■第132話 召喚装置
私はしばらく森の上空を飛び回っていた。気配察知に引っかかるのは、逃げ惑う弱い魔獣たちばかり。邪教徒らしき気配もなければ、フレア・ケルベロスみたいな危険な存在も見当たらない。
「でもあのフレア・ケルベロスはどこからやってきたんだろう?」
フレア・ケルベロスが現れた場所を辿れば何かわかるかもしれない。
そう思い眼下の焼け跡へ視線を向ける。
焼け跡を辿っていると、ふと違和感を覚えた。
「あれ?」
煙を上げる森を見下ろしながら首を傾げる。
「この燃え方おかしくない?」
前世の知識だけど、森林火災は風の向きによって扇状とか楕円形になるって聞いたことがある。でも目の前の焼け跡は風向きと逆方向に一直線に伸びている。
「もっと近づいて確認した方がよさそうだね」
私は高度を下げ、焼け跡をなぞるように低空飛行する。
ところどころまだ火が燻っていたのでそれを消火しながら進んでいると、焼け焦げた地面におかしなものが見えた。
「……何これ。魔法陣?」
近づいてみると、焼け焦げた地面には巨大な魔法陣が刻まれていた。
さらにその周囲には、紅い魔石がいくつもふわり、ふわりと宙に浮かんでいる。
まるで今も稼働中ですと言わんばかりだった。
「なんだか、えらいファンタジーな光景だな」
いや、感心してる場合じゃないな。これはどう見ても怪しい。ちゃんと調べないと……と思ったけど私に魔法陣の知識なんてないぞ、どうしよう。
私は目を閉じ腕を組む。
誰か呼ぶ?
アリス……はダメだな。
『切ればわかりますわ!』とか言って速攻で破壊しちゃいそうだ。
ルーナは……神聖魔法専門だし。
モニカならワンチャン知ってそうな気がしないでもないけど、どうだろうなぁ。
「うーん、誰か詳しそうな人……あっ! ノエル殿下だ!」
あの人なら絶対こういうの好きそう。
私はマジックバッグからマギフォンを取り出した。
――ピピッ、ピピッ。
――ピッ。
『はい、クレア殿かい?』
ワンコールで出たよ。もしかして暇なのか?
いや、今は早い方が助かるからいいか。
「ノエル殿下、突然すみません……」
『ああ。面白そうな予感がしたからね、マギフォンの前で構えてたんだ』
構えてたのか、ってか予感で電話に出る人初めて見たよ。
私は銀狼の森がフレア・ケルベロスに襲われた件を簡単に説明した。
「それで、今なんか魔法陣を見つけたんですけど。なんだかわかりますか?」
『ふむ、周囲に紅い魔石が浮いている……クレア殿、説明は後だ。今すぐその魔石を全部破壊したまえ』
「えっ、それってどういう?」
意味が分からずノエルに説明を求めた、その時。
魔法陣が突然、赤黒い光を放った。
「はっ? ……何これ?」
――ゴォォォォッ。
黒い霧が舞い、今にも何かが出て来そうな雰囲気だ。
「あっ、これ……嫌な予感しかしないんですけど」
『それは、おそらく召喚装置だ。装置を破壊しないと何度も召喚されるよ』
「ええっ! ちょっと待ってーーー!」
慌てて神剣を抜き放ち、魔法陣に向かったが。
黒霧が大きく渦を巻き、そして霧の向こうから灼熱の熱風が吹き荒れた。
「あっつぅー! ってか、またお前かぁぁぁ!」
熱風から逃れるため、私は思わず後方へ飛ぶ。
――ガオォォォォォッ!
元気な咆哮を上げながら、フレア・ケルベロスが再び目の前に現れた。
「はぁ、しょうがないな」
私は思わず額を押さえる。
「もう一回倒すしかないか」
三つの頭が私に視線を向けると大きく口を開いた。
「うん、それさっき見たよ《アイスプリズン》」
――ドォン!
巨大な氷の檻が出現し、フレア・ケルベロスを丸ごと閉じ込める。
私はさっきの戦いで学習したのだ。
そうだよ、氷使えばいいじゃん!
そう思ったので氷の檻に閉じ込めてみました。
「グオォー!」
しかし、氷の檻の内側から灼熱の炎が噴き出す。
ジュウゥゥゥッ――。
分厚く作ったはずの氷が、みるみる溶け始めた。
「えっ? マジですか?」
これやっぱり首切り落とすしかないのかなぁ?
『クレア殿、魔獣が再度召喚されてしまったのかな?』
どうしようか考えていたら、マントの内ポケットにしまったマギフォンからノエルが話しかけてきた。
「あっ、はい。今は氷の檻に閉じ込めて動けなくしてます。でもすぐ溶けちゃいそうで」
『敵が動けないなら今のうちに召喚装置を破壊したまえ。そうすれば魔獣はこれ以上出てこない』
「なるほど、魔石を全部壊せばいいんですよね?」
『ああ、そうだよ』
ふと檻を見ると、パッキっと氷の檻に大きな亀裂が走った。
「やばっ、急がないと!」
私は急いで魔法陣に駆ける。
魔石は全部で五個。
――バキッ!
まずは一つ。
そして二つ目、三つ目、四つ目。
そしてこれで最後!
――パリンッ!!
五つ目の魔石が砕け散る。すると、魔法陣から光が消えた。
「ノエル殿下、全部壊しました」
『よし、これで今現れてる魔獣も魔力の供給を受けられなくなって弱体化してるはずだ』
「おお! ほんとですか」
私は期待を込めてフレア・ケルベロスへ視線を向ける。
パキパキと音を立てて氷の檻が崩れ落ちる。
「グオォォォォー!」
フレア・ケルベロスの三つの頭が大きな咆哮を上げ、私を睨みつける。
えっ? めっちゃ元気そうなんですけど?
「あの……本当に弱体化してます?」
『いや、してるはずなんだが』
「まったく弱ってるように見えないんですけど? むしろ元気ハツラツなんですけど?」
『ハツラツ?』
「あっ、いえ。なんでもないです」
ノエルとそんな話をしていたら、巨体が私に突進してくる。
避けたら森がさらに燃えてしまう。
「とりあえず火を消そう。《ウォータージェット》」
――ザバァァァァッ!!
滝のような激流がフレア・ケルベロスを押し返す。
さらに飛翔魔法で空へ飛び上がる。
「《サンダーボルト》」
バチバチと紫電が走る。
「グギャァァァッ!」
フレア・ケルベロスが悲鳴を上げ倒れる。
「あっ、雷撃魔法効くんだ!」
しかし、フレア・ケルベロスはゆっくり立ちあがる。
だが、体に纏う炎の勢いが明らかに弱くなっている。
もしかして、魔力供給が止まったから回復出来ないのか?
「なるほど、ちゃんと弱ってるのね。だったら――。」
私はニヤリと笑い、空から神剣を構えて突撃する。
「今度こそ終わり!」
――ザシュ!
「グギャァァ!」
フレア・ケルベロスの頭が一つ宙に舞う。
「よし、あと二つ」
そのまま加速して、勢いを殺さず斜めに神剣を振り抜く。
――ズバァァァン!
残り二つの首を纏めて切り飛ばし、そのまま私は着地する。
ドスンッと音を立てて巨体が地面へ崩れ落ちる。
「ふぅ、倒せたかな?」
恐る恐る近づいて確認する。
倒れた巨体から炎は立ち上らない。
熱いので長い木の棒でつんつんとつついてみたが、動かない。
切り落とした首も再生する気配はなかった。
「装置も壊したし、これでもう大丈夫かな?」
『クレア殿、無事倒せたのかな?』
「あっ、はい。おかげさまでなんとか倒せました」
『さすがクレア殿だね。ところで……』
ノエルは一度言葉を切る。
『その装置、誰が作ったと思う?』
「あっ!」
私は焼け焦げた魔法陣を見下ろす。
確かにそうだ。
邪教徒たちはどうやってこんなものを作ったんだ?
それにもし同じ装置が他の国にもあるとしたら――。
私の背筋を、嫌な汗が一筋流れた。




