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■第27話 主従契約

「我が名はラフローグ帝国皇女、アリスレート・ラフローグ! いざ尋常に勝負ですわ!」


 アリスが急にそんなことを言い放った。おお、なんかかっこいいな……ん?

 いや、なんか顔がにやけてる。

 これ、多分一回言ってみたかったセリフなんだろうな。


「ん? 貴様……ただの人間ではないな。もしや勇者か?」


 黒龍がアリスに視線を向け、そんなことを聞いてきた。


「え?」


 アリスが、え? 私? みたいな顔をしたが、すぐにニヤッと笑った。


「ええ、そうですわ!」


 嘘ついたぁー!


 いや、つい盛り上がって言っちゃったんだろうけど。いいのそれ?

 勇者は皇帝陛下でしょうに。

 まぁ勇者の血を引いてるわけだからあながち嘘でもないんだろうけど。


 あっ、ちなみに私はいざって時まで動くなと言われているので、後方で観戦モードに入ることにしました。


 

「では、参ります!」


 アリスの言葉で騎士たちも一斉に黒龍に向かっていく。


「姫さまに続け!」


 エルネアが叫ぶ。


「光属性持ちは魔法で攻撃! 他は足止めを! ブレスに注意しろ!」


 騎士たちが怒号を飛ばしながら黒龍へ突撃する。

 地面が揺れる。

 剣戟の音と魔法の閃光が森に響き渡った。


「おお……なんか本格的なレイド戦って感じだ」


 鑑定してみたが黒龍のレベルは457、思っていたより少し高い。

 しかし、こちらもレベル200以上が何人もいる上、レベル300近いアリスもいる。


 戦力だけ見れば、十分勝負になりそうかな?

 そう思っていたが、実際にはかなり劣勢だった。


 騎士たちは切りかかるが、黒龍の硬い鱗にまったく傷をつけられないでいた。

 唯一まともにダメージを与えているのは、アリスの属性剣だ。


「はぁぁぁっ!」


 アリスの剣が白い光をまとい、ギギィッ! と硬い鱗を切り裂く音が響いた。


「ガァァァァァッ!!」


 黒龍が苦痛と怒りの入り混じった叫び声を上げた。

 アリスは黒龍の弱点である光属性を剣に付与して戦っている。


「さすがに勇者の血を引いてるだけあって強いなぁ」


 光魔法を使える者たちも、数人魔法で攻撃しているがあまり効いていないようだ。……これじゃ、さすがに倒しきれないんじゃないかな?


 そんなことを考えていたら、次の瞬間。

 黒龍が大きく息を吸い込んだ。


「まずい! ブレスだ!」


 轟音とともに黒い炎が吐き出される。

 地面を焼きながら一直線に薙ぎ払われ、騎士たちが次々と吹き飛ばされた。


「ぐあああっ!」


「防御魔法を張れぇ!」


 熱風だけで木々が吹き飛び、周囲の森が大きく揺れる。

 隙を見てアリスが切りかかったが、黒龍の太い腕で弾き飛ばされる。


「姫さま!」


 誰かが叫ぶ。

 黒龍の爪が、アリスへ振り下ろされる。

 間に合わない――そう思った瞬間。


「あっ! 危ない!」


 反射的に《影渡り》を発動する。


 次の瞬間、私はアリスの前に立っていた。


 そのまま黒龍の腕を片手で受け止める。


「アリス、大丈夫?」


「……クレア!? ええ、大丈夫ですけど」


 アリスが驚いていた。やばい、動くなって言われてたから、後で怒られるかな?

 しかし、思ったほどの威力じゃないな?

 片手で簡単に受け止められたことに少し驚いた。


 周囲では騎士たちが唖然としている。

 まぁ、普通に考えたらドラゴンの腕を片手で止める人間なんていないよね。

 でも、もしかしてこの黒龍、思ったほど強くないんじゃ? 

 そう思ってしまった。


「ぐぬぅ、貴様は何者だ?」


「ねぇ、黒龍さん。このまま帰るなら殺さないけど。どうする?」


 私のせいみたいだし、殺しちゃうのはちょっと悪い気がしたのでそう聞いてみた。


 しかし黒龍は、グオォォォォー! と怒りの叫びを上げ、もう片方の腕で私を薙ぎ払おうとする。


「ふぅ、しょうがないな……《生命吸収エナジードレイン》」


 受け止めた黒龍の腕へ触れたまま、生命力を吸い取る。

 これなら派手さはないし、他の人に見られても大丈夫だろう。


 黒龍の巨体から、何かが吸い上げられるように光が走り、一瞬黒龍の体が跳ねる。

 再びグオォォォォー! 

 と悲鳴を上げ、ドスンッと大きな音を立てて黒龍が倒れた。


 まぁ、殺してはいないんだけどね。すぐには動けない程度にとどめたよ。

 私だってこのくらいの手加減はできるんですよ!

 さて……私は倒れた黒龍の顔の方へ近づき話しかける。


「貴様、吸血鬼か?……なぜ吸血鬼がこんなところにいる?」


「なんでって言われても……成り行き? それより黒龍さん、もうこのくらいにしておかない?」


「クッ、殺さんのか……」


「え? 別に私はあなたに恨みがあるわけでもないし、これ以上暴れないのなら別にこのまま帰ってもらって構わないんだけど?」


「……フッ、敗者は勝者に従う。それが我ら竜族の掟だ。強き者よ……では我はお主に下ろう」


「はいっ?」


 話を聞いてみると、どうやらこのドラゴンは強い相手と戦いたかったらしい。

 なんて迷惑なやつなんだ……いや、私もあまり人のことは言えないか……。

 ってかこの世界、強い人と戦いたがる人多すぎない?



「では主従の契約を。我に名を与えよ」


 黒龍がゆっくりと頭を下げ、私の前へ差し出した。

 え? これどうすればいいの?


「クレア、黒龍の頭に手を当て名を与えるのです。それが主従の契約になりますわ」


 アリスがそう教えてくれた。


 えーと、手を頭に当てるのか。そっと黒龍の頭に触れる。

 名前かぁ、どうしよ。黒いドラゴンだから……そうだなぁ。


「クロちゃん!」


 ――「「へ?」」


 アリスと黒龍が同時に変な声を出した。


 次の瞬間、手が触れた場所に魔法陣が浮かび上がり――。温かい魔力の流れが繋がったように感じた。


「えーと、これで終わりかな?」


「いや、ちょっと待て! クロちゃんとなんだ! 我はもっとかっこいい名が良かったんだが!」


「え? 可愛くていいんじゃない?」


「かわっ!? 我は最強の黒龍であるぞ……」


「まぁまぁ、いいじゃない……《鑑定》。あっ! ちゃんと『クロ』で名前登録されてるよ」


「クッ、この我がそのような名に……だが、主の命なら仕方あるまい……」


 そう言いながらクロはしぶしぶ了承してくれた。


 そしてその時、私はあることを思いついた。

 そうだ! 

 飛翔魔法は禁止されたけど、このドラゴンに乗せてもらえば空飛べるんじゃ?


「ねっ、ねぇクロちゃん。私を背に乗せて飛んで言ったらどうする?」


「ん? 主であれば喜んで乗せてやろう」


「おお! そうなんだ。じゃあちょっとだけ乗っていいかな?」


 ――「クレア!」


 突然呼ばれたので驚いて振り返ると、アリスが目をキラキラさせて私を見ていた。……あぁ、乗りたいんだな。


「この人も一緒にいいかな?」


「む? 我は主以外を背に乗せたりはせん!」


 クロはそう言ってぷいっと、そっぽむいてしまった。


「あの、この人は私の主なんだよ。主の主ってことでダメかな?」


「なんと! 主の主だと! ふむ……そういうことなら仕方ないか」


 そう言ってアリスも乗せてもらえることになった。


 いいんだ! 結構ちょろいね、このドラゴン。


 クロが私たちを背に乗せ、巨大な翼を広げて羽ばたく。

 すると、ふわりと巨体が宙へ浮かび上がった。

 そしてあっという間に空高く飛び上がった。


「うぉー、クロちゃん。もうちょっとゆっくり飛んで!」


「ん? わかった」


 クロは速度を落とし、大空をゆっくり旋回した。


「おお、これはすごい。ねぇ、アリス見て」


「え? なんだ?」


 アリスが恐る恐る目を開けた。


「ほら! 帝都があんなに小さく見える!」


「ほんとだ! すごいなこれ。本で読んだ竜騎士になった気分だ」


 眼下では森も街も豆粒のように小さく見えた。

 風を切って空を飛ぶ感覚。

 地上を見下ろす景色。

 それは、前世では絶対に味わえなかった体験だった。


「あれ?」


 いつの間にか“お姫さまモード”が解除されていた。


「空なら誰も見てないしいいだろ」


 そう言ってアリスが微笑む。

 どうやら完全に素のアリスへ戻ったらしい。


 ふと気が付くと、アリスが私の背にぎゅっとしがみついていた。


 これは! 背中に胸の感触が! あぁ……ずっとこうしてたい。

 あっ、そうだ! 帰ったらモニカも乗せてあげよう。


 そうして私は、幸せな空の旅を楽しんだのであった。

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