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■第52話 聖公国への誘い

 その日の夜。


 私は自室のベッドの端っこに腰掛けて、ぼんやりと窓の外を見ていた。

 実は私の部屋、帝都の街並みがめちゃくちゃよく見えるのだ。 

 夜になっても魔道灯の光がきらきらしていて、まるで星を散りばめたような景色なのだが。


 でも今はそんな景色よりも、今日の出来事の方が頭を占めていた。

 いっぺんにいろんなことを聞いたせいで、頭の中はまだ少し混乱している。

 だから私は、これからどうするべきなのかをゆっくり考えていた。


 とりあえずはルーナを手伝う。たぶん、それは間違っていないと思う。

 でも、本当にそれだけでいいんだろうか?


 そう思ったが、女神さまは私に自由に生きろと言った。

 だったら難しく考えすぎる必要はないのかもしれない。

 私は私のやりたいように動けばいいんだと思う。


 前世の私は、長い時間を病院のベッドの上で過ごしていた。

 旅行だって数えるほどしかしたことがない。


 ならこの世界で前の人生で出来なかったことをするのもいいかな。

 この世界にはまだ見たことのない場所はたくさんあるんだろう。

 せっかく異世界に来たんだから、いろいろ見てみたいな。


 そんなことを考えていると、コンコン。とドアをノックする音が聞こえた。


「クレアさま、まだ起きておられますか?」


「モニカ? どうしたの?」


「アリスさまとルーナさまがもう少しお話がしたいそうです」


 アリスたちが? なんだろう?


「わかった、今行くよ」


 私はモニカに連れられてアリスの部屋に入る。


 二人はソファーに腰を掛けてお茶を飲んでいたのだが、お茶会の時よりもなんだかリラックスした雰囲気だ。


「こんばんはクレアさん。こんな時間にごめんなさいね」


「いえいえ、全然大丈夫ですよ。それで何か御用でしたか?」


「いや、ルーナが少し話したいことがあるんだってさ。まぁ、クレアも座れよ」


 アリスがそう言ったので私もソファーに座った。


「それで、お話とはなんでしょうか?」


「そうね、さっきの話とも関係するんだけど」


 ルーナはそう前置きしてから続けた。


「あなた、一度聖公国に来ない?」


「え? それって旅行にってことですか?」


「いや、まぁ旅行でもいいんだけど、そうじゃなくて聖公国に来れば封印に関する情報なんかもあるかもしれないでしょ?」


「ああ、なるほど」


 封印の情報か。いや、正直私はそれ自体にはもうあまり興味がないんだけど。

 でも、私が吸血鬼になった理由や、女神さまが何を望んでいるのか。

 その手がかりなら見つかるかもしれない。


 それに世界を見て回るいい機会でもあるか。

 ルーナに手を貸すって約束もしたし。


 ……あっ! でもアリスはどうなるんだろ? 一緒に来れるのかな?


「あの、行ってみたいとは思うんですけど。アリスは一緒に来れるの?」


 私がアリスにそう尋ねると、ルーナが先に口を開いた。


「もちろん、できればアリスにも来てほしいわね」


「えっ、私もか?」


「あら、当然でしょう?」


 ルーナは不思議そうな顔をした。


「今回、私は聖公国の聖女として帝国に滞在させてもらったのよ?」


「うん。まぁ、そうだな」


「だったら今度は帝国の皇女を聖公国に招待するのが礼儀でしょう?」


 なるほど。そういう考え方もあるのか。

 するとアリスが腕を組み、少し考える。


「ふむ、返礼訪問か」


「ええ。それに、あなたが来てくれると私も少し助かるのよ」


「どういうことだ?」


 アリスの質問に、ルーナの表情が少しだけ真面目になった。


「聖公国の教皇派には私を聖女として認めない人もいるって言ったでしょ」


「ああ、魔族の血を引いてるからか」


「ええ、そこで帝国の皇女さまが私の客人として聖公国を訪れると、少なくとも教皇派も表立って私を否定しづらくなるわ」


「ふむ。帝国がルーナを支持している、ということになるか」


「そういうことね」


 アリスは少しだけ考え込んだ。


「なるほどなぁ」


「もちろん利用するつもりはないわよ。でも、あなたが来てくれたら助かるのは事実ね」


「ふーん」


 アリスは椅子にもたれかかり、そして少しだけ口元を吊り上げた。


「まぁ、ルーナのためになるなら悪くないか。それにちょっと面白そうじゃないか」


 あっ、この顔はもう行く気になってるな。

 といっても止めるつもりなんてないけどね。

 私としてもアリスが一緒じゃなきゃ困るし。


「じゃあクレアさんもいいかしら?」


「ええ、アリスが行くならもちろん私も行きます。私はアリスの護衛ですからね」


「そう、ありがとう。嬉しいわ」


 ルーナはほっとしたように微笑んだ。


「それじゃあ決まりね」


「いや、まだ陛下や宰相の許可は必要だけどな」


 そう言ってアリスはモニカをチラッと見た。

 モニカは静かに頷き笑顔を浮かべる。


「ふふっ、お任せください。陛下と宰相閣下へのご説明は、わたくしが責任を持っていたします」


 その笑顔を見た瞬間、私は陛下と宰相に少しだけ同情した。

 たぶん問題なく許可が下りるんだろうなこれ。

 娘に弱いあの二人のことだ。たぶん拒否はできないだろう。


「よし。じゃあ、しばらく帝国に滞在して準備を整えたら出発だな」


「ええ、楽しみにしてるわ」


 そう言ってルーナが微笑む。


 聖公国か、アリスからいろんな話は聞いたけど実際はどんなところなんだろう?

 少しだけ胸が高鳴る。


 この世界に来て最初は森の中で過ごして、それからアリスに捕獲されて。

 黒龍と戦ったり、学院を見に行ったり。

 このお城に来てからもいろいろあったけど。


 こんな風に他の国に行くことになるなんて思ってもみなかった。

 正直楽しみと不安が半々くらいなんだけど。

 でも、一つだけわかったことがある。


 今の私は一人じゃない。


 アリスやモニカがいて。


 クロがいて。


 フィオナとティアがいて。


 そしてルーナがいる。


 気が付けば、私には関わる人がたくさん増えていた。

 なんだかどんどん世界が広がっていく気がする。

 私の異世界生活は、まだまだ続いていくのだろう。


 そして次の目的地は――ラフォーレ聖公国。


 ……さて、どんな旅になるんだろう。

 ここまでお読み頂きありがとうございます。

 これにて第一章終了となります。


 評価押して下さった方々、本当にありがとうございます。

 とても励みになりました。


 おかげ様でなんとか第一章を書き切ることが出来ました。


 第二章も引き続き書いていくつもりなのですが、ストックがほぼなくなってしまったので数日更新が止まります。少し書き溜めてから再開したいので、申し訳ありませんが少々お待ちください。


 遅くとも今週末には再開しますので、これからも宜しくお願い致します。

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