■第48話 女神の神託
その後、モニカにフィオナを呼びに行ってもらった。
クレア封印の事情を知る彼女の話が聞きたかったからだ。
しばらくするとモニカと一緒にフィオナがやってきた。
「ふぉっふぉっふぉ、お呼びですかな姫さま。おや聖女さまもお久しぶりですなぁ」
「お久しぶりです、フィオナさま」
「急に呼びつけてしまって申し訳ありません、フィオナさま。どうぞこちらへ」
フィオナが来たのでここからはアリスもお姫さまモードだ。
「おお、ありがとうございますじゃ」
そう言ってフィオナも席に着く。
「さて、なんのお話でしょうかのぅ? もしや恋バナですかな?」
いやいや、そんなわけないでしょ。フィオナって意外と若いんだな。
「違います!」
なぜかルーナが真っ先に否定した。
「「えっ」」
私とフィオナの声が重なった。
「あっ、いえ……申し訳ありません。フィオナさまにお聞きしたかったのは、クレアさんの封印の件です」
「おお、そうでしたか……」
フィオナは一度そこで言葉を切った。
「その件、聖公国ではどのように伝わっておりますかな?」
「いえ、私はまったく知りませんでした」
「おや? 聖女さまがご存じでないと……ふむ」
フィオナは一度そこで言葉を切り少し考えてから話を続ける。
「まぁクレア封印に関する話はほとんど残っておらんはずじゃからのぅ」
「それはアリスさまからも聞いたのですが、その……夢を見ましたので」
「夢ですと?」
「ええ、実は――」
そうしてルーナは再び夢の内容を話した。
「なるほどご神託となぁ、しかしその夢に関してはワシにもわからんのぅ」
まぁ、そうだろうね。いくら三百年生きてる大魔法使いでも、フィオナは女神さまじゃないんだし。
「あの、クレア封印の事ってどのくらいの人が知ってるんでしょうか?」
私は気になっていたことをフィオナに尋ねてみた。
「帝国でも今はワシと陛下。あとはジルベール宰相くらいであろう。聖女さまが知らんということは教皇も知っておるのかどうかわからんのぅ」
「帝国と聖公国以外の国には知ってる人はいないんでしょうか?」
「聖公国が知らんのじゃったら恐らくほとんどおらんじゃろうな、ワシと聖女そして勇者の三人でクレアに関するあらゆる情報を消したからのぅ。まぁ、魔神討伐以前の情報は少し残っておるかもしれんがな」
消されずに残った情報か。
それはもしかしたらあの『最初の吸血鬼』という本もそうだったのかな?
他にもないか探してみてもいいかもしれないな。
おっと、今は封印の事をもっと聞いておかないと。
「では、どうしてそこまでして隠したんでしょうか?」
その言葉を聞いてフィオナは少しだけ表情を曇らせた。
「それはもちろん、クレアを守るためじゃ。お主は当時、この世界に危険な存在だと判断されたのじゃ」
「危険……ですか」
「うむ。魔神討伐の立役者でありながら、同時に誰よりも強大な力を持っておったからのぅ」
たしかに魔神を倒せるってことは世界を滅ぼすことも出来る存在ってことだもんね。
そりゃ危険視されるよ。
「じゃから一旦封印して、皆に忘れられた頃に封印を解くつもりでのぅ。まぁ、おぬしも知っての通りクレアの魂は消滅してしまったんじゃがな」
そう言ってフィオナは寂しそうな顔をした。
「まさか聖女があんなことをするとは思わなんだ」
なるほど、封印された件に関してはだいたい理解できた。
そんな時、突然フィオナが頭を下げた。
「えっ?」
「正直に言えばな。ワシはお主に謝らねばならん。ワシもお主を封印した一人じゃ。申し訳ない」
「いや、そんなことしなくても……そのクレアと私は別人ですし」
「いや、しばらくお主を見ておったがワシにはとても別人には見えんのじゃ」
「えっ? それはどういう」
「外見だけではない、中身もワシの知るクレアそのままなんじゃ」
「そう言われても……」
困ったな。私に、三百年前の記憶なんてもちろんない。
私はクレアの体に入ってしまっただけだ。
だからそんな風に謝られても実感が湧かない。
でも。フィオナが本気で後悔していることだけは伝わってきた。
「わかりました。正直、私にはよくわかりませんが、フィオナさまが悪い人じゃないことくらいは知っています。だから、その謝罪は受け取っておきますね」
うん、フィオナはティアにも優しくしていたし。いい人なのはわかってる。
「……ありがとう」
フィオナはそう呟いた。
いつも飄々としている彼女が、少しだけ泣きそうな顔をしていた。私にそんな資格があるのかはわからないけど。彼女が三百年間抱えていた後悔を、これで少しでも軽くしてあげられたならいいんだけど。
「さて、では本題じゃな」
しかし、数分後にはフィオナはいつもの調子に戻っていた。
なかなか切り替えが早いな。
「女神さまはなぜ今になって聖女さまへ神託を与えたのじゃろうなぁ」
その言葉に部屋が静まり返る。
誰も答えを持っていなかった。
そもそも女神さまが何を考えているのかなんて、私たちにわかるはずもない。
「夢の最後に女神さまはこう言っていました『あなたの願いを聞き届けた』と。つまりクレアさんの願いを叶えるのが私の使命なのだと思います」
「ふむ、クレアどの。お主はたしか女神さまより『自由に生きよ』と告げられたんじゃったかのぅ」
「え? はい、確かに女神さまに自由に生きたいって言いましたけど」
「えっ! あなた女神さまにお会いになったの?」
それを聞いてルーナが身を乗り出した。
「あっ、はい」
「それって……」
「使徒さまではないですよ!」
ルーナが何を言いたいのか察して、私は即座に否定した。
このやり取りはもうさんざんやったからね。
「でも女神さまにはお会いしたのよね?」
「ええ、会いました」
「女神さまから直接お言葉も受けたの?」
「はい、そうですね」
私がそう言うとルーナがまた頭を抱えてしまった。
「えっ、待って。それって、私より聖女っぽいんじゃないかしら?」
ルーナが本気で悩み始め、そんなことを呟いた。
しかし、気にするところそこなんだな。
「まぁ、それはともかくじゃ。今考えるべきはクレアどのの願いじゃろうな」
「私の願い?」
「本当に自由に生きることだけかのぅ?」
どうなんだろう?
というかそれ本当に私の願い叶える、ってことなのか?
違うと思うんだけど。女神さまはあの時、私に何かを『手伝え』と言った。
その意味が全く分からない。
私の願いが叶うことと、何かを手伝うこと。
その二つがどうしても結びつかない。
女神さまはいったい何を見ているんだろう。
そして――私に何をさせたいんだろうか。
はぁ、私も神託スキルが欲しいよ……。
女神さま、説明不足にもほどがあるからね?




