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■第51話 聖女と黒龍

「まぁ、必要なら出来るかぎり手を貸しますよ。聖女にはならないですけど」


 一応そんな風に答えておいた。

 私に聖女なんてとても無理だけど、少し力を貸すぐらいなら全く問題ない。


「そうね、とりあえずそれでいいわ。ありがとう。いろいろ話せて少し気が楽になったわ」


「ところでアリスはこのことは知らないんですか?」


「ええ、まだ話していないわ」


「ならいっそアリスにも話してみたらどうでしょう?」


「それもそうね……あなたに話したらアリスにも話して大丈夫な気がしてきたわね」


「たぶんアリスも力になってくれると思いますよ」


「そうね。きっと驚くでしょうね」


 そう言ってルーナは微笑む。


「ふっふっふ、今まで散々驚かされたんだからちょっと仕返ししてやるのもいいわよね」


 あれ? なんかちょっと元気にはなったけどおかしな方向に行っちゃってる?

 なんか聖女と思えない悪い顔になってるんだけど。


 どうやら思った以上にいろいろ溜め込んでいたらしい。

 でも、さっきまでより表情が明るくなった気がする。

 少しは気持ちの整理がついたのかもしれないね。


 そして、私とルーナはアリスの私室に戻った。

 ルーナは部屋に入るとすぐにアリスに話しかける。


「ねぇ、アリス。少しお話があるんだけど」


「ん? どうしたんだ急に」


 そう問いかけられ、ルーナは先ほどの話を一通りアリスに説明した。

 ルーナはアリスが驚くだろうと楽しそうな顔をしていたのだが。


 しかし、アリスはお茶を一口飲みながらこう言った。


「ふーん、それで?」


「なにそれ反応薄っ! ふーんで終わりなの?」


「いや、だってルーナはルーナだろ?」


「どういう意味よそれ! 私、今まで結構悩んでたのよ?」


「だったらさっさと話せばよかっただろうが、なんで言わなかったんだよ」


「それは……怖かったのよ」


「怖かった?」


「もし知られたら、皆が離れていくんじゃないかって。聖女が魔族の血を引いてるなんて、普通は笑えない話でしょう? 実際教皇派の人の中には私を聖女と認めない人もいるし」


「はぁ、ほんとバカだな」


「えっ?」


「私がそんなことでルーナを嫌うわけないだろ。魔族の血があろうがなかろうが、お前はお前だろ」


 うん、そうだよね。アリスならそう言うと思った。

 ルーナは少しだけ目を潤ませていたけれど、その表情はどこか嬉しそうだった。


 けれどアリスはなぜか少し遠い目をした。


「そもそも今さらだしな」


「今さらって?」


「私の傍には女神さまの加護持ちの伝説の吸血鬼クレアがいるし」


 そう言ってアリスは私をチラッと見る。


「いや、そこで私を見ないでもらえる?」


「それにここには黒龍までいるんだぞ。いまさら聖女が魔族の血を引いてたくらいで驚けるかってんだ」


「……なるほど、たしかにそれはそうね」


 ルーナが妙に納得した顔で頷いた。


「納得しないでください……」


 ただ、感覚が麻痺してるだけだと思う。

 でもこの二人にそれを言っても無駄な気がしたので黙っておこう。


「でも、本当に黒龍がこんなに大人しいなんてね」


 そう言って、ルーナがクロを見つめる。

 ちなみに今のクロはメイドの姿に戻っている。


「うむ、主にそうしろと命じられておるからな」


「そうなのね、でももっとこう……世界を震撼させるような存在を想像していたのだけれど」


「震撼させたぞ、我は誰もが恐れる黒龍である」


「うーん、でも今はねぇ」


 そう言ってルーナはクロの前にお菓子を差し出す。


「むっ、くれるのか?」


 そう言ってクロは目を輝かせた。

 さすがにちょっとちょろすぎないか?


「ええ、どうぞ」


「うむ、いただきます」


 クロはお菓子を受け取ると、さっきまでの黒龍らしい威厳をどこかへ置いてきたような顔でもぐもぐ食べ始めた。


「これは……ちょっと可愛いわね」


「だろ。私はいつも一緒に寝てるんだぞ」


 アリスはなぜか胸を張っていた。

 そんなに誇らしげに言うことなんだろうか?


「それ自慢することなの?」


「え? ルーナだって一緒に寝たいだろ?」


「いえ、別に……」


 即答だった。


 うん、それはたぶんアリスだけだと思う。

 アリスは竜騎士に憧れてるからなんだろうけど。

 普通の人は黒龍と一緒に寝たいなんて思わないだろう。


「でも黒龍って意外と人懐っこいのね」


「むっ、それは違うぞ」


 お菓子を頬張りながらクロが否定した。


「今は主に従っているだけだ。本来の我はもっと格好良いのだぞ」


「そうなの?」


「まぁ、たしかに本来の姿はかっこいいな。ちなみに私とクレアは、一度クロに乗って空を飛んだこともあるんだぞ」


「え? 空をですって!」


 ルーナの目がキラリと輝いた。

 あっ、これ駄目なやつだ。

 興味持っちゃったかなこれ?


 いや、たしかに私も飛ぶのは楽しかったけど。あれ目立っちゃうんだよね。

 こんなとこで飛んだら帝都が大騒ぎになっちゃう。


「それは少し乗ってみたいわね」


 やっぱり食いついてきた。基本的にアリスと同類なんだな、この人。

 いや、もしかしたらアリスから悪い影響を受けてるのかもしれない。


「ダメですよ」


「なぜかしら?」


「絶対に大騒ぎになっちゃいますよ」


「それじゃあ夜なら大丈夫じゃないかしら?」


「いや、全然大丈夫じゃないですってば」


「そうだ、その手があったな。夜に飛ぶか!」


「アリスまで何言ってるの!」


「ふむ、主が望むなら我は乗せてやっても良いが?」


「いや、私は望んでないからね!?」


「だって私、黒龍に乗って空を飛ぶなんて、聖女になってから一度も経験ないのよ」


「普通の聖女は経験しませんよ?」


 するとルーナは少し考えてから、クロの方を見る。


「ねぇ、クロさんだったかしら? 今度本当に乗せて貰えるかしら?」


「うむ、主が許可するのならいいぞ」


「ねぇ、主。許可して」


 ルーナが私を見てにっこり笑いながらそう言った。


「今はしませんよ、あと私はあなたの主じゃないですよ?」


 そんな感じで帝都上空を黒龍が飛び回るという大事件は、かろうじて未然に防がれた。まぁ今度魔の森にでも行くことがあればその時乗せてあげればいいだろ。

 

 人のいないとこなら大丈夫だよね? 


 ……たぶん。

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