■第43話 ルーナからの手紙
翌日。私は朝食を済ませ、一人でアリスの私室へ向かう。
モニカとクロは片付けに行ってしまったので不在だ。
部屋に入るとアリスはソファーに座って、一通の手紙を見ながらため息をついた。
「おはようアリス。ってかなにそれ、何かあったの?」
「いや、エドガー学院長からなんだけどな」
「えっ、まさか昨日の壁の件? 修理代払えとか?」
「いや、それは別にいいんだけどな。壁なんて私も昔壊したことあるし」
あるのかよ!
でも、確かにやってそうだね。
アリスの魔法はまだ見たことないがステータスを見た感じでは魔法も凄そうだ。
笑顔で一切加減せず全力の魔法ぶっぱなしてそう。
「ほら、これ見てみろよ」
そう言って手紙を渡された。
読んでみると、なんと私に学院で特別講義をしていただけないか、という内容だった。
「はぁ? なんでそうなるの?」
修理代の請求ならまだわかるが、なんで講義しろなんて話になるんだ?
「学院の魔法科で一度講義をお願いしたい、だそうだ」
「昨日壁を壊した人間に何教えろって言うの? むしろ私が教わりたいよ」
……主に手加減の仕方を。
「でもこれは学院長だけの発案じゃないだろうな」
「ん? どういうこと?」
「シオンもあの場にいたし、クレアの魔法を見た生徒たちもかなり騒いでたからな」
「え? シオン殿下も関係あるの?」
「あいつは生徒会長だからな。それに昨日の帰り際、生徒たちに囲まれてたし」
「ああ、確かに」
確かに帰るとき、『あの人は誰なんですか?』みたいな話声が聞こえた気がした。いや、でも私に講師なんて出来るわけないよね?
私なんて基本的に能力が高いだけだし。理論とか聞かれても困るんだけど。
うーん、どう断ろうか? そう考えていると。
「まぁ、別に断ってもいいんじゃないか?」
アリスがそう言った。
「うん、そうだよね」
「ただ、シオンは残念がるかもしれないな」
「シオン殿下が? なんで?」
「ああ、あいつ昔から魔法が好きだからな。私やフィオナも良く教えてたんだ」
「へぇ、そうなんだ。ちょっと意外」
なんとなくだけど、シオンは爽やかイケメンだし、どちらかというと知的なタイプに見えたんだけどね。
でも、よく考えたらシオンもあの脳筋陛下の血を引いてるわけだからなぁ。姉はこんな戦闘狂だし。
「実際どうなの? シオン殿下って剣や魔法もそれなりに使えるの?」
私がそう尋ねると、アリスは少し考えるように顎へ手を当てた。
「うーん、まぁ学院ではその辺も優秀だな。剣術も魔法も上位だし。もちろん勉強もできる」
「なにそれ完璧超人じゃん?」
「まぁ優秀だけど。ただ面白くないんだよ」
「そこは必要な要素なの? まぁ、そりゃたしかにアリスはちょっと面白いけど」
「おい、それはどういう意味だ」
「ははっ、いや、別に深い意味はないよ」
そんな話をしてたらモニカとクロがお茶を持って部屋に入ってきた。
ちょうどいいのでモニカにも少し聞いてみようかな。
「ねぇ、モニカから見たシオン殿下の印象ってどんな感じなの?」
「そうですね、やはり真面目で優秀な方でしょうか?」
「いや、真面目過ぎるんだよな」
アリスが即座に否定した。
「ああ、もしかして何でも一人で抱え込むタイプとかなのかな?」
「ええ、責任感が強いのは良いことですが、少々無理をしがちですね。ところでなぜシオン殿下のお話に?」
ああ、そうだった。
軽くモニカにも学院長からの手紙の話をした。
「なるほどそうでしたか、特別講義ですか」
「うん、もちろん私は断るつもりなんだけどね」
私としては人に教えられるようなことなんて何もないし。
そんな話をしていると、モニカがふと思い出したように口を開いた。
「まぁ、それはすぐに決めなくてもよいと思いますよ。それより手紙と言えば――」
そう言って一通の封筒を取り出した。
「聖公国からもお手紙が届いております」
「えっ、聖公国から?」
「あっ!」
アリスが何かを思い出したような顔をした。
「もしかしてルーナからか?」
「はい。ルーナさまからアリスさま宛てのお手紙でございます」
そういえば昨日、アリスはルーナに手紙を書くとか言っていたな。
色々あって結局書いてなかったみたいだけど。
しかし、まさか私の事がバレたとかじゃないよね?
「ちょっと見せてくれ」
「はい、どうぞ」
アリスはモニカから手紙を受け取り、封を開けて中の手紙を取り出す。
お茶を飲みながらゆっくりと手紙を読んでいく。
その様子を私はドキドキしながら見守っていた。
しかし。
「ただの挨拶だな。なんか変な夢見て私に会いたくなった、とか書いてある」
「えっ、そうなの?」
「ああ。向こうも忙しいんだろうな」
アリスはそう言いながら手紙を折りたたんだ。
「他には何もないの?」
「あとは近況報告が少しだな。聖都は相変わらず平和らしい」
「ふむ、なるほど」
どうやら本当に普通の手紙らしい。
良かった、私の件じゃなくて少し安心した。
……と思ったのだが。
いや、待てよ。
「変な夢って何?」
「ん? 詳しく書いてないからわからん」
「いや、そこ気にならない?」
私はその夢というのがなぜか気になってしまった。
だって聖女さまでしょ?
アリスみたいな予知能力とか持っててもおかしくない。
それに転生するときに女神さま、やたら意味深なこと言ってたし。
ずっと気にはなってたんだけど……あの人絶対説明不足だよね?
でもこれはただの直観だけど、何か関係があるんじゃないかと思った。
「ルーナは昔からたまに変なこと言うんだよ」
「そうなの? でもなんか引っかかるんだよね」
「なら手紙の返事で聞いてみるか? どうせ昨日書くつもりだったしな」
「うん、そうだね。お願いしていいかな」
「わかった、じゃあちょっと書いてくる」
そう言ってアリスは机へ向かった。
「意外と行動早いね」
「クレアが気になるって言ったんだろ、ついでに帝国に呼ぶか?」
「いや、まぁそうだけど、って、ええっ! 呼んじゃうの?」
どうしよう、思わぬ急展開に思考が追い付かない。
でも、夢のことは確かに気になるんだよな。
やっぱり本人に聞くのが一番早いのかもしれない。
前にアリスも話の分かる人だって言ってたし。
「……うん、そうだね。来てもらおう」
「よし、決まりだな。モニカ、あれも用意してくれ」
「はい、かしこまりました」
そんな感じでルーナを帝国に呼ぶことになった。




