■第33話 パジャマパーティ?
アリスの私室に入ると、ベッドの上に巨大な猫が座っていた。
いや、猫じゃない。
アリスの頭に、ネコミミが生えていたのだ……。
よく見ると、アリスは猫の着ぐるみに身を包んでいた。
ふわふわの猫耳に丸いしっぽ。しかも手には肉球まで付いている。
……なんだこれ。
いや、可愛いんだけど……思ってた寝巻と違いすぎるんだが。
ってかなんで着ぐるみ?
「えっと、その恰好はなに?」
思わず聞いてみた。
「え? 寝巻だけど? それがどうかしたか?」
もしかしていつもこの格好で寝てるのか?
期待していた大人っぽい寝巻とは違ったが……あんまり追及するのもアレだし。まぁこの格好も可愛いのでいいか。
「いや、なんでもないよ。それより少しだけお話いいかな?」
「ああ、いいぞ。ってかクロ。小竜の姿になってもらえるか? 今日は私と一緒に寝るんだからな」
「うむ、まぁいいだろう」
そう言ってクロはポンッと小竜に姿を変えた。
「おお! やっぱり可愛いな、ほらこっちこいよ」
そう言ってアリスがクロを抱きしめる。
「ふぅ、まったく貴様らは……我をなんだと……」
クロが少し諦めたような表情でそう呟いていた。
「そうだ、今日はクレアもここで寝るか?」
アリスが突然そんなことを言い出した。
「え? 私も? いや、まぁいいけど……え? 一緒に!?」
はっ! これはもしや。
噂に聞くパジャマパーティーってやつなのでは?
それにこんな美少女と一緒に寝られるなんて!
「う、うん。いいよ。一緒に寝よう!」
勢いよく承諾した。
「じゃあクレアにも寝巻貸してやるよ。モニカ、ちょっとあれ出してくれ」
「はい、かしこまりました」
ん? 寝巻? アレってなんだろ?
そう思っていたら、モニカが一着の服を持ってきた。
……が、その服を見て私は思わず固まってしまった。
「えーと、モニカ。それはいったい?」
「クレアさまにはクマをご用意しました。さっ、お着替えください」
「え? くま?」
なんと、それはクマの着ぐるみであった。
「えーと……この世界では寝るときは着ぐるみなの?」
「いえ、アリスさまのご趣味です」
「趣味なんだ! え? いや、私もそれを着るの?」
「はい、ではお手伝いいたします」
「え? いや、ちょっと……きゃー!」
そう言ってモニカに服を脱がされ、気づけば着ぐるみに着替えさせられていた。
ふと鏡の前に立ってみると、そこにはクマになった私がいた。
……うん、完全に着ぐるみである。
なんだろう。
吸血鬼の美少女に転生したはずなのに、気づけばクマになっていた。
なんだこれ……。
「おっ、似合ってるな」
アリスが笑顔でそう言っていたが、喜んでいいのかわからない。
「そっ、そうかな? なんかちょっと恥ずかしいんだけど」
「別に誰も見てないからいいだろ」
うん、まぁそれもそうか。美少女とのパジャマパーティーのためならこのくらい我慢しよう。
「それでは、わたくしはこれで失礼させていただきます」
「あぁ、おやすみー」
アリスに笑顔で見送られながらモニカが部屋から出て行った。
アリスと二人っきりだ。なんかちょっとドキドキしてきた。
どうしよう、隣に座ってもいいのかな?
「主よ、なかなか似合っているではないか」
クロが話しかけてきた。あっ、そうだクロもいたんだった。
「そう、ありがとう。はは……」
そう言いながら私はクロを撫でるふりをして、さりげなくベッドに腰掛ける。
至近距離にアリスがいる……ふわっといい香りがした。
よし、念願のきゃっきゃうふふタイムだ!
……いや、こういう時、何話せばいいだろ?
ガールズトークのネタがない……。いったいどうすれば?
などと考えていたらアリスが話しかけてきた。
「ところで何か話があったんだろ? どうした?」
「あっ、そうだった」
食費の話をしに来たんだった、さてどう話そうかな?
「あの、クロちゃんの事なんだけど」
「ん~?」
アリスはそう言いながら抱いていたクロの顎を撫でる。
クロは気持ちよさそうに目を閉じていた。
「その……クロちゃんってすごくたくさん食べるみたいでさ。食費の方がすごくかかりそうなんだよね」
「いっぱい食べるのは当たり前だろ。黒龍なんだから」
「うん、そうなんだけど。一応私の従魔だし、あまりアリスたちのお世話になりっぱなしっていうのも悪いかな、と思ってね」
「そんなの別に気にしなくていいんだけどな。でもまぁそんなに気になるってんなら自分でクロの食料獲ってくればいいじゃないか?」
え? 自分で? それって魔獣を狩ってくるって事?
うん、まぁ別にそれでもいいんだけど。
「でも私、あんまり目立っちゃダメなんでしょ?」
「毎日ってのは難しいだろうけど週に一回くらいならいいんじゃないか。それに私も魔獣狩りしたいしな」
アリスがそう言って、にこっと笑った。
「え? アリスも狩りに行きたいの? ほんとに戦うの好きなんだね」
そういや、戦闘民族だったなこの人。
「黒龍に乗って戦ってみたいんだよ。ほら、これ見てみろよ」
そう言ってアリスが枕元から一冊の本を取り出した。
表紙には、巨大な竜に跨った騎士が描かれている。
「これは、竜騎士の戦記かな?」
「あぁ、『邪竜討伐英雄譚』って本なんだけどな。この主人公がめちゃくちゃかっこいいんだ!」
アリスが目をキラキラさせながら語り始める。
「空から魔獣を蹴散らして、最後は邪竜との一騎打ちなんだぞ!」
……うん、楽しそうでなによりだ。しかし。
「アリスって、こういう戦記もの好きなんだね」
「あぁ。だってほら、私って勇者の血を引いてるだろ?」
誇らしげな顔でアリスがそう言っていたが。
いや、普通こういう歳の女の子って、恋愛小説とか読むもんじゃないの?
私も戦記ものは嫌いじゃないんだけど、この世界だと妙にリアルに感じちゃうんだよね。
ってか邪竜っていうのも実在したんだろうか?
「ちなみにそれって本当にあったお話なの?」
「ああ、百年くらい前に実際あった話らしいぞ。ルグレシア王国の竜騎士アルヴェインが飛竜セレスに騎乗して邪竜を討伐したんだ!」
アリスが熱く語っていた。
しかし、それを聞いたクロがぽつりと呟いた。
「ん? セレス? ああ、あやつか」
「「え?」」
「クロちゃん、知ってるの?」
「うむ、もちろん知っておるぞ。昔、我が気持ちよく寝ていたら突然襲ってきおってな。腹が立ったのでボコボコにしてやったら、背に乗せた騎士と一緒に泣きながら逃げ帰りおったわ」
クロが得意げな顔でそう言った。
「ええー!? じゃあこの邪竜って、もしかして……」
「我の事なのであろうな」
「……アリスちょっとその本見せて」
アリスから本を受け取り、最後のページを見てみる。
そこにはこう記されていた。
『※この物語は一部実話を元にしたフィクションです』
「あー、これは……ん?」
ふと隣を見ると、アリスが真っ白な灰になっていた。
「私……もう寝る」
そう言ってアリスは、クロを抱いたままベッドへ倒れ込み、シーツにくるまってしまった。
「アリスよ、熱いのだが」
「黙れ邪竜」
シーツの中からそんな会話が聞こえてきた。
……うん、私も寝るか。
ってかこれパジャマパーティーじゃないな。




