■第44話 ルーナの夢
私は今、動けない。
そうか封印されたんだったか……いや、封印だけじゃないな。
これは魂を消滅させる刻印だ。
多分私は死ぬんだろう。
分かってる、彼女は別に私が憎いわけじゃない。
ただ彼女にも複雑な事情があるんだろう。
私はもう十分に生きた。
……ただ心残りがあるとすれば。
私は結局、何処にも居場所が作れなかったということだ。
誰かに認めてほしい、そんな事を思い、眷属を作り、街を作り。
そして仲間もできた。
けれど最後まで共に歩むことは出来なかった。
だからと言って、別に彼らのことを恨んだりはしていない。
それでも私は十分幸せを感じられたから。
だんだん意識が薄れてきた。そうか、これが終わりか。
不死身であるはずの私にも、ようやく終わりが来たんだな。
そんな時――どこからか声が聞こえた。
「クレア、死にゆくあなたの願いを一つ叶えましょう」
優しそうな声だった。誰だ? いや、この声は女神さまかな?
……願いか。
私は女神に願った。
もし次があるなら。
今度はちゃんと自分の居場所を作れるように。
「あなたの願い、確かに聞き届けました」
そんな声が聞こえたが、私の意識はそこで消滅した。
――――――
――――
――
「はっ!」
私はそこで目が覚めた。
今のは何? 夢? いえ、それにしてはやけに現実味があった。
私はルーナ。このラフォーレ聖公国の聖女である。
私は聖女としての様々な能力を持っているが、その一つに《神託》というスキルがある。これは女神さまの声が聞けるというものなのだが。私の神託はレベルが低いため不完全なのだ。だから今のが神託なのかただの夢なのかわからない。
まぁそれだけではなく私は聖女としては全てにおいて不完全なのだけど。
理由はわかってる。
それでも聖女として選ばれたのだから。その役目を全うするだけだ。
それにしても今の夢、教皇さまに報告する?
いえ、余計な混乱を招くだけかもしれないしやめておきましょう。
でも、何か気になる……あの人はいったい誰だったのかな?
その後、私はいつものように礼拝堂へ向かい、女神さまに祈りを捧げる。
どうかあの人の願いが叶いますように。
なぜかそんな言葉が胸に浮かんだ。
「おや、おはようございます。ルーナさま」
そう言いながらやってきたのは教皇派の司教だ。
「おはようございます。オスカー司教。帝国に行っておられたとお聞きしましたが?」
「ええ、シオン殿下の式典のお話に。ああ、アリスレートさまもお元気そうでしたよ」
「そうですか。式典の際は私も帝国へ行きますので、会えるのがとても楽しみです」
そう言って一礼してその場を去る。
この人とはあまり話をしていたくないからだ。
オスカー司教の笑みは穏やかだった。
けれど、その奥にある冷たさを、私は何度も見てきた。
教皇派の人はみんなこんな感じだ。
今の聖公国には、教皇派と呼ばれる人たちがいる。別に激しく対立しているわけではないけど、その多くは私をあまり良く思っていない。まぁそれは私が抱えるある秘密のせいなのだが。
……でもアリスか、そういえばもうずいぶん会ってない気がするな。
なぜかその時、ふと思い出した友人のことがとても気になってしまった。
手紙でも書いてみようかな。
そう思い立つと、私は自室へ戻った。
机に向かい、便箋を取り出す。
しかし。
「うーん……何を書けばいいのかわからないわね」
元気ですか? とか。最近どうしていますか? とか書けばいいのかしら?
そんなありきたりな文章しか思い浮かばない。
「でもアリスなら『そんなこと気にせず好きに書けばいいだろ』とか言いそうね。ふふっ」
そんなことを考えたら思わず笑ってしまう。
私は便箋を広げ、ゆっくりとペンを走らせる。
そして少し迷ったあと、こう付け加えた。
『少し不思議な夢を見ました』
よし、これでいいわね。
私は手紙を封筒へ入れると、使用人へ託した。
それから数日後。
私は自室でいつものように書類に目を通していた。
すると扉がノックされる。
「ルーナさま、お手紙が届いております」
入ってきたシスターがそう言って封筒を差し出した。
そこには見慣れた紋章の封蝋が施されていた。
「それは、帝国からでしょうか?」
「はい。帝国のアリスレートさまからでございます」
私は逸る気持ちを抑えながら手紙を受け取り、封蝋を傷つけないよう、そっと封を開く。
すると中には二通の紙が入っていた。
一通は私が書いたのと同じような近況報告。
もう一通は正式なお茶会の招待状だった。
これは帝国皇女からの正式な招待状である。聖女といえど簡単には断れない。
このちょっと強引なやり方がアリスらしいわね、あの子も私に会いたかったのかしら? そんな風に思うと、少しだけ嬉しくなった。
「帝国皇女さまのお誘いですので、帝国へ向かう準備をお願いします」
「はい、かしこまりました」
こうして私は、ラフローグ帝国へ行くことになった。
もしかしたら、あの不思議な夢の答えも、そこで見つかるのかもしれない。
そんな気がした。




