■第134話 使徒さまのやり残したこと
シルフィードへ戻った私たちは、客室で今後の打ち合わせをしていた。
ここで、少し情報を整理しよう。
今回の一件で、邪教徒には召喚術を扱える者がいることがわかった。
さらに優秀なビーストテイマーがいて、高位の呪術師までいる。
おまけに魔道具の改良までできるときたもんだ。
うん……人材の充実っぷりが凄いよね。
まったく、嫌になってきちゃうよ。
そして奴らの目的は玄黄を見つけ、何らかの方法で魔神へ変えることだ。
調べたいことはまだまだある。
だけど私たちに出来ることは限られている。
だから今、最も優先しなきゃいけないのは玄黄だろう。
そう結論を出したところで、私はみんなを見回した。
「とりあえず私は、明日もう一度玄黄捜索に行ってみたいんだけど」
あのフレア・ケルベロスも、たぶん私たちの捜索を妨害するために送り込まれたんだと思う。これで捜索をやめてしまったら相手の思うつぼだ。
「そうだな。召喚装置も気になるが、先に玄黄を見つければ奴らの計画を阻止できるかもしれない」
「うん。山頂付近は一通り見たし、明日は麓を中心に探してみよう」
そうして、打ち合わせがひと段落したところで。
――ピピッ、ピピッ。
マギフォンの着信音が響いた。
「おっと、誰からだろ?」
マジックバッグからマギフォンを取り出すと。
「あっ、これ魔王国からだ!」
やっと到着したのか、そう思うながら通話ボタンを押す。
――ピッ。
『わらわじゃあーーー!』
出た瞬間、大きな声が響き渡り。
思わず耳がキーンとなった。
……今度ノエルに音量調機能付けてもらった方がいいなこれ。
「えっと……アルテシアさまですか?」
『ん? その声はクレアか? ルーナはおらんのかえ?』
「はい、私もここにいますよ」
『おおっ、ルーナよ。おばあちゃんじゃぞー!』
「はい、お久しぶりですアルテシアさま」
その後、しばらくルーナとアルテシアの会話が続いていたのだが。
魔王国にも今までの事を報告しておかなきゃ。
楽しそうに話す二人の邪魔をするのは忍びないけど、私はそっと声を掛けた。
「あの、ルーナさん」
「あっ、そうですね」
私が声を掛けると、すぐに察してくれたルーナがここまでの出来事を説明してくれた。
『なるほど、魔王国を出てからいろいろとあったんじゃのぅ』
「それから……邪教徒についても新しいことが分かりました」
『ほう?』
ルーナは少し言いにくそうに目を伏せる。
「六百年前の魔王軍侵攻で滅んだ国、ファルシア王国。その生き残りの末裔である可能性が高いそうです」
『ふむ、やはりそうじゃったか』
「ご存じだったのでしょうか?」
『いや、確証があったわけではない。ただ心当たりはあったのじゃ』
「心当たり、ですか?」
『和平が成立した後、マサヤが復興に手を貸さなかったのでな。ファルシアの元国王はマサヤを恨んでおったからのうぅ』
「あの、使徒さまはなぜ復興に手を貸さなかったのでしょうか?」
ルーナが尋ねる。
『それはのぅ。当時のファルシアの国王、オズワルド・ファルシアは怪しい呪術にのめり込んだ頭のおかしいやつじゃったからな』
「えっ、それってどういうことでしょうか?」
私は思わず口を挟んでしまった。
『実際、その後オズワルドの奴は何度かマサヤを襲ってきおったしのぅ』
「ええっ、使徒さまを? でも絶対勝てないですよね?」
いやいや、普通の人間が使徒さまに挑むなんて無謀にもほどがある。
たぶん使徒さまは私よりチートっぽいし。
『うむ、そうなんじゃが。あ奴はおかしな魔獣を呼び出してきおってのぅ』
「えっ? 魔獣を呼び出す? それって、召喚魔法ですか?」
『ほう、クレアたちも似たようなものを見つけたのかえ?』
アルテシアの声色が少しだけ変わった。
「はい、さっき魔法陣から召喚された魔獣と戦いました」
私は、フレア・ケルベロスの件を詳しく説明した。
『なるほど、おそらくオズワルドが使っていた召喚術と同じじゃろうな。しかし炎を纏った魔獣とは……よく倒せたのぅ』
「あっ、はい。何とか勝てました。ところで、六百年前は違う魔獣だったんですか?」
『そうじゃな、あの時はなんだか頭が八本あるでっかい蛇じゃったな』
ん? 頭が八本ある大蛇……。
その特徴を聞いた瞬間、私は前世の知識を思い出した。
「えっ、それってもしかして……ヒュドラなのでは?」
『おお、そうじゃそうじゃ。たしかマサヤがそんな風に呼んでおったわ!』
ヒュドラまで呼び出せるのか?
ってか使徒さまそんなヤバそうな魔獣倒したのか、凄いな。
『オズワルドはいつからか姿を消したんじゃがな。その後マサヤはその術を危険視して禁呪としたんじゃよ』
姿を消したっていうのは少し気になるけど。
つまり六百年前に封じられた禁呪が、代々受け継がれて。
そして今になって、再び使われているということか。
「なるほど、じゃあ今の邪教徒にその人の子孫がいるってことですかね?」
『うむ、おそらく首魁かそれに近い存在じゃろうな』
確かに、姿を消したあと教団を作ったとしたら、その子孫が代々教団を率いていても不思議じゃない。
もしそうなら――。
私たちは六百年前から続く執念を相手にしていることになる。
でも、使徒さまにも邪教徒たちは捕まえられなかったのか。
……ん? ちょっと待て。
私はふと、今までの道のりを思い出す。
なんとなく……見えてきた気がする。
これは、使徒さまがやり残したことを私にやってくれってことなんじゃないか?
今まで使徒さまが残してくれたものがたくさんあったけど。
あれは私に託すために、使徒さまが残してくれた道筋だったのかもしれない。
そのために、女神さまも私をここに導いたのか?
いや、まぁ別にそうだとしても不満があるわけじゃないんだけどさ。
異世界生活を楽しませてもらってるんだし、やれというならやってもいいんだけどね。
女神さま。
それならそうと――。
もうちょっと、はっきり言ってくれても良かったんじゃない?
私は思わず天井を見上げた。




