■第31話 刺激が強すぎます
その日の夜。
モニカのメイド講座もひと段落したところで、アリスがぽつりと呟いた。
「よし、夕食の前にお風呂に入るか」
その言葉に私は瞬時に反応した。
クロちゃんは私の従魔。つまり一緒にお風呂に入ってもいいということだ!
「えーと、クロちゃんはどうしようか?」
私はニヤニヤしてしまいそうなのを、必死でこらえながらモニカに聞いてみた。
「そうですね、まだアリスさまのお体を洗ったりするのには不安がありますし。クレアさまが一緒に入って教えて頂けますか?」
モニカがそう言って私を見る。
よしきたー!
いや、落ち着け。前回のような失敗をしないように慎重にいかなければ。
「ん? 風呂とはなんだ?」
クロが不思議そうに首を傾げる。
「体を洗って綺麗にする場所だよ。気持ちいいんだよー」
「気持ちいいのか?」
すると、隣で紅茶を飲んでいたアリスがクロへ視線を向けながら言った。
「そういえば黒龍ってお風呂入るのか?」
「ふむ、我も川や湖で水浴びくらいならしていたぞ」
「じゃあ今日はちゃんとしたお風呂初体験だね!」
私は思わず身を乗り出した。
よし。ついに来た。ようやく待ちに待ったお風呂イベントである。
しかも相手は黒髪クール系美少女メイドだ。
アリスたちと入れないのは残念だけど。
やっぱりラスボスの前にまずは中ボス戦をクリアしないとね。
ここを慎重にこなさなければ大いなる目標にはけっして辿り着けない。
「ちょっと待て、私もクロと一緒に入りたかったんだが?」
しかし、アリスが急にそんなことを言い出した。
「え? なんで?」
どうやら、小竜姿のクロを洗ってあげたかったらしい。
アリスはクロをかなり気に入ってるようだ。
「アリスさま、クロさんはまだ城の生活に慣れていませんので。今日のところはクレアさまにお任せしましょう」
「……くっ、しかたないか。じゃあ寝るときは私と一緒だからな」
もはや完全にペット扱いである。
「まぁ、それでしたら問題はないかと」
「うん、私も別にいいけど」
そんな感じでアリスは納得してくれた。
そしてアリスとモニカは皇族用の浴場へ。
私とクロちゃんは使用人用のお風呂へ向かった。
ドキドキしながら脱衣所へ入ると、クロが不思議そうに辺りを見回す。
「ここはなんだ?」
「脱衣場だよ。ここで服を脱いで、浴場には裸で入るんだよ」
「ふむ、そうなのか。わかった」
そう言ってクロは、なんの迷いもなくメイド服へ手を掛けた。
するり、と肩から布が滑り落ちる。白くなめらかな肩が露わになり、長い黒髪がさらりと揺れる。さらに服が足元へ落ちるたび、すらっと伸びた手足と引き締まった身体のラインが見えていく。肌はびっくりするくらい真っ白で綺麗だった。
……しかしこれはちょっと目のやり場に困る。
いや、困ると言いつつめちゃくちゃ見てるんだけどね。
黒龍だったときの姿からは想像もつかない、見事なスタイルだ。
「おぉ……これはすごいな」
思わず感動して声が漏れてしまった。
いや、なにこの美少女。
神か?
いやドラゴンだった。
「どうしたのだ、主?」
「いや、なんでもないよー」
やばい、いま完全に不審者みたいな顔をしてた気がする。
「ふう、やはり服がない方が楽だな」
クロが全裸で腰に手を当て、清々しい表情でそんな事を言った。
うぉー、見せて頂けるのはありがたいけど、こんなに堂々とされると逆にこっちが恥ずかしくなっちゃうよ……。
「わ、私も脱ぐからちょっと待っててねー」
視線を逸らそうとしているのに、どうしてもクロの方へ目が吸い寄せられてしまう。いやダメだ、落ち着け私。ここで変態認定されたらラスボスにたどり着く前にゲームオーバーになってしまう。
私は煩悩を振り払いながら、ササッと服を脱ぎ、勢いよく浴場の扉を開いた。
「ほう……これがお風呂か」
クロが湯気の立ち込める浴場を見回し、少し驚いた顔をした。
「じゃあまずは体洗おうね」
「む? それは必要なことなのか?」
「もちろん必要だよ!」
私は反射的に即答してしまった。
そして洗い場の椅子にクロを座らせ、後ろに回る。
長い黒髪へお湯をかけると、水滴がさらさらと髪を流れ落ちていく。
「わぁ……髪すごい綺麗だね」
「ん? そうなのか?」
「うん。羨ましいくらいだよ」
私はシャンプーの瓶を手に取りクロに見せる。
「これが髪を洗うシャンプーね。これくらいを手に取って洗うんだよ」
「ふむ、なるほど」
「じゃあ洗ってあげるね」
「うむ、良いぞ」
クロの髪をゆっくりと優しく洗っていく。
黒髪からふわりと良い香りが漂ってきた。
「どう? 気持ちいい?」
「うむ……悪くない」
クロが少し目を細める。
うん。
なんかちょっと大型犬洗ってるような気分になってきた。ほんとに可愛いな。
髪を洗い終わると、次は背中も洗ってあげる。
「体はこうやって洗うんだよ」
ボディーソープをつけたタオルで白い肌をゆっくりと洗っていく。
「むっ、これは、ちょっとくすぐったいな」
「じっとしててね」
「むぅ……」
しかし、背中はまだ大丈夫だが前を洗うのはちょっと勇気がいるな。
私は背中越しにクロの前の方をチラッとのぞき込む。
うっ! だ、だめだ……! これはさすがに刺激が強すぎる……!
「あの……クロちゃん、練習のために前の方は自分で洗おうか」
すいません、私には無理でした……これは初心者向けイベントじゃないよ。
中ボスが強すぎでした……。
「うむ、わかった。これで体を洗えばいいんだな。ん? 主、なにをしているのだ?」
「いや、これ以上は過剰供給なので……少し休ませてください」
「……よくわからんが、わかった」
そうしてひと通り洗い終えたので、今度は私が洗ってもらう。
いや、これはクロちゃんの練習のためだからね?
「じゃあ、さっき私がやったみたいに洗ってくれる?」
「うむ、わかったぞ」
クロがシャンプーを手に取り、私の髪をシャカシャカと洗ってくれる。
「おぉ、なかなか上手だね」
力加減大丈夫かな? と心配だったが、そんなことはなく。
絶妙な力加減で洗ってくれる。
うん、これは普通に気持ちいいな。
どうやらさっき一度体験しただけで覚えたようだ。
さすが知能の高いドラゴンだ、物覚えがいい。
その後、ちょっと恥ずかしかったけど、体も綺麗に洗って貰った。
なんというか……美少女に体洗って貰うって最高だね!
「じゃあ、体も洗い終わったし。次はお湯に浸かろうか」
「ふむ、あそこに入るのか」
クロが湯船の方を見る。
「うん、とっても気持ちいいんだよ」
そう言って、私はクロと一緒にお湯に浸かった。
「ふわぁ……」
思わずそんな声が漏れてしまう。
湯船に肩まで浸かると、暖かいお湯に包まれて、自然と力が抜けていく。
「ほうっ……! なんだこれは、体が温かくなるぞ~!」
「でしょ? お風呂って最高なんだよ」
「うむ……これはいいものだ。人間が風呂に入る理由がわかった気がするぞ」
クロも満足そうに呟く。
湯気の向こうで、濡れた黒髪がしっとり肌へ張り付いていた。
こんな美少女と一緒にお風呂に入れるなんて。
私は思わず天を見上げた。
ありがとう女神さま。
異世界転生して本当に良かったです。
「主、なぜ泣いているのだ?」
「……なんでもないよ」




