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■第142話 思わぬ援軍

 この二人は昔の私を知ってるのか?

 いや、でもそれにしては若すぎると思うんだけど。

 オスカーは四十歳くらいに見えるし、オズワルドなんて二十代前半くらいだ。

 それなのに、二人はまるで昔の私を知っているかのような反応を見せていた。


 うーん。


 だけど今は、その謎を考えている場合じゃない。重要なのは、どうやら私の存在がやつらにとって完全に想定外だったということだ。だったら、この動揺を利用しない手はない。


「ふふっ、私がいると困るのかな?」


 ちょっと余裕のある顔を作ってみる。

 こういう時は、強者っぽく振る舞うのが正解だろう。

 ……たぶん。


「くそっ。カルミアめ、この私を欺いたのか」


 オスカーが悔しそうに地面を蹴る。

 おお、効いてる。

 どうやらハッタリでも十分通用するらしい。


「くっ、こうなっては仕方ありません。異界の魔獣よ、顕現せよ!」


 オズワルドが杖を掲げると、魔法陣から巨大な魔獣が次々と現れる。

 無数の腕を持つ魔獣に、無数の目が蠢く黒い塊。

 以前倒したフレア・ケルベロスもいる。


「あれっ、もしかして」

 

 地面を揺らしながら現れた巨大な影を見て、私は息を呑んだ。

 八つの首を持つ巨大な蛇。

 六百年前に使徒さまが倒した魔獣――ヒュドラだ。


「グォォォォォォォォッ!」


 魔獣たちが咆哮を上げる。

 大地が震え、荒野にその声が響き渡った。

 しかしオズワルドの表情は変わらない。

 まるで、それらですら前座だと言わんばかりに。


「行け! あの戦場にいるものを皆殺しにしろ!」


 オズワルドは魔獣たちに命令すると次にルードに視線を向ける。


「ルードよ、玄黄を出すのです」


「はっ!」


 ルードは懐から瓶を取り出し、放り投げる。


 ――パリーン!

 黒い霧が吹き出し、徐々に大きな塊になっていく。


「吸血鬼クレアといえど、玄黄には勝てない。なぜなら、このスライムには物理も魔法も効かないのですから」


 オズワルドが高らかに言い放った。

 そして魔獣たちは戦場へ向かっていった。


「待って! あいつらを戦場に行かせたらまずい!」


 中でもヤバいのはあのヒュドラだ。

 巨大な上に高い再生能力を持ってる。

 そんな化け物が戦場に出たら――。

 そう思った瞬間。


 空から眩い閃光が降り注ぎ、轟音とともにヒュドラの巨体が吹き飛ばされる。


 ――ドォォォン!

 大地が揺れ、巨大な魔獣が悲鳴を上げた。


「グギャアアアッ!」


「えっ?」


 一瞬何が起きたのかわからなかった。


「あれは、クロのブレスですわね」


 アリスが呟く。


 視線を向けると、上空には翼を広げたクロがいた。

 そして地上には、白羊姿のセレナに乗ったルーナの姿があった。


 だが、ヒュドラはすぐに起き上がった。

 焼け焦げたはずの傷が、みるみる塞がっていく。


「でも、ルーナさんたちだけじゃこの魔獣たちを倒すのは難しいんじゃ」


 ヒュドラだけでも厄介なのに、相手は一体ではない。


「ですわね。でも、まずは魔法陣を壊しますわよ」


 アリスがそう言って駆けだす。


「そうだね、私も!」


 魔法陣を壊せば魔獣は弱体化する。

 それを思い出し、二人で浮かんでいる魔石を破壊していく。


 ――パリン!

 最後の魔石が砕ける。


「よし、これで魔獣は弱体化したはず」


 しかし、オズワルドは笑みを浮かべた。


「ふはははっ……残念ですが、その魔法陣を壊してももう遅いのですよ」


「えっ、それってどういうこと?」


「あの魔獣たちには、すでに信者たちの生命エネルギーを注いでいるのです。魔法陣を壊した程度で、弱体化などしません!」


 オズワルドが両手を広げ、高らかに笑った。


「はっはっはー! ……ん?」


 その時。

 どこからか、凛とした詠唱が響いた。


「無敵の太陽よ――我が敵を灰燼へと帰せ」


 空が一瞬、赤く染まる。


「《ソル・インヴィクタス》」


 巨大な熱球が空から降り注いだ。


 ――ドォォォォン!

 轟音と共に炎の塊がヒュドラを真正面から飲み込む。


「グギャアアアアアッ!」


 八つの首が絶叫を上げる。


 次の瞬間。

 ヒュドラの巨体は、跡形もなく消し飛んだ。

 それは、あまりにも圧倒的な一撃だった。

 その場にいた誰もが言葉を失い、時間が止まったかのような静寂が訪れる。


「えっ……今のは最上位の火炎魔法だよね?」


「あそこに誰かいますわ!」


 アリスが指さす方を見上げると、長い銀色の髪をなびかせた女性が、ふわふわと空を飛んでいた。頭には二本の角。そして、その顔には見覚えがある。


「ええっ、あれってもしかして?」


「アルテシア陛下ですの?」


 私とアリスが揃って声を上げた。

 まさかの魔王降臨であった。


 そういえば魔王軍も来てるんだったな。

 でも、まさか本人まで来るとは思わなかったよ。


「わっはっはー、わらわ参上なのじゃー!」


「あの、アルテシア陛下。なぜこちらに?」


 ルーナが驚いた顔で尋ねる。


「おお、ルーナではないか。いやなに、見覚えのある魔獣がおったんでな。思わず飛んできてしまったのじゃ」


 いや、文字通り飛んでるんですけど?

 もしかしてアルテシアも飛翔魔法使えたの?

 まぁ、使徒さまの奥さんだし使えても不思議ではないんだけどさ。


「おっ、そこにおるのはクレアとアリスではないか!」


 アルテシアがこちらに気づいてブンブン手を振っている。

 緊張感どこ行った?


「なんじゃ、そのでっかいのが玄黄かえ?」


「あっ、はい。いろいろ聞きたいことはありますけど、とりあえずルーナさんたちと一緒にそっちの魔獣お願いできますか?」


「おう、任せておけ。ルーナとの初めての共同作業なのじゃー!」


 そう叫びながら、アルテシアは一人で魔獣たちに突撃していった。

 ……共同作業はどこに行ったんだろう?


 でも、そんなことより。


「アルテシア陛下がいるなら向こうは大丈夫だね」


「そうですわね、私たちは玄黄をどうにかしましょう」


 私はオズワルドに視線を向ける。


「ば、馬鹿な……なぜ魔王までやってくるのですか?」


「オズワルドさま。まだ我らには玄黄が残っております」


 オスカーが声を上げる。


「そうだ! 玄黄だ。玄黄さえいれば他の魔獣などどうでもいい」


 オズワルドは不敵な笑みを浮かべる。


「ルード!」


「はっ、玄黄よ。そこの二人を飲み込め!」


 ルードが命じると玄黄が動き出す。

 琥珀色の触手が私とアリスに襲い掛かる!

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