■第24話 強者を出せ
私は黒龍――つまりドラゴンだよね? と少しワクワクしていた。
しかし室内は至って真面目な雰囲気だった。
「それで被害は?」
オルクスが低い声で尋ねる。
「現在確認されている限りでは、森の外縁部で騎士団の者数名が負傷。付近の村などにはまだ被害は出ておりません。セルジュ団長が負傷したため、一時撤退いたしました」
「ふむ、そうか。セルジュの容体は?」
「はっ、軽傷ですが大事をとって治癒師に治療してもらっています」
オルクスは腕を組みながら立ち上がった。
その瞬間、部屋の空気がさらに重くなる。
「ふむ、そうか。よし、では儂が行こう!」
えっ、皇帝陛下自ら行くの?
フットワーク軽いな。
いやでも、皇帝ってそんな気軽に前線出ていい存在なの?
私の中のイメージだと、もっとこう……玉座でどっしり構えてる感じなんだけど。
だが即座にジルベールが口を開いた。
「却下です」
さすがに反応が早い。
「ジルベール、なぜだ?」
「なぜではありません。陛下が自ら前線へ出れば城が混乱します」
「しかし黒龍だぞ?」
「だからこそです。もしものことがあればどうなさるおつもりですか」
「むぅ……」
さっきまでの威圧感はどこへやら。
怒られてしょんぼりしてるお父さんみたいになってる。
「それに、勇者である陛下が出撃すれば周辺諸国にも余計な警戒を与えます。帝国皇帝が動くというのは、それだけ重いことなのですよ」
「むぅぅ……」
完全に論破されていた。
宰相さま強いな。
するとそこで、隣に座っていたアリスが静かに口を開いた。
「ならば、私が向かいます」
一瞬、部屋が静まる。
「なんだと?」
「陛下。私はこの帝国の皇女です。民を守る責務がありますわ」
さっきまで“アリスちゃん”呼びで羞恥死しかけてた人と同一人物とは思えないくらい凛々しい。背筋を伸ばし、真っ直ぐ陛下を見るその姿は、ちゃんと皇女さまって感じだった。
いや、でも。よく見たら目をキラキラさせていた。
あっ、これは黒龍が見たいとか、戦ってみたいとか、そういうやつだな。
うん、でも私も生ドラゴン見たい! 黒龍とか絶対かっこいいじゃん!
異世界と言えばやっぱりドラゴンだよね!
おっと、でもその黒龍ってやっぱ強いのかな?
「あの、すいません。その黒龍というのは?」
「魔の森の奥にある山に住むと言われている黒龍ですわ」
アリスが笑顔でそう言った。
「しかし姫さま、黒龍は強大な魔獣ですぞ?」
フィオナが言うには、黒龍はレベル400を超えるこの世界でもトップクラスに強い魔獣らしい。
そして強いだけではなく、高い知能を持ち、人語まで操るらしい。
「黒龍は非常に縄張り意識が強く、普段は滅多なことでは山から降りてこんのじゃがのぅ」
フィオナはそこで一度言葉を切る。
「つまり今回は、なにか理由があって出てきた可能性が高いということですじゃ」
「大丈夫ですわ、今回はクレアもおりますので」
あっ、私も行く流れなんだ。
まぁ護衛だからそりゃそうか。
ってか、正直私もドラゴン見たい!
なのでついていくのは何の問題もない。
レベル400くらいなら、たぶんそこまで脅威でもないだろうし。
そんなことを考えていたらオルクスが私に目を向けた。
「クレアよ。そなたは黒龍と戦えるか?」
オルクスだけじゃなくアリスまで私を見ている。
視線が強い。
めっちゃ期待されてる気がする。
「えっと、まぁたぶん……」
とりあえずそう答えた。
そりゃ私のステータスなら、勝つのはそんなに難しくないと思うけど。
あまり派手にやっちゃうとまずいよね?
目立たないように戦うってのが難しいかも。
そもそも私は討伐より、生ドラゴン観察の方が目的だからね。
「ハッハッハ! 頼もしい娘ではないか!」
オルクスが豪快に笑う。
「ではアリスちゃんとクレアに任せよう!」
その発言を聞いて、アリスは少しイラッとした顔をしたが、すぐに持ち直した。
「わかりました。では明日、第一騎士団とともに黒龍討伐に向かいますわ」
「うむ、頼んだぞ」
そんな感じで、あっという間に討伐へ向かうことが決まってしまった。
「ところで黒龍は今どんな様子なんでしょうか?」
ジルベールが副団長エルネアに問いかけた。
「はっ! 突然森の中から現れたのですが、なにやら『この森で暴れた強者を出せ』などと良くわからないことを言っておりまして……」
その言葉を聞いた瞬間。アリスとフィオナが、スッ……と私を見た。
……え? もしかしてこれも私案件?
いやいやいや。
嘘でしょ? 確かに森でほんの少しだけ派手にやっちゃった覚えはあるけど。
でも黒龍なんてまったく心当たりないんですけど?




