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■第37話 最初の吸血鬼

 そして次の日。


 今日はアリスとモニカが不在のため私は部屋でクロと二人でのんびりしていた。

 すると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。


 どうやらメイドのティアが来たようだ。


「おはようございますクレアさま。本日はよろしくお願いします」


 彼女は笑顔で部屋に入ってくる。

 ちなみにティアはクロが黒龍だと知っている。

 フィオナが事前に説明しておいてくれたのだ。


「お茶をお持ちしました。あとご希望の本もお城の書庫から何冊かお借りしてきましたよ」


「あっ、ありがとうティアさん」


 私は暇つぶしにこの世界の冒険譚なんかが読みたいとティアに頼んでいたのだ。

 クロのお話が他にもあるかもしれないしね。


 五冊ほどあったので一冊手に取ってタイトルを見てみると。

 そこには『王子と執事 禁断の夜』と書いてあった。


「えっ? これは……」


 明らかにそっち系の本なのでは?


「あっ! すいません。それ私が読みたくて借りてきた本でした」


 ティアはてへっと笑った。


「ああ、ティアさん。こういうのが好きなんだ」


「はい!」


 ものすごくいい笑顔だった。

 ここまで迷いなく肯定されると逆に清々しいね。

 ってか、ティアさんはBLが好きなのね。ってかお城の書庫にBL本あるんだ!


 ってことは、もしかして百合物とかもあるのか? と思ったがやめておこう。

 今は私も女の子なんだからそんなの読んでたら変な噂が立ちそうだ。

 そんなことを考えていると、クロが興味深そうに本を覗き込んできた。


「ほう、その本は面白いのか?」


「「えっ」」


 私とティアの声が揃った。


「クロさまも興味ありますか?」


「うむ」


「こちらは身分違いの恋を描いた名作でして――」


「いや、ちょっと待って!」


 なに教えようとしてるの!?

 純真なドラゴンを変な方向に育てないで!


「ふむ、恋愛ものというやつか、興味ないな」


 そう言ってクロが興味を失っていると。

 ティアが残念そうに呟いた。


「そうですか、残念です」


 こうしてクロの腐女子化は何とか阻止できた。


 その後、お茶を飲みながら雑談していると、ティアがふと思い出したように口を開いた。


「そういえばクロさまは、普段どんな遊びをされていたんですか?」


「ん? 遊び?」


 クロは首を傾げる。


「はい。暇な時とかです。私、ドラゴンの日常生活とかちょっと気になっちゃいまして」


 少し考えた後、クロが答える。


「ふむ……魔獣を狩っておったな」


 まるで散歩にでも行くみたいな口調で言われた。


「ってかそれ遊びじゃないよね?」


 思わずツッコミを入れてしまった。


「なぜだ? 楽しいぞ?」


 クロは本気で不思議そうだった。

 いや、まぁ野生動物なら狩りは日常みたいなもんなんだろうけどさ。


「えーと、じゃあ友達と遊んだりとか」


「友達?」


 クロがまた首を傾げた。


「もしかして……友達いなかったの?」


「おらぬな、我はずっと山に住んでおったからな」


 返事に迷いは一切なかった。

 そこまで堂々と言われると逆に反応に困る。


「いや、でも他のドラゴンとか遊んだりは?」


「やつらは我を見ると逃げるな」


「じゃあ魔獣は?」


「食べる」


「うん、それは友達じゃないね……」


 どうやらクロの交友関係は壊滅的らしい。

 というか考えてみれば当たり前か。

 四大魔獣の一角である黒龍だもんな。

 この世界の生態系の頂点みたいな存在だし。


「じゃあ普段は何してたの?」


「寝る」


「うん」


「腹が減ったら狩る」


「うん」


「また寝る」


「おじいちゃんかな?」


 思わずそう呟いてしまった。


「失礼な、我はまだ若いぞ」


「ってかクロちゃん、何歳だっけ?」


「二百歳くらいだな」


「十分おじいちゃんじゃん!」


 ティアが堪えきれず吹き出した。


「あはははっ」


「なぜ笑うのだ?」


 クロは納得いかない様子だったが、そのやり取りが妙におかしくて、私もつられて笑ってしまった。


「お二人はとても仲がいいんですね」


 そう言ってティアは笑顔のまま私とクロを交互に見る。

 まぁ確かに、気付けばクロといるのが当たり前になっていた。


「そうは言うが、主は我よりも年上であろう」


 気を抜いていたらクロがポロっととんでもないことを言い出した。


「え? ちょっ、クロちゃん?」


 いや、そうかもしれないけどティアがいる前でそんなこと言ったら。

 私は慌ててティアの方を見る。

 だが彼女は特に驚いた様子もなく首を傾げた。


「そうなんですか? 吸血鬼ってやっぱり長生きなんですね」


 そう言ってティアが笑った。


「え? なんで知ってるの?」


「実はフィオナさまから聞いていましたので。でも絶対他の人に話したりはしませんよ」


「ええ、そうなの? えと……もしかして全部聞いてる?」


「はい、私口は堅いので安心してください」


 ティアが自信満々に言った。

 少し焦ったけど、よく考えるとこれは悪くないか。

 今日みたいにモニカがいないときなんかは誰かに代役を頼むことになるわけだし、多分それを想定してフィオナが先手を打ってくれたんだろう。


 でもほんとに大丈夫なんだろうか?


「あの、私のこと……その、怖くない?」


「いいえ、全然!」


 きっぱりと言い切った。


「クレアさまもクロさまも初めは怖いのかと思っていましたけど、実際にお話してみたらお二人とも優しい方だったので、今は全然大丈夫ですよ」


 なんというか、けっこう大物なのかもね、この子。


「それに、お二人ともアリスさまの大切なお友達なんですよね?」


「お友達……うん、そうだね」


 ふと見ると、クロが私をジッと見ていた。

 友達、という言葉が気になったのだろうか。


 その後、ティアは昼食の準備のため部屋から出ていく。


 せっかく本を借りてもらったんだし、少しくらい読んでみようかな。


「さて、どれから読もうか?」


「ふむ、これはなんだ?」


 クロが一冊の本を指さした。


 タイトルを見ると『最初の吸血鬼』と書いてあった。

 私は、少し気になったのでその本を開いてみた。

 今の私は吸血鬼だし、ちょっとくらい知っておいてもいいよね。


 くらいの軽い気持ちだったのだが。

 そこにはこう書かれていた。


『最初の吸血鬼は生まれながらの吸血鬼であり、すべての吸血鬼の祖とされる。

 彼女は生まれながらにして圧倒的な力を有し、通常の吸血鬼が抱える弱点を持たなかった。

 太陽の光を恐れず、聖なる力にも耐え、血を飲まずとも生きることができた。

 後に神々から祝福を受けたとも言われている』


 とか、どうやら神話みたいな話らしい。

 その後も。


『最初の吸血鬼は極めて特異な存在である。人間でもなく、魔族でもなく、聖職者でもなく、王でもない。

 おそらく彼女自身は英雄になろうとした訳ではない。ただ目の前の人々を助け続けただけなのだろう。

 だからこそ人々は彼女を尊敬し、そして今なお伝説として語り継いでいるのである』


 などと書かれていたが。

 具体的に誰と何をした、とかは書かれてないので正直よくわからない。


 そういえば私は吸血鬼になったけど、この世界の吸血鬼についてはほとんど何も知らない。

 それどころか帝国以外の事も何も知らないんだよなぁ。

 なんだかいろいろと興味が湧いてきた。


 私はもっと、この世界のことを知るべきなのかもしれない。

 そして、なぜ私がこの吸血鬼になったのかということも。

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