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■第26話 生ドラゴン

 翌日。朝食を済ませ、アリスとともに騎士団の駐屯地へ出向いた。


 朝だというのに、そこはすでに騒がしかった。

 鎧の擦れる音。馬の鳴き声。騎士たちの怒号。

 荷馬車へ積み込まれていく予備武器や回復薬。

 忙しそうに走り回る兵士たち。

 いかにも“これから討伐行きます!”って感じの空気である。


「おお……なんかすごいね」


「なにがでしょうか?」


 隣に立つアリスが呆れたように言う。


 アリスはいつものドレスではなく、白銀の軽装鎧に身を包んでいた。

 腰には昨夜磨いていた剣を携え、長い髪も戦いやすいよう後ろでまとめている。

 まるで物語に出てくる姫騎士のようで、思わず見惚れてしまうほど格好よかった。


 ちなみに私も騎士団から剣を借りている。

 ただ、服装だけはこの世界に来た時のままだ。

 なんというか、この格好が一番しっくりくる気がする。


「いやだって、ドラゴン討伐だよ? 騎士団だよ? テンション上がるでしょ普通」


「本当に緊張感がありませんね」


 アリスは呆れたように息を吐く。

 でもその口元は少し楽しそうだった。

 アリスも割とワクワクしてるんだろう。昨夜は遠足前の小学生みたいだったし。


「姫さま」


 突然声を掛けられた。

 振り返ると、そこには副団長エルネアの姿があった。


「エルネアさん、準備はいかがですか?」


 アリスが問いかける。


「はい、抜かりなく。ところで、そちらの方はクレアさんでしたか?」


「あっ! はい、クレアです。アリスさまの護衛として同行させて頂きます」


 よし、ちゃんとそれっぽく言えた。ふふん、私だってやれば出来るんだよ。

 チラッとアリスの方を見ると。

 にこっと笑ってくれた。どうやら合格だったようだ。


「ところでエルネアさん。団長の姿が見えませんが?」


「はい、セルジュ団長は昨日負傷したばかりですので今回は不参加です。その代わり、レベル200以上の精鋭を5名揃えました。150以上も25名。今回はこの総勢30名で向かいます」


「30名ですか。フフッ、頼もしいですね」


 アリスが静かに頷いた。


 その後、騎士たちは馬に乗り、私たちは馬車で魔の森へ向かった。

 ちなみに非戦闘員であるモニカはお留守番である。

 なので馬車の中は私とアリスの二人だけだ。


 私は少し疑問に思ったことがあった。

 レベル400超えの黒龍に、この戦力で勝てるのだろうか?

 まぁ、アリスのレベルは283。

 あの副団長さんだって鑑定してみたらレベル223とそこそこ高レベルだった。


「ねぇ、本当にこの人数で大丈夫なの?」


「ん? ああ、普通なら厳しいだろうな」


 アリスはあっさりそう言った。

 うん、普通に厳しいよね。


「黒龍クラスになると、数だけ揃えても意味は薄い。下手に人数を増やせば被害が広がるだけだからな」


「へぇ……」


 なるほど。強すぎる相手には人海戦術も通じないってことか。 


「本来なら陛下が出る案件なんだが。それを止めるために、今回は私たちが来てる」


「あー……なるほど」


 つまり皇帝陛下が出撃しないための戦力ってことね。

 いやでも、それって逆にかなり危険なのでは?

 そんなことを考えていると、アリスがニヤッと笑った。


「まぁ、今回はクレアもいるしな」


「その言い方やめて? なんか最終兵器みたいだから」


「実際そうだろ」


「否定できないのが嫌なんだけど……」


 そんな事を話しながら馬車に揺られ、数時間後。私たちは魔の森へ到着した。


「ここが魔の森かぁ……外から見るとこんな感じなんだね」


 思わずそんな声が漏れる。


 数日ここで暮らしていたが、結構不気味なとこだったんだな。

 木々はどれも巨大で、昼間だというのに森の中は薄暗い。

 空気も妙に重い気がする。


「魔力濃度が高いので、魔獣が多いんですわ」


 アリスが周囲を警戒しながら言う。……いや、これは警戒じゃないな。『黒龍どこ?』とワクワクしながらキョロキョロ辺りを見回してるだけだ。


 そのまま騎士団は隊列を組み、森の中へ進み始めた。

 すると前方を歩いていたエルネアが突然、声を上げる。


「止まれ!」


 騎士たちが足を止め、剣に手を掛ける。

 森の奥からガサガサと音が響いた。そしてその後。


 ――ゴォォォォォォォォッ!!


 森全体を揺らすような咆哮が響いた。

 木々が激しく震える。

 空気がビリビリと揺れた。


「うわっ!?」


 思わず耳を押さえる。

 そして次の瞬間。

 ズシン……ズシン……と地面を揺らしながら、“それ”が姿を現す。


 黒い鱗。


 巨大な翼。


 黄金の瞳。


 まるで災害そのものみたいな圧倒的存在感。


 ――黒龍だった。


 前世ではゲームや映画の中でしか見たことがない存在。


 それが今、目の前にいる。


 しかも本物。

 

 動いてる。


 羽ばたいてる。


 ドラゴンだ。


「おおおおおおっ!? 生ドラゴンだぁぁぁ!!」


 思わずテンションが爆上がりした。


 だが周囲の騎士たちは、その姿を見ただけで唖然とした表情を浮かべ、思わず一歩後ずさる者までいた。それほどまでに、黒龍は圧倒的な存在だった。


「総員、戦闘態勢!」


 エルネアの鋭い声が飛び、騎士たちが一斉に剣を構える。

 すると黒龍は黄金の瞳を細め――まっすぐこちらを見た。


 いや、違う。

 騎士団ではない。 

 あれ? もしかして……私を見てない?


 そして黒龍は低く唸るような声を響かせた。


「――見つけたぞ、強者よ」


 ……やっぱり私ですかぁー?

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