■第133話 異界召喚
私は、焼け焦げた地面に残された魔法陣へゆっくり近づいた。
「邪教徒の中にこんなの作れる人がいるってことですよね?」
『まぁ、魔神を召喚したような連中だからね。そういった儀式魔法にも精通してるんだろう』
「儀式? ってことはもしかしてこれ複数人で行う魔法なんですか?」
『ああ、おそらくね。どの程度の規模の儀式が必要かは実際に装置を見てみないとわからないけどね』
「じゃあ、ここに邪教徒が何人も来ていたってこと? ってことはまだ近くに居るかも知れないんじゃ?」
私が慌てて空へ飛び上がろうとしたら、ノエルに止められた。
『落ち着きたまえ!』
「えっ、でも……」
『もし時間差で発動するような装置だったらもう近くにはいないだろう』
「それは……確かにそうですけど」
『それより各国にその装置の事を知らせておくべきだと思うよ』
うーん、それもそうか
私は一度、周囲を見渡す。
気配察知には相変わらず何の反応もない。
冷静な頭脳担当がいてくれて助かった。
私一人だったらたぶん今ごろ森を全力で飛び回ってるよ。
「クレア! これはどういう状況ですの?」
聞き慣れた声が響く。
声の方へ視線を向けると、クロに乗ったアリスがこちらへ向かってきていた。
そして、焼け落ちた木々の間を駆け抜けるように、銀狼とセレナに乗ったルーナたちもやってきた。その後ろからはアデルとエルフの騎士たちの姿も見える。
「あっ、みんなこっちに来たんだ」
「それ、魔法陣ですの?」
クロから降りたアリスが召喚装置に目を向ける。
「えーと、これは――」
私は、ここで何が起きたのかを説明した。
フレア・ケルベロスが再度召喚されたこと。
魔法陣を止めるために、周囲の魔石を破壊したこと。
そして、この装置が邪教徒によって作られた可能性があること。
「なるほど、この魔獣はここから召喚されたんですのね」
アリスが倒れたフレア・ケルベロスへ歩み寄る。
「あっついですわ!」
「うん……学習して」
「何をですの?」
「さっきも近づいて熱がってたよね?」
「今回は大丈夫だと思ったんですのよ!」
「なぜそう思ったの?」
「なんとなくですわ!」
アリスは少し不満そうな顔をしながら、フレア・ケルベロスへ手をかざす。
「《ブリザード》」
――ゴォォォォッ!
強烈な吹雪が巻き起こる。
フレア・ケルベロスの巨体を包み込み、残っていた熱を一気に奪っていく。
「おお……」
アリスが魔法を使うところ初めて見たけど、なかなか凄いね。
あれだけの魔力なのに、周囲の木々にはほとんど影響がない。
やっぱり魔力制御が上手いんだな。
「ふふっ、これで近寄れますわよ」
吹雪が収まる。
私はフレア・ケルベロスに近づき、そっと手を触れてみる。
「こっ、これは……!」
そして思わず口から出た。
「キンキンに冷えてやがる!」
「……きんきん?」
アリスが不思議そうに首を傾げる。
「良く分かりませんわ」
……ですよね。
「いや、ごめん。一回言ってみたかっただけなんだ。はははっ」
しかし、さすがに冷やしすぎな気もするけど。
まあ、調べられる状態にはなったから問題ないか。
『クレア殿、そろそろいいかい?』
あっ、ノエルと通話中なんだった。
「すみません、ノエル殿下」
『いや、気にしなくていいよ。そちらの会話は聞こえていたからね』
「あら、ノエル殿下とお話し中でしたのね」
『やあ、アリスレート殿下。すまないがその魔法陣と魔獣の事を詳しく教えてもらえないかな?』
「ええ、わかりましたわ。クレア、魔法陣のことを詳しく教えてくださいな」
「えっ、私?」
「発見したのはクレアでしょう?」
「まぁ、それもそうか」
なんだか丸投げされた気がしないでもないけど。
確かに魔法陣が起動しているところを見たのは私だけだ。
とりあえず私は魔法陣の大きさや形状を説明した。
周囲に浮かんでいた紅い魔石のことも。
そして、召喚されたフレア・ケルベロスの特徴を説明していく。
『なるほど、外周は三重構造。そして召喚されたのは、炎を纏った三つ首の魔獣……』
「はい。起動中は周囲の魔石が紅く光りながら、ふわふわと浮いていました」
『それはおそらく禁呪だろうね』
「えっ? 禁呪?」
『ああ、私も本で読んだだけで実物は見たことないがね。今は禁呪として使用を禁じられている異界から魔獣を呼び出すという極めて危険な召喚術だ』
「異界からですか?」
『ああ。この世界の生物ではない存在を強制的に呼び出す術だよ』
ようするに異世界から魔獣を呼び出すってこと?
えっ、そんなのありなの?
いや、アウトだから禁呪なんだろうけど。
「あの、それってどの程度の魔獣まで呼び出せるんでしょうか?」
『それは術者の技量次第だろう。だが……』
そこでノエルの声が少し重くなる。
『レベル360の魔獣を安定して召喚できる時点で相当な使い手だろうね』
邪教徒にはビーストテイマーだけじゃなくそんなことが出来るやつまでいるのか。本当に厄介な連中だな。
私がそんなことを考えてる間にも、ノエルは話を続ける。
『下手をすれば四大魔獣クラスやそれ以上の魔獣を呼び出せる可能性もある』
「えっ、それ洒落にならないんですけど?」
『だろう? だから各国に対策の連絡を入れろと言ったんだよ。装置は魔石を壊せば止まるし。壊せば魔獣は弱体化する』
「わかりました、すぐに各国に連絡を入れておきます」
『ああ、頼んだよ』
その後、ノエルとの通話を終了して帝国、聖公国、ルグレシアに詳細を報告しておいた。
魔王国からは未だに連絡が来ていない。まだ到着していないのかもしれないので、今は向こうからの連絡を待つことにした。
「ふぅ、なんかもう玄黄捜索どころじゃなくなっちゃったね」
私がそう言うとアリスは目を伏せる。
「ですわね。まあ、それが狙いなのでしょうけど」
「うん。まんまと振り回された気がして悔しいけど、今日は戻ろうか?」
とりあえず魔獣はもう出てこないし、森の消火も終わっている。
それにエルフの騎士たちがもう少し辺りを捜索してくれることになったので私たちは一度シルフィードへ戻ることにした。




