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■第46話 ルーナ来訪

 私は帝国へ向かうため、馬車に揺られている。


 窓の外を見ると薄暗い森の中だ。帝国へ向かうルートは二つある。ルグレシア王国を経由するルートと魔の森を抜け、直接帝国領内に入るルート。


 距離的にこちらの方が近いため、私たちは魔の森を抜ける道を進んでいる。魔獣も多い場所だが、この馬車の周りは数十人の騎士たちに守られているのでよほどのことがない限り安全だ。


 まぁ、いざとなったら私が出ればいいし。

 黒龍でも出てこない限り、たぶん大丈夫だろう。


「ルーナさま、お疲れではございませんか?」


 そんなことを考えていたら、向かいに座るシスターが心配そうに尋ねてきた。


「大丈夫ですよ。久しぶりの旅を楽しんでいました」


 そう答えると、シスターはほっとしたように微笑んだ。


 今回の訪問は、表向きには帝国皇女アリスレートからのお茶会への招待である。

 もちろん正式な招待なので断る理由もない。

 だが私が帝国へ向かう理由は、それだけではない。


 あの日見た不思議な夢のことが、どうしても気になっていたのだ。

 夢の中で見た黒髪の女性。

 そして最後に聞こえた女神さまの声。


 ただの夢だったのかもしれないけれど。

 それでも、なぜか見過ごしてはいけない気がした。

 私はそっと胸元に手を当てる。


「ルーナさま、どうかなさいましたか?」


「いえ、少し考え事をしていただけです」


 そう言って微笑む。

 すると馬車の外から護衛騎士の声が聞こえた。


「ルーナさま、まもなく魔の森を抜けます。あまり魔獣と遭遇しなかったので予定よりも少し早く到着できそうです」


「わかりました、ご苦労様です」


 どうやら順調に進んでいるらしい。

 私は再び窓の外へ目を向けた。すると、遠くに森の出口が見える。

 その先にあるのがラフローグ帝国の帝都だ。


 そして、そこにはアリスがいる。

 アリスは元気にしているだろうか?

 相変わらず無茶をしていなければいいのだけれど。


「ふふっ」


 思わず小さく笑みがこぼれた。

 最後に会ったのはいつだったかな。


 そう考えた時、ふいに過去のアリスとのお茶会の事を思い出した。


 そういえば今回のアリスのお茶会って、普通のお茶会なのかしら?

 前に招待された時は、なぜか訓練場で模擬戦を見せられたし。

 もう少しで私も戦うことになりそうだった。


 あれは本当にお茶会だったのだろうか。というかそもそもお茶飲んだかしら?


「……まぁ、アリスですしね」


 たぶん細かいことを気にしたら負けなのだと思う。

 今回こそは本当に普通のお茶会だと信じたいわね。


 そう呟くと、馬車はゆっくりと帝国への道を進んでいった。



 時間は少し戻り、その日の朝――。


 私は朝食を済ませ、クロとモニカと一緒に早めにアリスの私室に向かう。


 今日のお昼にはついにあのルーナがやってくるため、最後にしっかり打ち合わせをしておきたかったからだ。正直、少し緊張している。いやだって聖女さまだし。


「失礼します」


 室内に入るとアリスはソファーに座ってお茶を飲んでいた。


「おはようアリス。今日はどうしようか?」


「んー、そうだな。とりあえずは普通にお茶会しようと思う」


「うん、それで?」


「うーん、後はまぁなるようになるんじゃないか?」


「軽くない?」


 こっちはこんなに緊張してたのに。

 でもまぁおかげで少し肩の力は抜けたけど。

 そんなことを考えていると、アリスが話を続けた。


「まぁ、とりあえずこの部屋でお茶会にしよう。向こうの使用人は適当な部屋で休ませておけばいいだろ」


「向こうの使用人を遠ざけておくってこと? 聖女さまなのにいいのそれ?」


 聖女さまなのに護衛もなしで他国のお城の中に入るとか大丈夫なのか?

 そう思っていたら。


「まぁ、いつもそんな感じだから大丈夫だろ」


 アリスはとても軽い感じでそう言った。


「あの……ちなみにいつもはどんなお茶会してるの?」


「まぁ、とてもお茶会と呼べるものではございませんね。前回は騎士団の訓練場でしたし」


 モニカが少し呆れたようにそう話す。


「え? 普通綺麗なお庭とかでやるもんじゃないの?」


 私の中のお茶会のイメージって、綺麗なドレスを着て、高級なお茶を飲んだり。

 名前知らないけど、なんか三段のお菓子を載せるお洒落なタワーからマカロンとか取り分けたりしながら優雅にお話しするものだと思ってたんだけど。


「だって、それじゃ面白くないだろ、お茶飲んで喋るだけなんて何が楽しいんだよ」


「いや、アリスはそうだろうけど……」


 ってかそれ、お姫さまが言っちゃダメなセリフなのでは?


 と思ったが今更すぎるか。


「それが、意外なことにルーナさまも楽しんでおられたのですよ」


「そうなの!」


「はい、訓練場で騎士たちを応援しておられました」


「聖女さまってそんな感じなの!?」


「途中から騎士団の方々も妙に張り切っておりましたね」


「聖女パワーすごいな」


 なんだろう。そう聞くと、なんかルーナに対する警戒感が消えてしまった気がする。そういえばアリスも前に普通の子って言ってたな。いや、それを普通と言っていいかどうかは少し疑問が残るが、そこはまぁいいか。


 こうして、その後も私たちはルーナ出迎えの準備を進めた。


 そして。


「そろそろ時間ですね、正門に参りましょうか」


 そうして、モニカに連れられて私たちは正門へとやってきた。


 暫くすると、馬車と数十人の騎士の姿が見えた。

 恐らくあの馬車にルーナが乗ってるんだろう。

 少しドキドキしてきた。


 正門の前で馬車が止まり、扉が開く。

 そして中からシスターとともに女性が降りてきた。


 長い銀色の髪に白を基調とした神聖な衣装をまとい、手には蒼い宝石が埋め込まれた白銀の杖を持っている。


 うん、すごく綺麗だ。なんというか神々しい。

 でも思ったより怖そうじゃない。むしろ優しそうなお姉さんって感じかな。


 ちょっと詩的な表現をするなら、アリスが太陽なら、ルーナは月。

 という感じだろうか?


 アリスが人を引っ張る眩しい光なら、ルーナはそっと寄り添う柔らかな光だ。


「ようこそいらっしゃいました。歓迎いたしますわ。ルーナさま」


 アリスが声を掛けた。


「こちらこそ、お招き頂きありがとうございます。アリスレートさま」


 二人がそんな風に挨拶を交わしていると、ルーナがなぜかアリスの後ろに立っていた私を見た。


「そうでした、こちらは私の護衛ですわ」


「あっ、初めまして、クレアです」


 私は慌てて頭を下げた。


「……えっ?」


 一瞬だけ空気が変わり、ルーナの身体が僅かに震えたような気がした。


「ルーナさま? どうなさいました?」


「い、いえ。なんでもありません」


 そう答えるルーナだったが。

 なぜか彼女の視線は、ずっと私から離れなかった。

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