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■第45話 クロとティア

 数日後。


 アリスとモニカは朝から慌ただしく城内を行き来していた。

 理由はもちろん、聖女ルーナの来訪準備だ。


「というわけで今日は忙しいから部屋でのんびりしててくれ」


「クレアさまはあまり城内をうろうろしないでくださいね」


 そう言い残して二人は去っていった。

 そして今に至る。


「うーん、暇だね」


 まぁ確かに私が手伝えることはなさそうだからしょうがないけど。


「うむ、我も暇だぞ」


 今日はクロと二人で部屋でおとなしくしているか。


 そんな時。

 コンコンッとドアがノックされた。


「失礼します。お茶とお菓子をお持ちしました」


 そう言って入ってきたのはティアだ。


「あっ、ティアさん。ありがとう」


「いえいえ、今日も私がお二人のお世話をさせていただきますので、よろしくお願いします」


 そう言ってティアはニコッと笑った。

 うん、やっぱりこの子も可愛いね。

 明るいからこっちまで元気になれる気がする。


「いつも悪いね。フィオナさまは大丈夫なの?」


「ええ、フィオナさまは魔道具作りに集中されてますから」


 そうか、確かフィオナは魔道具職人でもあったな。


「また何か作ってるの?」


「はい。今は帝国軍向けの新しい魔道具を試作中みたいですね」


「へぇ……フィオナさまって本当に何でも作るんだね」


「私も少しはお手伝いしてるんですが、まだまだです」


「えっ、ティアさんも魔道具作れるの?」


「はい、実は勉強中なんですよ。もともと私は魔道具作りの助手としてフィオナさまに拾われましたので」


「拾われたってどういうこと?」


「ああ、私は孤児だったので。魔法の才能があるからって、フィオナさまが引き取ってくださったんです」


 なんかサラッとものすごく重い話を聞いた気がするんだけど?

 しかし、ティアは気にする様子もなく話を続ける。


「いやー、今思うとすごく運が良かったですね。あの時フィオナさまに会えてなかったら、今頃どうなってたかわかりませんし」


 そう言って笑うティアを見ていると、本人はあまり気にしていないようだった。

 むしろフィオナに出会えたことを、本気で幸運だったと思っているのだろう。

 その後しばらくお茶を飲みながら話をしていると、ふと私は気になっていたことを口にした。


「そういえばティアさんって、普段どんな魔道具を作ってるの?」


「じゃあちょっと見てみますか?」


「えっ、いいの?」


「はい、私も誰かに見てもらいたいと思ってたんです。ちょうど今日はフィオナさまも作業中ですし」


「うむ、我もティアの魔道具に興味があるぞ」


「じゃあクロさんもご一緒にどうぞ」


 あれ? いつの間にかクロの呼び方が“さま”から“さん”に変わってる?

 この前も二人で遊んでたみたいだけど、だいぶ仲良くなったみたいだな。

 うん、クロに友達が出来て私も嬉しいよ。


 その後、部屋を出てティアに案内され工房へ向かう。


「失礼します」


 ティアにドアを開けてもらい、中に入ると中にいたフィオナがこちらに気づいた。


「おや、クレアどの、どうなされましたかな?」


「こんにちは、今日はクロと一緒に魔道具の見学をさせてもらおうと思いまして」


「おや、そうでしたか。ワシは作業で手が離せんがゆっくり見ていってくだされ」


 そう言ってフィオナは作業を続ける。

 見ると何やらソフトボールより少し大きいくらいの薄紫色の水晶球に刻印を刻んでいた。


「あの、お忙しいところすみません。それはなんですか?」


「そうですなぁ、バトル・レコーダーとでも名付けますかのぅ。戦闘中の様子を映像として記録し、立体的な映像を投影できる魔道具ですじゃ。騎士団の訓練評価や戦術研究に使えると思いましてな。なかなか面白い出来になりそうですじゃ」


 えっ? 騎士団の訓練評価や戦術研究――。

 それってつまり戦闘の様子を録画して、後から見返せるってことだよね?


「え、待って、それ完全にビデオカメラじゃん!?」


 この人、ほんとに凄いんだな。

 しかもホログラムで再生されるって、元の世界の技術も超えてるんじゃないか? 


「びでお? なんですかなそれは?」


「あっ、いえ。なんでもないです」


「おっとそうじゃった、これは国家機密なんじゃったわい。クレアどの。ここで見たことは秘密ですぞ」


 そう言ってフィオナは微笑んでいた。

 いや、聞いちゃってよかったのかそれ?

 しかしほんとに驚いた。


 正直もっと色々聞いてみたいけど、あまり邪魔しても悪いのでこの辺にしておこう。


「ではクレアさま、次は私の作品も見て貰えますか?」


 ティアが自信満々な表情でそう言ってきた。

 正直、どんなものを作っているのかものすごく興味がある。


「うん、見てみたい」


「まずはこれです。オート・ペーパー・ターナー!」


 見るとそれは、木製のブックスタンドのようだった。

 上の方に小さな少女を模した可愛い人形が付いてる。


「ん? これはどんな魔道具なの?」


「こうやって上の人形をトントンと叩いてやると自動でページを捲ってくれます」


 ティアが人形をトントンと叩くと、人形がゆっくり動き本のページを捲った。


「……いや、可愛いけど、これ自分で捲った方が早くない?」


「えっ、やっぱりだめですか?」


「いやまぁ、駄目ではないかもしれないけど……他にはどんなのがあるの?」


「ではこれはどうでしょう。その名もカラー・オブ・ハート!」


 次そう言ってティアが自信満々に取り出したのは、ごく普通のティーカップだった。


「これは、ただのティーカップじゃないの?」


「いいえ、違います。このカップに口をつけると、その人の感情に合わせてお茶の色が変化するんです。例えば、退屈だと灰色、怒ると赤、楽しいとピンクなどです。お茶会などで大活躍出来ると思うのですがどうでしょう?」


「それは、お茶会で絶対出しちゃダメな奴だよ。一瞬で人間関係が崩壊しちゃう!」


 いや、たぶん技術自体はすごいんだろうけどね。

 その用途で使うのちょっと危険すぎる。


「えぇ、やっぱりだめですか……」


 ティアがそう言って落ち込んでいるとフィオナが見かねてやってきた。


「ティアは発想は悪くないんですがな」


「そうなんですか?」


「なぜか実用性がどこかへ行ってしまうんですじゃ」


 いや、一番大事な部分がどこかへ行っちゃダメでしょ。


「うぅ、やっぱり私、魔道具作りの才能ないんでしょうか……」


 ティアが珍しく弱気な声でそう言った。


「何を言うておるんじゃ。お主には才能がある」


 そう言ってフィオナはティアの頭をぽんぽんと軽く撫でた。


「誰でも失敗はするもんじゃ。むしろ失敗せん者などおらん」


 フィオナはそう言うと、工房に並ぶ魔道具の山へ目を向けた。


「ここにある物の大半は失敗作じゃ。成功した物より失敗した物の方がずっと多いんじゃぞ」


 やっぱりフィオナほどの人でもそうなんだな。


「ティアは誰より努力しとる。ワシはそれをちゃんと見ておるぞえ」


「フィオナさま……」


「だから焦らんでよい。ゆっくり経験を積んでいくんじゃ」


 その言葉を聞いて、ティアは少しだけ表情を明るくした。


「……はい!」


 うん、なんだかすごく良い師弟関係だな。

 そんな風に少し感動していると――。


「ティアよ、これはなんだ」


「ん? クロちゃんどうしたの?」


 クロが足元を指さした。見るとキラキラと光るスリッパを履いていた。


「えっ、なにそれ?」


「ああ、それは私が作ったルミナス・スリッパです。履くと足元が光るんですよ。夜中にトイレへ行く時、家具で足の小指をぶつけないための魔道具です」


「天才か!」


「えっ、そうでしょうか?」


「うん、今までで一番欲しいよ」


「うむ、我も欲しいぞ。キラキラしていてとても綺麗だ」


「そうでしょうか、でもそんな風に言ってもらえると嬉しいです」


 そう言ってティアは少し元気を取り戻した。


「ではそれはクロさんに差し上げます」


「よいのか?」


「はい、使ってくれる人がいた方が嬉しいですから」


「ありがとう、ティアよ!」


 クロは嬉しそうにスリッパを抱きしめていた。

 まぁクロはキラキラしたものが大好きだもんね。

 それにティアともいい関係を作れてるみたいだ。


 その後、あまり長居しても悪いので私たちは自室へ戻った。


 それからはクロやティアと色んな話をしながら過ごした。

 退屈な一日になるかと思ったけど、それなりに楽しい一日になったな。


 さて、明日はいよいよルーナが帝国にやってくる。

 少し不安もあるけど、あのアリスがあそこまで信用してる人だ。


 どんな人なのか少し楽しみでもある。

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