■第138話 反撃開始
その後、ルーナを背に乗せたクロが戻ってきた。
「あの、玄黄が見つかったと聞いたのですけど……これはどういう状況なんですか?」
ルーナが周囲を見回す。
視線の先には、赤茶けた巨大なクレーターがあった。
「ここに玄黄がいたんだよ、平原に擬態してな」
アリスが先程までの出来事を詳しく説明する。
「平原に……?」
ルーナが固まる。
うん、その反応になるよね。
私だって今でも信じられない。
「ちなみに私たちは、昨日ここでお弁当食べてたんだぞ」
「ええっ!」
「ははっ、下手したらそのまま食べられてたかもしれないな」
「それ、笑い事じゃないでしょう」
ルーナが青ざめた。
いや、本当にその通りなんだけど。
アリスは暗い雰囲気をどうにかしようと思って明るく振舞ってるんだろう。
「でもそうですか、玄黄が邪教徒の手に……」
しかし、ルーナは目を閉じ、肩を落とす。
「ごめんね……私がもっと早く動いていれば」
「いや、そうじゃない。あそこで様子を見たのは間違いじゃない」
アリスが真剣な表情で告げる。
「今回は向こうの方が一枚上手だっただけだ」
悔しいけど、その通りだ。
あそこまで用意周到だとは思わなかった。
「それより、奴らが玄黄をどこへ運んだのか。それを探さないといけないだろ」
「あっ、確かに。どこかに拠点があるはずだよね?」
問題は、それをどうやって探すかだけど。
「邪教徒の拠点なら、すでに各国に探していただいているのでは?」
ルーナが呟く。
「うん、でもまだ連絡がないんだよね」
「とりあえず、一旦シルフィードへ戻ろう。玄黄が邪教徒の手に渡ったことも各国に連絡しないといけないし」
そう言いながらアリスがクロの背に飛び乗る。
「そうだね、ついでに捜索の状況も聞いてみたいし」
そうして私たちはシルフィードに戻ってきた。
お城に到着すると、すぐにラピスの元へ向かった。
「ラピス陛下、取り急ぎご報告がありますわ」
私たちは部屋に入ると、すぐに玄黄が邪教徒の手に渡ったことを説明した。
「そうでしたか、しかし平原に擬態していたとは……」
「ですよね」
私は思わず頷く。
「しかもその上でご飯食べてました」
「……皆さん、よく無事でしたね」
「はい、本当に」
今思い出しても少し怖い。この先、平原を見るたびに『もしかしてこれも巨大スライムでは?』と疑ってしまいそうだ。完全にトラウマである。
そのくらいあの玄黄は巨大で圧倒的な存在であった。
――ピピッピピッ。
そんなことを考えてたらマギフォンの着信音が鳴り響いた。
マジックバッグから取り出すと、画面には帝国の番号が表示されていた。
「あっ、帝国からだ。すみません、出てもいいですか?」
「ええ、もちろん」
ラピスの許可が出たので通話ボタンを押す。
――ピッ。
「はい、クレアです」
『クレア殿ですか? ジルベールです』
「あっ、ジルベール宰相ですか。今ラピス陛下とお話し中なのですが」
『そうでしたか、ちょうど良かったです。シルフィードにも関係する話がありますので』
ジルベールの声はいつも通り落ち着いていた。
だけど、少しだけ緊張感が混じっている。
『しかし、その前にアリスレート殿下にご報告が』
アリスがマギフォンを覗き込む。
「何か捜索に進展があったんですの?」
『いえ、そうではなく。以前お話した魔の森の魔獣大量発生の件なのですが』
あっ、そういえばそんな話がしてたな。
でも、オルクス陛下がいれば大丈夫なのでは?
『その大量の魔獣達が中央平原にあふれ出し、帝国を目指しています。その数、数万』
「ええっ、数万? それってかなりヤバいのでは?」
しかし、ジルベールは落ち着いた様子で話を続ける。
『いえ、ルグレシアの飛竜騎士団や魔王国からも援軍が出ていますのでおそらく撃退は可能です』
おお、各国からの援軍も来てるんだ。
それなら何とかなるか?
『しかし、妙だと思いまして』
「というと?」
『数は多いですが、報告ではほとんどが低レベルな弱い魔獣ばかりだそうで』
ジルベールは一度言葉を切る。
『もしこれが邪教徒が仕組んだことなら、討伐される前提でやっているように思えます』
「討伐される前提?」
『はい、率直に言えば時間稼ぎをしているように思えるのです』
「時間稼ぎ……玄黄か」
私は玄黄が邪教徒に奪われたことを説明した。
『なるほど、完全に制御するには時間がかかると。そのために魔獣を使って……いや、それだけではない?』
ジルベールは何かに気づいたのか、ブツブツと呟いていた。
『これは私の想像ですが、玄黄を制御できるようになるまでの時間稼ぎと、餌を用意したのではないかと』
「……餌? それってまさか?」
『はい。大量の魔獣と、それを討伐する騎士たちです』
一瞬、室内が静寂に包まれた。
『以前、邪教徒は人族と魔族を争わせようとしました。もし魔神復活に大きな争いや、大量の生命が必要なのだとしたら』
「……あっ」
『だからこのような大規模な魔獣騒ぎを起こしたと考えれば説明がつきます』
「大きな争いと生命……それが魔神復活につながると?」
『おそらく。ですが、これで相手の拠点も見えてきました』
「それは本当ですの?」
アリスが声を上げた。
『はい、それほど遠い場所とは思えません。おそらく中央平原のどこかでしょう』
中央平原、帝国とルグレシア王国の中間に広がる広大な平原だ。
西には魔の森と黒龍山脈、東にはイルス山脈とかなり広い。
「中央平原……それでも範囲が広すぎますわね」
『実は以前から我々が監視対象としていた場所があります』
「えっ、それはどこですの?」
『黒龍山脈の南側、旧ファルシア王国です』
「その国は滅んだのでは?」
『旧王都は廃墟のまま残っています。外周の城壁が崩れているため中には入れないのですが、もしかしたらどこかに入り口があるのかもしれません』
私は地図を広げた。
確かに、魔獣と騎士たちが戦ってる場所にも近い。
「崩落した瓦礫で地上からは近づけなくても、クロちゃんなら上から入れる」
私はアリスに視線を向ける。
「ええ、時間もありませんわ。すぐに出発しましょう」
「私も行きます! 聖女として、魔神復活は見過ごせません」
アリスとルーナが立ち上がる。
「そうだね、私たちで邪教徒の計画を阻止しよう」
私も二人に続く。
そしてアリス、ルーナと並んで歩き出す。
今回は後れを取ってしまったけど、次は絶対に負けない。
私には、勇者と聖女っていう心強い仲間がいるんだ。
邪教徒の企みも、魔神復活も。
私たちが必ず止めてみせる。
私は小さく拳を握った。
ここから……反撃開始だ!




