■第135話 遭遇
今は廃墟となった街の中心、そこに朽ちた神殿があった。
大広間には数十人の人々が集まっており、誰もが静かに祭壇を見つめている。そして祭壇の奥には首のない女神像が立っており、その前に法衣を纏った一人の青年が佇んでいた。
外見は二十代前半ほどにしか見えない。
薄水色の髪を後ろへ流した青年。
その瞳はまっすぐ女神像を見つめていた。
すると、そこに二人の男が前に出てきた。
「オズワルドさま、お呼びでしょうか?」
「やあ、オスカー。それにルードかい」
オスカー、そしてルードと呼ばれた黒いローブを纏った男が膝を着く。
「エルフの森に仕掛けた魔法陣が破壊されたようですよ」
「なっ! まさかあのフレア・ケルベロスが倒されたのですか?」
「ええ、新しい勇者は意外とやるようですね」
オズワルドは不敵な笑みを浮かべる。
「ですが、何も問題ありません」
オスカーとルードが頭を上げる。
「ようやく……シャトラさま復活の鍵を見つけたのですから」
「そうですとも、ようやく我らの悲願が叶う時が来たのです」
オスカーは立ち上がった。
「その通り。黒龍と白羊を従えたようですが、勇者は未だ未熟。そして聖女は不完全!」
オズワルドが一歩前に出て両手を広げた。
「さらに三百年前に魔神シャトラさまを倒したあの忌まわしき吸血鬼――クレアは、もういません」
一度言葉を切り、こぶしを握る。
その瞳には狂気ではなく、確固たる意志が宿っていた。
「玄黄は魔神シャトラさまの核となる存在です。玄黄を見つけ出し魔神シャトラさまを復活させるのです!」
「「シャトラさまに救済を!」」
祈りにも似た声が、大広間を揺らす。
まるで救いを求める叫びのように。
六百年積み重なった想いが、神殿の中で渦巻いていた。
「オスカー、それにルードよ。玄黄はイルス山脈のどこかにいるはずです」
オズワルドが二人を見据える。
「必ず見つけ出しなさい!」
「「はっ!」」
二人が一礼して後ろに下がる。
そして、オズワルドは再び首のない女神像を見上げた。
「クックックッ……六百年も掛かってしまいましたが――」
口元に笑みが浮かぶ。
「使徒マサヤよ。あなたが作ったものを、私がすべて壊してあげますよ」
――翌朝。
私とアリスは予定通り、朝からクロに乗ってイルス山脈へ向かっていた。
準備は万端だ。
モニカが作ってくれたお弁当も水筒もしっかりマジックバッグに入れてきた。
さらに今日はおやつまで持たせて貰えた。
……いや、遠足かよ!
そんなピクニック気分じゃだめなんだった。
うん、真面目に捜索しなきゃ。
遠くに見える山脈を眺めながら、私は昨日考えていたことを思い出す。もし、本当に使徒さまが、私にやり残したことを託すためにここまで導いたのなら。この山脈を捜索するのは間違いじゃないと思う。
女神さまだって、私の思うように生きろって言ってたし。
だったら思うままに進んでみようじゃないか。
「クレア、そろそろ麓だぞ」
「あっ、うん」
アリスの言葉を聞いて、視線を向ける。
麓付近は木々に覆われていて上空からでは何があるのかよく見えない。
かといってクロの巨体ではあまり低く飛ぶのも難しいだろう。
「うーん、ここからじゃわかりづらいし私は自分で飛びながら捜索するよ」
「あんまり離れるなよ」
「うん、ちゃんと二人から見える範囲にいるから大丈夫」
私はクロの背から飛び降り、飛翔魔法で低空を飛ぶ。
木々の間をすり抜け、ときどき地上にも降りながら慎重に捜索を続けた。
しかし――。
「……何もないね」
それから一時間ほど捜索を続けたが、怪しいものは何も見つからない。
「ねぇ、クロちゃん。何か変な気配とか感じない?」
「いや、弱い魔獣の気配があるくらいだ」
うん、私の気配察知も同じだ。
「じゃあ次は西側に行ってみるか?」
西側には、昨日昼食を取った平原もある。
そこまで探して何もなければ、昼食にしよう。
……もちろん捜索が最優先だよ?
お弁当は、そのついでだからね。
そして、西側の捜索を始めてしばらくした頃。
「うーん、何も見つからないねぇ」
「ただでさえ範囲が広いうえに、擬態って言ってもどんな姿なのかまったくわからないからな」
「だよね。もし、魔力を完全に消せるとかだったらかなり大変だねこれ」
実際クロやセレナもやろうと思えば私でも感知できないくらいまで魔力を抑えられる。まぁ、私の魔力感知能力はそんなに高くないんだけどね。
私がため息をついていたら、アリスがニヤッと笑った。
あっ! だめだ、これは完全に邪悪モードだ。
「いっそ、適当に魔法ぶっぱなしてみるか?」
ほら、やっぱり!
「いやいや、それはダメでしょ! 山脈がなくなっちゃうよ」
「……冗談だよ」
「絶対ちょっと本気だったよね? 冗談であんな邪悪な笑みを浮かべないよね?」
「邪悪ってなんだよ」
私とアリスがそんなやり取りをしていたら、クロが翼を止めた。
「あれ? クロちゃんどうしたの?」
「主、人の気配だ」
「えっ?」
私も慌てて気配察知を広げる。
本当だ、少し離れた場所に複数の気配がある。
「クロ、いったん降りるぞ」
「うむ」
地上に降りた私たちは、気配を消して反応があった場所へと歩く。
クロにも目立たないように小竜の姿になってもらった。
すると、木々の向こうに人影が見えた。
「あそこに何人かいるな、何してるんだ?」
アリスが木の陰から様子を窺う。
私もその後ろからそっと覗き込む。
全員が黒いローブに身を包んでおり、胸には三日月のような紋章。
忘れるはずもない、魔の森で出会ったあの男が身に着けていたものと同じだ。
「間違いない。邪教徒だ!」




