■第136話 意外な潜伏先
玄黄はまだ見つかっていない。
だけど、思いがけず邪教徒たちを見つけてしまった。
このまま飛び出して全員捕まえてやりたいところだが、ここはぐっと我慢だ!
「あれが邪教徒か。こんなとこで何してるんだ?」
アリスが草むらから顔を覗かせながら呟く。
「私たちと同じ目的かもしれないよ」
「なるほど、やつらも玄黄探しか。ならこのまま少し様子を見よう」
あっ、意外と冷静だ。
てっきり『突撃ですわー!』とか言い出すかと思ってた。
やっぱりアリスはこういう時はしっかりしてるんだな。
「うん、私もそれがいいと思う」
私たちは向こうに気づかれないよう、魔力も限界まで抑える。
そして一定の距離を保ちながら追跡する。
よく見ると先頭にいる男が何か手に持っている。
羅針盤……コンパスのような物だろうか?
それをチラチラ見ながら進んでいるようだ。
「あれ、なんだろう?」
「よく見えないけど、たぶん魔道具だろうな。もしかしてあれを使って玄黄を探してるのか?」
「えっ、そんな魔道具あるの?」
「わからんが、向こうには魔道具に詳しいやつもいるんだろ?」
「……そうだった。確かにそんなの持っててもおかしくないか」
私たちがそんな会話をしていたら、邪教徒たちが立ち止まっていた。
慌てて草陰に身を伏せる。
すると、話し声が聞こえてきた。
「どうした?」
「ルードさま、急に針の動きが不規則に回ってまいまして」
「何だと?」
「これは、まるで複数の反応を同時に捉えているような……」
「他の四大魔獣はすべてエルフの国にいるはずだ……いや、黒龍、白羊、銀狼のいずれかが近くに居るのか?」
黒ローブの男が周囲を見回す。
えっ、もしかしてアレ……四大魔獣に反応する魔道具なのか?
じゃあ、ここにいるクロにも反応してしまう。
まずいな。
この距離なら、気づかれるのも時間の問題だ。
「クロちゃん、魔力を限界まで抑えて」
「ふむ、限界までか。わかった」
クロが私の肩に乗り、目を閉じる。
すると――。
「あっ、反応が一点に収束しました!」
「そうか、近いのかもしれん。捜索を続けるぞ!」
「はっ!」
そのまま邪教徒たちは歩き出した。
ふぅ、何とかバレずに済んだか。
いや、別に今捕まえてもいいんだけど。
出来ればもう少し泳がせて情報を掴みたい。
私は邪教徒たちの後ろ姿に視線を向ける。
というかさっきルードって呼ばれたあの男、たぶん魔の森で会った奴だ。
「しかし、もしこのまま奴らが玄黄を発見したらどうする?」
アリスが小声で問いかけてきた。
「奴らを全員捕らえて、玄黄は私たちで確保するよ」
「確保?」
「もし話が通じるならそれが一番いいんだろうけど、駄目なら倒すしかないと思う」
玄黄は知性を持たない危険な魔獣らしい。
クロたちと違って会話も出来ないなら倒してしまうしかないだろう。
「そうだな、まぁ過去に街を滅ぼしてる奴だし。話すのは無理だと思うけどな」
そしてアリスは真剣な表情で話を続ける。
「でも奴ら、玄黄を見つけてどうするつもりなんだ? 確実に操れる方法でもあるのか?」
「……あっ!」
言われてみればそうだ。
玄黄は四大魔獣だ。
どれだけ危険な存在なのかなんて、奴らもわかってるはずだ。
無策で捜索なんてしないだろう。
以前ノエルは言っていた。
隷従の首輪を改良すれば、四大魔獣すら操れるかもしれないと。
ルードは高位のビーストテイマーだ。
まさか――本当に玄黄を操るつもりなのか?
そんなことを考えていたらアリスが声を掛けてきた。
「クレア、あいつら山と逆方向に進んでないか?」
「えっ、ほんとだ。あの方向って……」
邪教徒たちは木々を抜けて平原に向かって進んでいく。
そこは、昨日私たちが昼食を取った平原だ。
「昨日お弁当食べた場所じゃん」
「だよな」
「なんであそこに?」
思わず首を傾げた。
昨日、何度も見渡した場所だ。
穏やかな野原が広がっていて、玄黄が隠れられるような場所は見当たらない。
何処からどう見てもピクニック適正Sランクの平和な草原だ。
「おい、本当にこっちなのか?」
ルードが羅針盤を持つ男に声を掛ける。
「はい、確かにここを指し示しています」
ルードが羅針盤を覗き込み、ゆっくりと口元を歪めた。
「なるほど、そういうことか」
そう呟くと、ルードは懐から何かを取り出した。
「ようやくこれを使う時が来たか」
「ルードさま、それは?」
「これは『異界の呼び鈴』」
笑みを浮かべながら不気味な鈴を掲げた。
「オズワルドさまが作られた秘蔵の呪具。これさえあれば眠っている魔獣の魂を強制的に呼び覚ませる」
「おお!」
周囲の信者たちがどよめく。
その様子を私たちは離れた場所から見ていた。
「ねぇ、アリス。これちょっとまずそうな流れじゃない?」
「いやでも本当にあんなところに玄黄がいるのか?」
どうしよう、今すぐ出て行って全員取り押さえた方がいいのか?
しかしアリスの言うように、本当にあそこに玄黄がいるという確証も欲しい。
私たちは思わず迷ってしまった。
でも……その判断は失敗だった。
「さぁ、玄黄よ。食事の時間だ、目覚めよ!」
ルードが不敵な笑みを浮かべ、広大な平原に向けて鈴を鳴らした。
――チリーン。




