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■第22話 安全第一

 はい、おはようございます。クレアです。

 結局、昨夜はほとんど眠れませんでした。

 何をしてたのかって? いや、ナニをしてただけですがなにか?


 ……いや、だってしょうがないじゃない。中身男なんだから。

 すっぽんの血を飲んだら、なぜか我慢できなくなっちゃったんだよ。

 ほんとはそんなことする気は一切なかったんだよ? ほんとだよ?


 しかし……女の子の体って凄いんだね。

 なんと言うか……ほんとに凄かったです。

 いや、これはすっぽんの血の影響だからね?

 決して私が特別エロいってわけではないよ。


 そんな風に自分に言い訳しながら、私はベッドの上でごろごろ転がっていた。


 ちなみに現在時刻は朝。

 窓からは気持ちよさそうな朝日が差し込んでいる。

 ……なのに私の気分は全然爽やかじゃない。


「うぅ、なんか変に疲れた……」


 完全に寝不足である。


 しかも問題はそれだけじゃない。

 重要なのはなぜこうなったのか、だ。


 フォレストボアの時は何も起こらなかったのに。

 すっぽんの血を飲んだら、なぜか欲情してしまった。

 もしかしたら飲む血の種類によって効果が違うのか?

 他の生物の血を飲んだら別の効果があるとか?


 うーん、いろいろ試してみるか? いや、それもリスクがあるよね?

 また昨夜みたいになったら大変だ。


 もし我慢できずアリス達を押し倒したりでもしたら……城から追い出されるな……もしくは封印される。


 やっぱり他の血を飲むのは当面やめておこう。


 でも吸血衝動の問題もあるよなぁ。

 モニカの血を見たら抑えられなくなりそうだったし。


「あっ、そうだ!」


 フォレストボアの血は飲んでも何も起こらなかった。

 ってことはフォレストボアは安全ってことだ!

 ……おいしくないけど……まぁそこはしょうがない。安全第一だ。


 モニカに頼めば用意してくれるかな? よし、ちょっと頼んでみるか。


 程なくして――コンコン、と扉がノックされた。


「クレアさま。お目覚めでしょうか?」


「あっ! はい、起きてます」


 なんか昨夜のことを思い出して急に気まずくなってきた。

 バレてないよね? 声とか出してないし。


「失礼いたします、朝食をお持ちしました」


 モニカが部屋に入ってくる。

 するとモニカがじっと私の顔を見ていた。


「えっ、どっどうかした?」


 ちょっとドキドキしながら恐る恐る聞いてみる。


「少し顔色が悪いようですが。昨晩、よく眠れませんでしたか?」


 鋭い! この人ほんと勘がいいな。


「い、いやー? そんなことないよー。ぐっすりだったよー?」


 完全に怪しい言い方になってしまった。

 モニカは少しだけ首を傾げる。


「そうですか? でしたらよいのですが」


 よし、セーフ。なんとか誤魔化せた。

 内心ひやひやしながら席に着くと、モニカがテーブルに朝食を並べてくれた。


 メニューは焼きたての白パン、ふわふわオムレツ、サラダ。

 そしてグラスには、なにやら赤いどろっとした液体が注がれていた。


「えっ? これは……まさか、血?」


「いえ、トマトジュースでございます」


 ――「紛らわしいわ!」


 思わず全力で突っ込んでしまった。


 しかしよく見ると、たしかに昨日のすっぽんの血よりは色が薄い。

 私は恐る恐るグラスを手に取り、一口飲んでみる。


「うん……普通にトマトジュースだね」


「はい。吸血鬼の方は赤い飲み物を見ると落ち着くと聞いたことがありましたので」


 ……犬に骨ガムあげるみたいな感じで言わないでほしい。


「違うのでしょうか?」


「違う……と思いたい」


 そんなことを言ってたら血の件を聞くのを忘れてた。


「あのさ、フォレストボアの血って手に入ったりするかな?」


「フォレストボアですか? 比較的多い魔獣ですので、可能だとは思いますよ」


「おおっ、そうなんだ! じゃあ悪いんだけど少し用意してもらえないかな? 出来れば瓶とかに入れて、携帯できるようにしてもらえるとありがたいんだけど」


 ちょっと図々し過ぎるかな? と思ったけど。モニカは笑顔で頷いてくれた。


「かしこまりました。では魔獣の解体職人に残しておくよう伝えておきます」


「ありがとう」


 お礼を言いながらオムレツを口へ運ぶ。


「んっ、おいしい」


 ふわふわで、口の中にほんのりバターの香りが広がる。


「やっぱりモニカ料理上手だなぁ」


「ありがとうございます」


 モニカは嬉しそうに微笑んだ後、ふと思い出したように口を開いた。


「それとクレアさま。本日は陛下との面会がございます」


「……へ?」


 私はパンを持ったまま固まった。


「陛下って……皇帝陛下?」


「はい」


「えっ? なんで?」


 いや待って。皇帝ってこの国で一番偉い人だよね?

 そんな人と何話せばいいの?

 礼儀作法とか全然知らないんだけど?

 粗相したら打ち首とかないよね?


「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。アリスさまもご一緒ですし。陛下もクレアさまにご興味を持たれているだけですので」


「それが怖いんだけど?」


「ただの顔見せのようなものですよ」


 いやいや、絶対ただの顔見せじゃないでしょ。

 私、吸血鬼だよ? しかも伝説級っぽい存在なんだよ? 

 どう考えても重たい案件でしょこれ。


 そんな私の不安をよそに、食事が終わると。

 モニカは淡々と朝食の片付けを始めていた。

 カチャカチャ、と食器の触れ合う音だけが静かに部屋へ響く。

 いや、なんでそんな平然としてるの?


 皇帝陛下に会うんだよ? 前世で言えば、いきなり『総理大臣が会いたがってます』って言われるようなものだよね。


 いや、皇帝だからそれ以上かな?


「あの、皇帝陛下ってどんな方なの?」


「まぁ、陛下はそこまで堅苦しい方ではありませんので安心してください」


「ちなみに粗相とかしたらどうなるの?」


「そうですね、粗相の内容によりますね」


「……怖っ!」


「ふふっ、冗談ですよ」


 モニカはくすっと小さく笑う。


「それでは時間になりましたらお迎えに上がりますので。それまでに着替えなど準備をしておいて下さい」


 心の準備は出来そうにないんですけど……。

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