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■第40話 初めての街

 準備を終えた私たちは城の正門へ向かう。


 魔獣討伐のときは西側の門から出たからこちらから出るのは初めてだ。途中でお城の衛兵に声を掛けられたが、モニカが何やらひそひそ話すと、すんなり外へと出られた。何を話していたか気になったけど、モニカの笑顔がちょっと怖かったので聞かないでおこう。


 そして。


「うわぁ……これが帝都の街かぁ」


 思わずそう呟いてしまった。

 目の前には人で溢れる大通りが広がっている。

 しばらく歩くと露店などが立ち並ぶ場所に出た。


「むっ、主よ。肉の匂いがするぞ」


 どこからか香ばしい肉を焼く匂いが漂ってくる。

 クロはそわそわした様子で匂いのする方へ顔を向けた。


「ほんとだ、食べたい?」


「うむ、主よ我はあの肉が食べたいぞ」


「串焼きか、あっ……」


 しかしそこで気が付いた、そういえば私お金持ってない。

 どうしよう、アリスに言えば出してくれるんだろうけどそれもどうかと思うし。


「そうでした、クレアさまこれをどうぞ」


 そんなことを考えていたら、モニカがそっと小さな袋を出してきた。


「えっ、なにこれ?」


「護衛のお給金です、本来はもう少し先なので一部だけですが前払いです。せっかくの帝都観光でお金がないと困ると思いご用意していました」


「ええ、これほんとに貰っていいの?」 


「はい、正当な報酬ですので。遠慮なさらずお受け取りください」


「ありがとう、ほんとにうれしい」


 ちょっと感動してしまった。この世界で初めて自分で稼いだお金。


 袋を開けると大銀貨四枚と銀貨十枚が入っていた。正直この世界の貨幣価値はまだよく分からないんだけど。前に聞いた話だと、日本円なら五万円くらいかな。


 金額はともかく私にとってはとても大きなお金だ。大切に使わなきゃ。


「よしクロちゃん、お金貰ったから串焼き買えるよ。何本食べたい?」


「うむ、百本ぐらいはいけるぞ」


「えっそんなに?」


 私の給料、全部クロに食べられちゃうかも……。

 そんなことを考えていたら、アリスが口を開いた。


「クロ、駄目だぞ。こういう時はいろんなとこで少しずつ食べるんだぞ」


 ちなみに今日はお忍びなので、お姫さまモードではなく素のアリスのままだ。


「ふむ、そういうものなのか。たしかに色々うまそうなものがあるな」


 そう言いながらクロが辺りを見回す。


「じゃあとりあえず私が買ってくるから、ちょっと待っててね」


 そう言って串焼き屋に向かう。この世界での初のお買い物だ。

 なんか異世界で生きてるって実感がわいてきた。


「すみませーん、串焼き五本ください」


「はいよ! 大銅貨五枚ね」


 店主が手際よく串を渡してくれる。

 五本買ったのはクロが一本じゃ流石に足りないだろうと思ったからだ。

 焼きたての肉からは香ばしい匂いが立ち上っていた。


「いただきます」


 みんなに串焼きを配り、私も一口かじる。


「うわ、おいしい!」


「うん、なかなかうまいなこれ」


 アリスも満足げに笑った。お姫さまも意外とこういうの好きなんだね。


「うむ、たしかにうまいが少ないな。主よ、次はあれが食べたいぞ」


 そう言ってクロが別の屋台を指さす。


「おっ、いいな。よし次はアレにしよう」


 アリスも嬉しそうにクロに続いた。

 そうして私たちはしばらく食べ歩きを楽しんだ。


 焼き串に揚げ芋、見たことのない焼菓子など。

 いろんなものを食べていたら、気づけばお腹もかなり満たされていた。


 ふと見ると、クロがある店をじっと見ていた。

 食べ物屋ではない、あれは装飾品の露店かな。


「クロちゃん、あれ気になるの?」


「うむ、我はキラキラしたものが好きなのだ」


 あれ? カラスかな?

 ドラゴンってそういう性質なんだろうか?

 でもまぁ、興味があるなら覗いてみるか。


「よし、じゃあ見に行こうか」


「うむ」


 露店には指輪やブローチなど様々な装飾品が並んでいた。


「クロちゃん、気になるのある?」


「主よ、これを見ろ」


 クロが目を輝かせながら指さしたのは、銀細工に青い石がはめ込まれた小さなペンダントだった。


「うん、綺麗な石だね」


「うむ、キラキラしておる!」


「これ気に入ったんだね。すみません、これっていくらですか?」


「はい、それは銀貨五枚だよ」


 銀貨五枚、相場はよく分からないけど、思ったほど高くはないかな? 

 まぁクロが喜んでくれるなら買ってあげよう。


「じゃあこれください。はい銀貨五枚」


 そうして買ったペンダントをクロに渡す。


「はい、どうぞ。せっかくだからつけてあげるね」


 私はクロの首にペンダントを掛けてやる。

 うん、青い石は黒髪によく映えてる。


「よいのか? 主。ありがとう」


 クロはペンダントを見つめながら嬉しそうに笑っていた。


「うん、良く似合ってるよ」


 クロは満足そうにペンダントを撫でていた。

 こんなに喜んでもらえるなら買ってあげてよかったな。

 するといつの間にかアリスが背後に立っていた。


「ほう、クロだけか?」


「ええっ、もしかしてアリスも欲しかったの?」


「いや別に。私は装飾品ならたくさん持ってるしな」


「ほう、そうなのか」


 クロが興味深そうに食いついてきた。


「クロにも今度見せてやるよ。さて、次はどこ行く?」


「うーん、そうだね、本屋とかないのかな?」


「本屋でしたらたしかあちらにあったはずです」


 そう言ってモニカに案内され私たちは本屋に入った。


 小さいお店だが店内の本棚にはたくさんの本がずらりと並んでいた。

 日本の本屋ならジャンルごとに並んでるんだけど、ここはそうじゃないらしい。

 ある程度はまとめられているようだが、本棚ごとに何となく並べられているような感じだ。


「これは、目的の本を探すの大変だな」


「お城の書庫でしたらきちんと分類されてるんですが。こういう書店ではこれが普通でしょうね」


 モニカがそう言っていたが、これどうしよう。全部見て回るしかないのかな?


 私がそう思っていると。


「お店の方に聞けば目的のものを持ってきてもらえると思いますよ」


 モニカがそんな風に教えてくれた。


「あ、そうなんだ。じゃあちょっと聞いてくるね」


 私は店主らしいおじさんに声を掛ける。


「いらっしゃい。なにかお探しかい?」


「あの、魔法関連の本とか、歴史の本。あと地図とかありますか?」


「はい、ちょっと待っててね」


 そう言っておじさんは奥に行ってしまった。

 しばらくすると数冊の本を持ってきてくれた。


「魔法ならこれ、歴史ならこれ。それとこっちが大陸地図だよ」


「あ、ありがとうございます。少し見せてもらってもいいですか?」


「はい、どうぞ」


 私はまず地図を開いた。


 そこには私が全く知らない大陸と、いくつもの国の名前が書かれていた。

 海商連合ヴェネト、ルグレシア王国など、帝国の周辺だけでも知らない国名がいくつも並んでいる。


 おお、すごい……これがこの世界なんだ。


「すみません、これっていくらですか?」


「銀貨三枚だよ」


 思ったよりちょっと高いな。この世界では地図は貴重なのかな?

 結局、私はその地図だけを購入して店を出た。


 モニカが他の本はお城の書庫に似たものがあると教えてくれたので買わなかった。まぁお金も無駄には出来ないしね。


「まぁ、地図もお城にありますけどね」


 モニカがポツリとそう言った。


「いや、いいんだよ。自分のが欲しかったの」


 暇な時にゆっくり眺めよう。まだ行ったことのない場所ばかりだけど、いつか自分の足で見て回れたらいいな。


 その後、街を歩いていると剣と盾を象った木製の看板を掲げた大きな建物があった。


「ねぇアリス、あれってなんなのかな?」


「ああ、あれはハンターギルドだな。魔獣を狩るハンターたちの組合だ」


 なるほど、異世界ものでよくある冒険者ギルドみたいなもんか。


「へぇ、あれがそうなんだ」


 魔獣討伐を請け負う人たちが集まる場所。

 入口からは武器を持った人たちが出入りしている。

 中からは笑い声や怒鳴り声まで聞こえてきた。


 なんというか、いかにもって感じだ。


「興味あるのか?」


「うーん、ちょっとだけね」


 正直、異世界に来たら一度くらいは入ってみたい。

 やっぱりボードに依頼書とかがびっしり張ってあるのかな?


 でもまぁ。


「またでいいかな」


 気づけば太陽は傾き始めていた。

 辺りを見回すと露店の片付けを始める人たちの姿も見える。


「そうか、じゃあそろそろ戻るか」


 アリスがそう言った。


「うん、そうだね。今日は楽しかったよ。ありがとうね」


「ああ、また来ような。クロも楽しめたか?」


「うむ、うまいものがたくさんあったぞ」


 クロはそう言ってご満悦な様子だった。

 そう思ったのだが……。


「でも肉をもう少し食べたかったぞ。夕食は肉がいい」


「えっ、さっきあれだけ食べたのに?」


「デザートみたいなものだ」


「いや絶対違うでしょ。そもそもデザートは食後に食べるものだよ」


「ふむ、そうなのか?」


 どうやらクロのおなかは、まだまだ満足していなかったらしい。

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