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■第23話 皇帝

 その後、私はアリスとモニカに案内され。

 謁見の間――ではなく、皇帝の執務室らしき部屋へ通された。


 重厚な扉が開く。


 中は意外にも落ち着いた雰囲気だった。壁には大きな本棚。

 机の上には書類が山積みになっている。


 そして、ソファーには二人の人物が座り、こちらを見ていた。


 一人はフィオナ。そしてもう一人は……短い茶色の髪に鋭い眼光の男性。

 たぶんこの人が皇帝陛下なんだろう。


 そして、皇帝陛下の隣には、濃い紫髪の男性が静かに立っていた。


 フィオナがこちらに気づいて軽く手を振ってくれたので、私も小さく手を振り返した。ってか皇帝、顔怖いんですけどー。めっちゃ睨まれてる気がする。見た目はどこかの世紀末覇者のような雰囲気だ。


「陛下。クレアをお連れしました」


「うむ、ご苦労であった。しかし……これは公的な場ではない。そんな堅苦しい呼び方せずとも気軽にパパと呼んでいいのだぞ、アリスちゃん!」


 え? その外見からは想像もつかない単語が出てきたんですけど。

 今、アリスちゃんって言った? そんな可愛い呼び方するんだ……。


 チラッとそのアリスちゃんの方を見ると、真っ赤な顔をして肩をプルプルと震わせていた。


「へ、陛下。お戯れを……私はもう成人しておりますので、その呼び方は……いかがなものかと……」


「ハッハッハ―、良いではないか。――むっ、そこの娘が例の吸血鬼か?」


「あっ、はい!初めまして、クレアと申します」


 一応ぺこりと頭を下げる。

 礼儀これで合ってる? 大丈夫?


「うむ、話は聞いておるぞ。なかなかの強者であると聞いたが、それはまことか!」


「は、はい……」


「よし! ならば手合わせだ!」


 ――「なんで?」


 思わず、私の全力ツッコミが部屋に響いた。

 しまった、やっちゃった。もしかして打ち首ですか?


 そんなことを考えていたら。

 陛下の脇に立っていた紫髪の男性が深いため息を吐く。


「はぁ、陛下。物事には順序というものがございます」


 細身で知的そうな中年男性だ。紫色の髪を綺麗に撫でつけ、銀縁の眼鏡をかけている。整った所作と落ち着いた口調からも、仕事のできる人物だというのが伝わってきた。


「クレア殿。申し遅れました。私はこの国の宰相を務めております、ジルベール・フィオリアと申します。どうぞ、まずはお座りください」


「あっ、ご丁寧にどうも」


 あっ、この人が宰相さまなんだ。すごく礼儀正しい人だな。

 あれ? なんか誰かに似てるような気が?


 ていうか、皇帝に皇女さまに宰相さままでいるって。

 この国のトップ3がここに揃ってるってこと?


 ……私、ここにいていいの?


 ジルベールに促され私とアリスも対面のソファーに座る。

 モニカはいつものように立ったままでいたのだが。


「むっ! モニカよ。先ほども申したがこれは公的な場ではない。お前も座ってよいのだぞ」


 陛下が突然そんな事を言い出した。

 私は、え? なんでメイドであるモニカを? と不思議に思っていると。


「いえ、陛下。今のわたくしはアリスさまの従者ですので」


「ふむ、お前は相変わらず真面目であるな。まぁよい。ところで……」


 陛下はそこで一度言葉を切ると、鋭い視線をこちらへ向けた。


「クレアよ。得意なのは魔法か? 剣術か? それとも殴り合いかー?」


 陛下が拳を私の前に突き出してきた。


「ええー?」


 なんて答えればいいんだよこれ?

 というかこの人、私の正体とか全然気にしてなくない?


 もっとこう、『吸血鬼とは危険ではないのか』とか、『封印するべきでは』みたいな流れになると思ってたんだけど。そんなことを考えていたら、陛下の隣に座っていたフィオナが苦笑しながら口を開く。


「すまんのぅ、陛下は昔からこうなのですじゃ」


「ハッハッハー! 強そうな奴を見るとつい血が騒いでしまってな!」


 この皇帝陛下、だいぶ脳筋なのでは? 

 ……いや、でも普通に強そうなんだよな。

 気になった私は、こっそり鑑定してみた。


 ――《鑑定》


======

【基本情報】

名前:オルクス・ラフローグ

年齢:39

種族:人間

性別:男性

Lv:526

加護:戦神の加護

称号:勇者


【属性】

火:Lv6/水:Lv6/風:Lv5/光:Lv7/


【魔法】

火:Lv6/水:Lv6/風:Lv5/光:Lv7/


【上位魔法】

火炎 Lv4 暴風 Lv4 神聖 Lv3


【補助魔法】

治癒 Lv5 解毒 Lv4 身体強化 Lv10


【戦闘スキル】

剣術 Lv10 剣聖術 Lv10 属性剣 Lv9

聖光剣 Lv6 格闘術 Lv8


【固有スキル】

威圧 Lv8 不屈 Lv7 戦神化 Lv5

王者の威光 Lv4 勇気の号令 Lv7


【補助スキル】

気配察知 Lv10 魔力探知 Lv10

======


 うわ、めっちゃ強いな。脳筋かと思ったら魔法や治癒も出来る万能タイプだ!

 レベルもフィオナと同じくらい。さすがこの帝国の頂点ってだけのことはある。


 加護も持ってるな。ん? なんか初めて見る項目があるんだけど。

 称号って何? ってか勇者? え? この人勇者なの?


 ……これやばくない、私って絶対に討伐される側の存在だよね?

 この人と手合わせとか、本気で勘弁してほしいんだけど


「陛下。クレア殿はまだこの国へ来たばかりです。あまり目立つような行動は控えるべきでしょう」


「むぅ……そうか?」


 オルクスが露骨にしょんぼりした。

 良かった。何とか手合わせは回避できたっぽい。


 ふと、アリスの方を見るとプルプルと震えながら必死で空気になろうとしていた。もしかして“アリスちゃん”って呼ばれるの恥ずかしいのかな?


 私がそんな可愛いアリスちゃんを見ていたらフィオナが口を開いた。


「陛下とジルベールどのが、一度おぬしの顔を見たいとおっしゃってのぅ。今日はほんの顔合わせですじゃ。陛下、どうですかのぅ?」


「うむ、まぁ良いのではないか? アリスちゃんも認めておるようだしなぁ。しかもこの儂を目の前で鑑定するとは。その豪胆さも気に入ったぞ! ハッハッハー」


「えっ!」


 なんでバレたの? ……やば、これって不敬罪とかになっちゃう?


「すみませんでしたぁー!」


 私は勢いよく頭を下げた。


「ハッハッハ! よいよい! むしろ面白い娘だ!」


 オルクスは豪快に笑い飛ばした。

 そして口元を吊り上げてこう言った。


「自分より強いか確認したかったのであろう? で、どうだ。儂はそなたに勝てそうか?」


 ええ、これどう答えるのが正解なの……。


「えっ、いや。それはぁ~その」


 私が返事に困っているとフィオナが口を開いた。


「ふぉっふぉっふぉ、陛下。クレアどのはワシらよりも遥かにお強いですぞ。相手にもなりますまい」


 ちょっとフィオナさん、何言ってんの? 

 火に油を注ぐのやめて欲しいんだけど。


「ほう、それほどか」


「ええ。それほどの力を持ちながら、黙って姫さまに従ってくれております。信用してよいと思いますじゃ。それになにか良からぬ事を企んでおれば姫さまが気づくはずですじゃ」


 その言葉を聞いて少し後ろめたい気分になった……すいません、エロいこと企んでました。


「うむ、そうであるな。クレアよ。アリスちゃんを宜しく頼む」


「あっ、は、はい!」


 ふぅ、これで話は終わりかな。そう思っていたら。

 突然部屋の扉がコンコンとノックされた。


「ん? 誰だ?」


 オルクスが鋭い視線を扉へ向ける。


「陛下、第一騎士団副団長。エルネアです」


「うむ、入ってよいぞ」


「失礼いたします。至急お伝えしたいことがございまして」


 そう言いながら甲冑に身を包んだ赤髪の女性が入ってきた。


「至急と言っておったが、どうしたのだ?」


「我々は魔獣討伐のため魔の森へ赴いていたのですが、その……黒龍が現れました」


「なんだと!」


 ついさっきまで豪快に笑っていたオルクスが、真顔になる。

 空気が張り詰める。


 ……しかし私はこう思った。

 えっ、こくりゅう? なにそれかっこいい!

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