■第29話 帝国最強のコンビ
その後、私達が帝都に帰還するとモニカが出迎えてくれた。
「あの、それはいったい……」
モニカが小竜姿のクロを見て唖然としていた。
「可愛いでしょ? クロちゃんって言うんだよ」
「黒龍なのですよね? それ……」
「うん、なんと人の姿にもなれちゃうんだよ」
「今はクレアの従魔になってますから安全ですわよ」
アリスはニコニコしているが、モニカは若干顔が引きつっていた。
もしかしてトカゲ苦手なんだろうか?
「それで、どうされるんでしょうか?」
モニカがアリスに問いかける。
「そうですわね、陛下に許可を頂いて私のメイドになってもらいましょうか?」
「なるほど、そうですか……わかりました。では参りましょう」
そう言ってモニカに連れられてそのまま皇帝の執務室を訪れたのだが。
「これが……黒龍だと?」
「信じられませんね。あの四大魔獣の一角である黒翼の災厄がこのような……」
オルクスとジルベールが小さいクロを見て驚いていた。
まぁ、そりゃ驚くよね。
あのでっかいドラゴンが私と従魔契約を結んで、しかもこんなに小っちゃくなってるんだから。
ってか、クロって“黒翼の災厄”とか呼ばれてたの?
めちゃくちゃかっこいいじゃん。
……でも今のクロは黒い子猫って感じだけどね。
「うむ、我こそは誇り高き黒龍である!」
クロがドヤ顔でそう言った。
「ハッハッハ―。まさか黒龍を従えてしまうとはな。想像以上であったわ」
オルクスが豪快に笑う。
「はぁ、おおよその話は理解しました。しかしあまり人目につかないようにした方が良いでしょうね」
ジルベールがそう言った。
「ええ、この子は人の姿にもなれますので。普段はその姿で過ごしていただこうと思っておりますわ。私の新しいメイドということにでもしておきましょうか?」
「クロちゃん、それでもいいかな?」
「ん? メイドとはなんだ?」
「アリスさまのお世話をするお仕事だよ」
「ふむ、まぁ主がやれと言うなら構わんが」
――「お待ちください」
ジルベールが静かに口を開いた。
「さすがに、黒龍にメイドをさせるというのは問題があるかと」
「何故ですの?」
アリスが首を傾げる。
しかしジルベールは構わず続けた。
「仮に人の姿になれたとしても、礼儀作法や一般常識を身につけさせるだけでも相当苦労するでしょう」
「むぅ……」
アリスが不満そうに頬を膨らませる。
そしてジルベールは、ちらりとクロを見る。
「さらに問題なのは正体が露見した場合です。四大魔獣の一角である“黒翼の災厄”が帝国にいると知れ渡れば、他国は間違いなく警戒します。それに――」
ジルベールがなおも言葉を続けようとした、その時。
モニカがすっと片手を前に出し、ジルベールの言葉を制した。
「モニカ?」
「アリスさまのおっしゃるように人の姿になればそう簡単にバレることはないと思います。メイドにするのが不安でしたら、わたくしがクロさんの教育を致します」
「しかしだな……」
ジルベールが難しい顔をした。
「……わたくしが信用できませんか? お父さま」
「うっ……」
室内の空気が一瞬止まる。
え?
お父さま? 今、お父さまって言った?
私は思わずモニカとジルベールを見比べた。
ええっ!? モニカって宰相さまの娘だったの!?
いや、言われてみればなんとなく雰囲気は似てるけど!
ってかなんでそんな人がメイドやってるんだ?
「……しかし下手をすれば帝国の外交問題にも発展しかねないんだよ」
「ふむ、人間とは面倒なのだな」
クロがしっぽを揺らした。
いや、その問題の原因ほぼクロちゃんだからね?
「そこは陛下とお父さまが何とかしてください」
モニカがさらっととんでもないこと言った。
「そうですわね、陛下ならなんとかしてくださるでしょう」
アリスまで当然のように乗っかってきた。
「えっ、儂?」
オルクスが珍しく困惑した顔をしている。
するとモニカが微笑む。
「お父さまなら問題なく対処できると思っております」
「ぐっ……」
ジルベールが言葉を失ったように額を押さえる。
……うん。
これ、完全に娘に弱いお父さんだ。
しかもアリスとモニカ、息ぴったり過ぎる。
反対意見を逃がさず、そのまま押し切っていく感じが凄い。
なんだろう。
これ、ペットを飼うのを反対してたお父さんが、娘たちの勢いに押し切られる光景そのものでは?
そして気づいてしまった。
この二人、たぶん帝国で最強のコンビなのではないだろうか?
こうして私たちは、半ば強引にではあるが、なんとかクロちゃんを飼う許可を取り付けたのだった。
その後、私たちはアリスの私室に戻った。
部屋に入ると、私はどうしても気になっていたことをモニカに問いかける。
「というかモニカって宰相さまの娘だったの?」
「ええ、そうですよ」
「いや、知らなかったんですけど。なんで教えてくれなかったの?」
そう聞くと、モニカは少し考えてから。
「そういえば、きちんと自己紹介をしておりませんでしたね」
そう言って、モニカはスカートの裾をふわっと指先でつまみ華麗に一礼する。
「申し遅れました、わたくしフィオリア公爵家次女モニカ・フィオリアでございます」
「いや、申し遅れ過ぎだけどね……って、え? 公爵? 公爵って……え? ってことは皇族の親戚みたいな感じ?」
「はい、そうですね」
いや、それが何か? みたいな顔で言わないで欲しいんだけど。
ってかそうか。だから皇族用のお風呂に入ったり、陛下の夕食を勝手に持ってきたりしても、お咎めなしだったのか。
「え? でもなんでそんな人がアリスのメイドやってるの?」
「お聞きになりたいですか?」
「う、うん、聞きたいけど」
――「おい、やめろ!」
アリスが勢いよく制止した。
「え? なんで?」
「あの時のことは思い出したくないんだよ!」
アリスがそう言うと。
「ふふふっ……あはははっ」
モニカが珍しく声を上げて笑った。
「ふふっ、申し訳ありません。つい思い出してしまいました」
モニカがこんなに笑うの初めて見た。そんなに楽しい思い出だったのかな?
「お前、あれは誰にも言わないって言っただろ!」
若干アリスの顔が赤い。黒歴史的なやつなんだろうか?
「そうでしたね、クレアさま。そういうことですのでお教え出来ません」
モニカが笑顔でそう言った。
「うん、まぁそういうことなら無理には聞かないけど」
アリスは「まったく……」と呟きながら、クロを抱きしめていた。




