り真っ先にお米を口へ運んだ。
「……ああ、やっぱりこれだよ」
思わずそう呟いてしまった。
ふっくらとしていて、ほんのり甘い。
間違いなくお米だった。
そして次は焼き魚へ目を向ける。
「聖公国は内陸なので海の物はあまりありませんが、その川魚もとてもおいしいですよ」
川魚なんだ、鮎とかそんな感じかな?
そう思いながら魚を持ち上げる。
細長い体に銀色の鱗。見た目は普通の川魚に見えた。
――のだが。
よく見ると口元に鋭い牙が並んでいた。
いや……見なかったことにしよう。食べられるならたぶん魚だ。
恐る恐る一口食べてみる。
「ん、おいしい……」
普通に鮎の塩焼きみたいな味だった。
私はもう一度、お米を口に運ぶ。
「うーん、これは最高だね」
やっぱり焼き魚と白いご飯は最高の組み合わせだなぁ。
と、そんな風に私が感動していると。
「うむ、この魚うまいぞ」
ふと見るとクロがその魚を頭からぼりぼりと音を立てながら食べていた。
「あっ、ちょっとクロちゃん!」
クロの正体がバレるとまずい。
そう思ったのだが。
「ふふっ、大丈夫ですよ。この部屋にいるのは全員私が信頼してる方たちですので」
なるほど。
どうやらこの部屋にいる人たちには、ルーナがある程度事情を話してあるらしい。
「それからクロさん用のメニューもご用意してますので。エレンさん、お願いします」
ルーナがそう言うと、エレンと呼ばれたシスターが銀色の蓋をした大きなお皿を持ってきた。
クロの目がきらりと光る。
蓋を開けると、そこにはから揚げなどの揚げ物が山のように積まれていた。
「おお、これ食べてもいいのか?」
「はい、これで足りるかわかりませんが。どうぞお召し上がりください」
エレンがそう言って、少し困ったような笑みを浮かべた
ルーナと同い年くらいだろうか?
少し落ち着いた感じのシスターだ。
「うむ、いただきます」
揚げ物がどんどん消えていく。
足りるんだろうか?
「相変わらずすごい食欲ですわね。ほらクロ、野菜もちゃんと食べるんですのよ」
そう言ってアリスがサラダを差し出す。
「ふむ、葉っぱはあまり好きではないのだが、まぁいい」
クロは渋々といった様子でサラダを口に運んだ。
一見するとアリスがクロの体を気遣ったように見えるが。
でもあれ、単に自分が食べたくない野菜を押し付けてるだけじゃない?
そう思っていたら、モニカがすかさず別のお皿にサラダを盛りつけアリスの前に置いた。
「ちゃんと召し上がってくださいね」
モニカがにっこりと微笑みながら言った。
「うっ……わかりましたわよ」
アリスも観念したように、ゆっくりとサラダを食べ始めた。
そんな風に皆で楽しく話しながら食事を続けていたのだが。
ふと私はルーナを見る。
そういえば、まだ聞いていないことがあった。
「そういえばルーナさん。使徒ラフォーレさまについて少し聞いてもいいですか?」
「使徒さまですか? はい、いいですよ」
「この国って温泉に緑茶、それからお米にお箸まであるじゃないですか。なんというか……私の故郷と似ている気がして」
「なるほど、そうなんですね」
「だから、そのラフォーレという名前も本名なのかなと思いまして」
「たしか神聖名だったはずですよ。残念ながら本名は伝わっておりませんが」
なるほど、本名はわからないか。
「書庫に行けば使徒さまの逸話に関する本や使徒さまの書いた書などもありますので、興味があるのなら明日にでも案内しますよ」
「あっ、それは見てみたいです」
使徒ラフォーレのことももう少し知りたいからこれはありがたい。
もし本当に私と同じ世界から来た人なら。
私がこれからすべきこともわかるかもしれない。
そして女神さまが、なぜ私をここへ導いたのか。
その答えも見つかるかもしれない。




