■第17話 使徒さまの逸話
衝撃の事実だった。
まさか飛翔魔法がそんなにレアな魔法だったなんて。
種族固有スキルの欄にあったから吸血鬼なら誰でも使えると思ってたんだけど?
「えーと、飛翔魔法ってそんな大層な魔法だったの?吸血鬼ならみんな使えるとかじゃなくて?」
アリスがあきれたようにため息をつく。
「はぁー、そんなわけないだろ。飛翔魔法ってのは伝承の中で使徒ラフォーレさまが使ったって言われてるだけで、ほんとにあるのかも疑われてる魔法だぞ」
「魔法創作レベル9を持つフィオナさまでも再現出来ない、超ド級のレア魔法でございます」
「……ねぇ、もしかしてモニカって実は転生者だったりしない?なんだよ超ド級って!そんな言葉どこで覚えたの?」
モニカは少し考えた後にキリッとした顔でこう答えた。
「天啓です!」
「そんなしょうもない天啓あるの!?」
「あぁ、モニカはたまにこういう変なことを口走るんだ。気にしなくていいぞ」
「いや、気になるよ!」
まっ、まぁいいや。今は飛翔魔法の件が先だ。
「えっとじゃあ、この魔法は人前じゃ使わない方いいってことかな?」
残念、空飛ぶのって慣れるとけっこう楽しかったのになぁ……便利だし。
「人前じゃなくて使わない方がいいだろうな。なぁ、ちょっと一回偽装なしでステータス見せてもらえないか?」
ステータスか、まぁアリスにならもう見せても大丈夫だろ。
「えっ、ああ、別にいいよ。《偽装解除》!はい、これでみれるはずだよ」
「《鑑定》」
アリスがスキルを発動し、浮かび上がったステータスを覗き込む。
「うわっ、すごいな。レベル1000?……女神さまの加護まで持ってる……あの、ほんとに私タメ口で話してていいの?……世界、滅ぼさない?」
滅ぼす規模が国から世界に広がちゃったよ……私ってそんなに滅ぼしそうな顔してる?
「いや、いいよ!ってかアリスだって剣神の加護とか持ってるじゃない」
「そりゃまぁ、私はこれでも勇者の末裔だし」
「え?アリスって勇者の子孫だったの?」
ちょっとびっくり、アリスってすごい人だったんだね。まぁお姫さまだからその時点で十分すごい人なんだけどね。
「まぁな……しかしこれはちょっとまずいな、ラフォーレ聖公国に見つかったらまた封印されるかもな。」
ええっ、それは困る!せっかくの異世界生活を楽しめなくなっちゃう。
「あの……偽装してバレないようにしてれば大丈夫かな?」
「まぁ、鑑定レベル10持ってるのなんてクレアと婆さんくらいしかいないだろうし。大人しくしてれば大丈夫だと思うけど」
大人しくか……そりゃ私だって平穏に暮らしたい。
私の目標は何かと戦う事じゃない。
可愛い女の子と仲良くなることだ!
「わかった、他にも隠しといたほうがいいのってあるかな?」
「そうだなぁ、全属性持ってるってのはまずいな。そんなの使徒さまだけだ」
「使徒さまって全属性持ってたの?」
「あぁ、そうだな。他には聞いたことない。私も5属性持ってるけどこれでも極まれなんだぞ。属性は4つも持ってれば宮廷魔導士にだってなれるレベルだ」
マジでか!じゃあこれも隠した方がいいな。
「えーと、これとこれとアレも隠して。属性と魔法のレベルもこのくらいで……」
という感じで、アリスの指示でとりあえずステータスの隠蔽は出来た。
「ふぅー、とりあえずこれで大丈夫かな。しかし使徒さまってすごかったんだねー。相当強かったの?」
ふとした私の問いに、アリスは少し考えるように視線を落とした。
「……いや、強いっていうのとはちょっと違うな」
「え?違うの?」
さぞかしド派手に暴れたんだろうと思ってたが、どうやら違うらしい。
「もちろん魔法もすごかったらしいぞ、山を一瞬で消し飛ばしたって逸話なんかも残ってる。けど、どっちかというとすごいのは知識の方だったって言われてるな」
おぉ!まさかの知識チート系でしたか。ってか山を消し飛ばすって……やっぱり使徒さまも結構やらかしちゃってるんだなぁ。
「ラフォーレ聖公国の始まりなんだけど――あの国、最初はただの小さな集落だったらしいんだ」
「へぇー」
「そこにラフォーレさまが現れて、まず最初に何をしたと思う?」
「うーん……魔物を倒して平和にしたとか?」
「違う。畑を作らせたんだ」
「……はい?」
思わず間の抜けた声が出た。
「しかもただの畑じゃないぞ。土魔法で農地を開拓して、水路を引いた。さらに季節ごとに育てる作物を変えて、1年中作物を収穫出来るようにしたんだ。特殊な肥料なんかも作ったらしい」
「なにそれ、めっちゃ農業ガチ勢すぎない?」
「当時は同じ作物を同じ場所で作り続けたら土が死ぬとかそんな概念なかったらしいからな。おかげで収穫量が何倍にもなったらしい」
なるほど。まぁ、確かに食料は大事だね。
私も森で食るべ物なかったから良くわかる。
でもそれ神さま使い扱いされるほどじゃないよね?
「あと有名なのは病気の予防法だな」
「えっ!医療系も!?」
「まぁ医療って程ではないんだけどな。ラフォーレさまはこの世界に“衛生”っていう概念を広めたんだ。手を洗え、とか、うがいしろ、とか。あと怪我したら傷口は清潔に保て、とか」
いやそれは常識……あ、この世界だと違うのか。
「そのおかげで病気が減って死亡率が一気に下がったらしい」
そっか、今この世界中世レベルだからここからはるか大昔だもんね。
「極めつけは文字だな」
「えっ?まだあるの?」
「当時は読み書き出来るのは貴族や商人くらいだったんだけど、ラフォーレさまはそれを平民にも教えた」
「教育までやってたの?」
「ああ、最初は数人に文字の読み書きと簡単な計算だけ教えてたんだけど。それがどんどん大きくなって平民向けの学校まで作ったんだ」
「学校まで作ったんだ!そりゃまさに偉人だね」
「そしてその集落にはどんどん人が集まり、街になり。そして女神さまを崇める教団とともに国を作った」
「だからラフォーレ聖公国は神に選ばれし国ってことになってるのか」
「まぁそうだな。他にも、ラフォーレさまは便利な道具や変わった料理なんかもたくさん作ったらしいし」
「料理?」
「あぁ、中でもラフォーレさまが考案したマヨネーズは今でも大陸中で大人気だぞ」
「えっ、マヨネーズ作ったの!?」
いやまぁ、確かに異世界物では定番だけどさ。
……そういえばさっき食べたサンドイッチにもマヨらしきものが入ってたな。
まぁ、おいしかったからいいけど。
しかし、相当頭いい人だったんだなその人。転生前はなにしてたんだろう?学者さんとかかな?
「でも一番有名な話はやっぱり魔王軍との戦いだな」
「魔王とかいたんだ!」
おおっ!そうそう異世界って言ったらやっぱそう言う展開だよね?そう言うのを待ってました。
「それってやっぱり魔王を倒して世界を救ったとか?」
ちょっとワクワクしながら聞いてみた。
「いや、倒したんじゃなくて。当時大陸のいろんな国に魔族の軍勢が侵攻してたんだけど、ラフォーレさまが魔王や各国と交渉して平和協定を結んだんだ」
「それ倒すよりすごいなぁ!ほんとに何者だったのその人!」
内政だけじゃなく外交まで出来るのか。イメージしてたのとは少し違うけどなかなかのチートだな!
「そりゃ神さま扱いされるわけだね」
「ちなみにその時、魔王の娘を妻に娶ったらしい」
「えっ、魔王の娘を嫁にしちゃったんだ、すごいな。――でも聖公国って宗教国家でしょ?なのに奥さんが魔族とか良かったの?」
魔の者、しかも人類の敵だった種族なのに受け入れて貰えるもんなのか?
「まぁ、平和の象徴って事で受け入れられたみたいだな。それにラフォーレさまには、他にも5人の妻がいたらしいからな」
「ええっ!ハーレム要素まであるの?ちょっと設定盛りすぎじゃない?」
「設定ってなんだ?」
「はっ!クレアさまにも天啓が!?」
「違うよ!」
モニカが突然話に割り込んできたが。違うからね。
しかし6人も奥さんいたなんて……きっとみんな美少女だったんだろうなぁ。
なんて羨ましい!
ってか言うか、いろんなことやりすぎじゃない?
少しは後から転生者してくる人の事も考えて欲しいよね。
おかげで私まで神さま扱いされるとこだったし。
私みたいにちゃんと自重して欲しいもんだよ、まったく。




