■第39話 お忍び衣装
翌朝。
目が覚めた私は、しばらくぼんやりしていた。
コンコンッとノックの音が聞こえ、モニカとクロが入ってきた。
どうやらクロも朝食の準備を手伝っていたようだ。
「本日はパンケーキをご用意いたしました」
「おお、いい匂い。これもおいしそうだね」
ちなみに私の分は普通の量だが、クロ用の皿にはパンケーキが十段重ねくらいになっていた。
「我は肉が良かったのだが、まぁこれもうまそうだな。主、食べていいか?」
そう言いながらもクロは席に着くと待ちきれない、といった様子でパンケーキを見つめていた。
「うん、どうぞ」
「いただきます! うむ、やはりこれはこれでうまいな」
クロがそう言いながら、満面の笑みで食べていた。
しかし私は、どちらかというとそのパンケーキの横に置かれた、グラスに注がれた白い液体が気になった。
これはもしかして!? 恐る恐るグラスを手に取り、一口飲む。
「あっ、やっぱりこれ牛乳だ! しかもおいしい」
この世界にも牛乳あるんだね。まぁでも魔牛とかいたし普通の牛もいるか。
と思っていたらモニカが首をかしげながら、よく分からないことを言い出した。
「いえ、そちらは牛乳ではありませんよ?」
「え? 違うの? じゃあこれ何?」
「ミノ乳でございます」
「はっ? ミノ乳って何なの?」
「ミノタウロスの乳でございます」
「ええ、ミノタウロス? それって頭が牛で体が人間のアレ?」
「はい、そうでございます」
予想外すぎた。まさかミノタウロスだったとは。
ってことはもしかしてミノタウロスを育ててたりするの?
「あの、もしかしてだけど。ミノタウロス飼ってたりする?」
「ええ、このお城にも何頭かおりますよ」
「お城にもいるんだ! ってか大丈夫なのそれ? 暴れたりしたら危険なんじゃ?」
「おとなしい種類のミノタウロスですので」
「おとなしいミノタウロスとかいるんだ……」
私の知ってるミノタウロスってめっちゃ凶暴なイメージなんだけど。
異世界の常識半端ないな。
「興味がおありでしたら牛舎をご見学されますか?」
あっ、そこはミノ舎じゃなくて牛舎なんだな。
「いや、まぁ見てみたいけど、それはまた今度でいいかな。それよりまずは帝国のことを知りたいし、見に行くなら街の方を見てみたいんだけど?」
「なるほど、街ですか。では後ほどアリスさまにご相談してみましょう」
そんな感じで朝食を終えると、私たちはアリスの私室を訪れた。
アリスはソファに座ってお茶を飲んでいたので、私はその対面に座る。
「ん? どうかしたか?」
アリスが問いかけてきたので、私は街を見てみたいと伝えた。
「なるほど、街か」
アリスはニヤッと笑ってこう言った。
「よし。すぐ行くぞ。モニカ準備だ!」
「いえ、しかしすぐと言うわけには……」
「いいだろ、クレアには前に街を案内するって約束もしてたんだし」
そういえば帝都へ来る途中、馬車の中でそんなこと言ってたな。
ってかこれアリスも行きたいんだな。
「はぁ、わかりました。では準備を致しますのでこちらへ。あっ、クロさんも他の服をご用意しますのでついてきてください」
「よし、行くぞクロ」
「うむ、わかった」
そう言って三人は衣裳部屋へ向かうため部屋から出て行ってしまった。
「……え? 私は?」
いや、まぁ確かに私はこの格好のままでも問題ないんだろうけど。
なんかちょっと寂しい……。
そう思っていると、再び扉が開き、モニカが顔を出してこう言った。
「クレアさまの分もございますので早くいらしてください」
「あるんかーい!」
そんな風に突っ込みながら、私は慌てて部屋を飛び出した。
そして衣裳部屋に入ると、そこにはたくさんの服が並んでいた。
それぞれ服を選び、衝立の向こうでモニカに着替えを手伝ってもらっている。
まずは、最初に着替え終わったのはクロだ。
「主よ、どうだ?」
白いブラウスに黒いスカート、首元にはリボンが付いている。
少し地味な感じではあるが、落ち着いた雰囲気に見えるし、なかなかいい感じである。
そして長い黒髪には銀色の髪飾りまでつけていた。
「うん、よく似合ってるよ」
「ふむ、そうか」
スカートの裾を軽く持ち上げながらそう呟いていたが、まんざらでもない様子だった。
「まぁ、こんなもんかな」
そういいながら衝立の向こうからアリスが現れた。
白いブラウスに紺色のショートジャケット、膝丈スカート。足元には茶色の編み上げショートブーツを履き、髪は後ろで一つにまとめている。
そして顔を隠すためか、キャスケット帽を深めに被っている。
いつもの豪華なドレス姿ではなく、ちょっと落ち着いたお嬢さまのような雰囲気だった。まぁお忍びだし、このくらいが丁度いいかもね。
「うん、いいんじゃないかな」
「だろ、たまにはこんな服もいいもんだな」
そう言ってアリスは満足そうな顔をした。
「ではクレアさま、こちらへ来てください」
あっ、私か。どんな服なんだろう? ちょっとドキドキしながらモニカのところへ行く。
「え? これ着るの?」
「はい、まずは脱いでくださいね」
「ええ、いや、待って、これは……きゃぁー!」
そうしてモニカに無理やり着替えさせられたのだが。
私は姿見の前に立ってみる。
薄い青のワンピースに白いカーディガン。首元はスカーフで首輪を隠している。
見慣れない自分の姿に思わず瞬きをした。
なんというか――。
普通の女の子みたいだった。
「いや、私がこんな女の子みたいな恰好していいのかな?」
「はい? よくお似合いだと思いますよ」
モニカが笑顔でそう言ったが、なんかスースーするし、スカートってこんな感じなんだ。
「お、いいじゃないか。そういう格好も良く似合ってるぞ」
「うむ、我も良いと思うぞ」
アリスとクロもそう言ってくれるが少し恥ずかしいな。
でもまぁ、街へ行くためならしょうがないか。
さて、ようやくこの街を見れるんだ。
そう思うと少しワクワクしてきた。
ちなみにモニカは。
紫のロングスカートに白いブラウス。胸元には小さな紫色のリボン。
エプロンがないだけで普段とあまり変わらなかった。
「モニカだけほとんど変わってなくない?」
「わたくしはこれが一番落ち着きますので」
本人は平然としていた。
「では出発しましょうか」
そうして私たちは城を出ることになった。
異世界に来て初めての街だ。楽しみ半分、不安半分。
そしてこの服装の落ち着かなさ百パーセントである。
歩くたびにスカートが揺れる。
女の子っていつもこんなスリルを味わってるのか。
私は慌ててスカートの裾を押さえた。




