■第25話 出発前夜
その後、黒龍討伐の話は細かな確認へ移っていった。
騎士団の編成や出発時間、補給物資の確認など。
私は正直よくわからなかったので、途中から完全に置物状態になっていた。
いや、だって難しい話ばっかりなんだもん。
そんな感じで話し合いは進み、気づけば外はすっかり夕方になっていた。
「では、本日はこれで解散といたしましょう」
ジルベールの言葉で会議は終了となった。
私は内心ほっと息を吐く。
いやぁ……疲れた。精神的に。
皇帝いるし、宰相いるし、騎士団副団長いるし。
……まぁ、副団長さんは美人さんだったからちょっと得した気分だったけど。
なんか周りが偉い人ばっかりだったからね。
「クレア、戻りましょうか」
「あっ、はい」
アリスに声をかけられ、私たちは執務室を後にした。
部屋へ戻った瞬間。
アリスは勢いよくベッドへダイブした。
「あー、疲れた。会議長すぎだろ」
「確かにね。偉い人たちに囲まれて私も、ちょっと疲れたよ」
「っていうか」
アリスがそこで言葉を切り私を見る。
「強者って誰のことだ?」
「えっ、いや。ほんとにわからないんだけど?」
「絶対クレアの事だよな? なんで黒龍がクレアを探してるんだ?」
アリスがジトッとした目で私を見てる。
「いやいや、確かに森でほんの少し暴れちゃったかもしれないけど黒龍とか全然知らないよ?」
私が必死に言い訳をしていると、隣で静かに話を聞いていたモニカが、考えるように口元へ手を当てた。
「……もしかすると、強者の気配だけを感じ取った可能性はありますね」
「え?」
「高位の魔獣は、魔力感知能力に優れておりますので」
「なるほど。つまり私が森で暴れたせいで――黒龍に『なんかヤバいやつ来た!』ってバレた可能性があると?」
「かもしれないな。……でも黒龍か」
アリスの目がきらりと輝く。
「もしかして戦ってみたいの?」
「そりゃそうだろ。黒龍なんて普通は滅多に会える存在じゃないんだぞ?」
アリスは少し嬉しそうにそう言った。
「私も一度は戦ってみたいと思ってたんだ」
「あの……アリスってもしかして戦闘狂だったりする?」
「いや、戦闘狂ってなんだよ! そりゃ戦うのはそこそこ好きだけど。でも私は皇女だからな。民を守るのも仕事だ」
「まぁ、アリスさまは幼少の頃より荒くれ者と触れ合う機会が多かったようですし」
モニカがポツリと呟いた。
「……荒くれ者と触れ合うお姫さまってどうなの?」
思わず、幼いアリスがトゲトゲの肩パッドをつけたモヒカン頭のヒャッハーな人たちと、元気よくハイタッチしている姿を想像してしまった。
「荒くれ者ってなんだよ。ちゃんとした騎士たちだぞ」
アリスは不満そうにそう言った。
「あら、そうでしたか。わたくしには違いが良く分かりませんので」
「いや、分かれよ!」
アリスがそう言ってたが。
……まぁ、モニカからしたら似たようなものなのかもしれない。
騎士団の人たちって見た目は結構怖いし荒くれ者に見えなくもないかも。
「しかし、そんな幼い頃から騎士たちと訓練してたんだね」
「ああ、陛下に連れられて魔獣討伐とかもよく行ってたぞ」
小さな女の子を魔獣討伐って、陛下なにやってんだ。脳筋にも程があるだろ。
その後、モニカがお茶の用意をしてくれた。
今日は偉い人と話したりで少し疲れたのでありがたい。
銀色のティーポットから、落ち着く甘い香りがふわりと広がる。
「はい、どうぞ」
「わぁ、ありがとう」
差し出されたカップを受け取る。
うん、こういうのもいいよね。女の子同士の華やかなお茶会みたいで。
お茶を一口飲んでみる……うん、美味しい。
ここだけ見れば、楽しいお茶会みたいなんだけど……。
チラッと見ると、アリスは紅茶を飲みながら楽しそうに剣を磨いていた。
……なんかこれ私が思ってたお茶会と違うんですけど。
「しかし明日は黒龍討伐かぁ……」
アリスはどこか楽しそうに呟いた。
「ところで明日の事だけど、私戦っていいのかな?」
そう聞くと、アリスは磨いていた剣の刃を灯りにかざした。
「ん? そうだなぁ……もしかしてクレアなら余裕で勝てるのか?」
「まぁレベル400くらいって言ってたから多分問題なく勝てると思うけど?」
「やっぱりか、でも明日は騎士団の連中もいるからあんまり目立つのはまずいかもな」
「あー、やっぱりそうだよね……」
「とりあえず私が戦うから、いざってときまでクレアは待機って事にしよう」
「……うん、わかった」
まぁ、戦えなくても、生でドラゴン見られるだけで満足なんだけどね。
でも、護衛なのに後ろで見てるだけって、それはそれでどうなんだろう?
アリスはニコニコしながら剣の手入れをしている。
「そんなに楽しみなの?」
私が紅茶を飲みながらそう呟くと。
「もちろん油断はしないぞ。だけど強敵との戦いは心が躍るだろ?」
アリスは本当に楽しそうに笑っていた。
同意を求められましても……やっぱりこの人、戦闘民族なのでは?
「いや、私は平和主義者だからね」
「そうなのか?」
「まぁ、確かに私も黒龍を見るのは結構楽しみなんだけど。でも目立っちゃダメなんでしょ?」
「それはそうだけど」
アリスはそこで一度言葉を切り、磨いていた剣を鞘へ戻した。
「まぁ、いざってときは何とかしてやるよ」
そう言ってアリスはニヤッと笑った。
その顔を見たら、あまり目立たない程度なら大丈夫かな、と思った。
よし、いざってときはアレを使おう。
そんなことを考えながら、私は紅茶を飲み干した。




